「マルタの鷹」
マルタの鷹
   1941・米
マルタの鷹

製作:ハル・B・ウォリス
監督:ジョン・ヒューストン
原作:ダシール・ハメット
脚色:ジョン・ヒューストン
撮影:アーサー・エディソン
音楽:アドルフ・ドイッチェ

出演:ハンフリー・ボガート
    メアリー・アスター
    グラディス・ジョージ
    ペーター・ローレ
    バートン・マクレーン
    リー・パトリック
    シドニー・グリーンストリート
    ジェローム・コーアン
    エライシャ・クック・ジュニア
    ウォルター・ヒューストン

スペードとブリッジ

アーチャーの妻アイヴァ

スペードは刑事達に疑われる

カイロ(ペーター・ローレ)



ガットマン(座っている男)





マルタの鷹
物語

サンフランシスコに探偵事務所を構えるサム・スペード(ハンフリー・ボガート)のもとへ探偵の依頼に訪れた謎の女(メアリー・アスター)。
「ニューヨークから来ました。妹を探してください。サーズビーという男と一緒ですの。二人は駆け落ちしました」 ワンダリーと名乗る女は言った。
ワンダリーは郵便局でサーズビーと会ったのだが妹とは会っていないという。「出来れば今晩ホテルに妹を連れてくるそうです」
そこへスペードの相棒マイルズ・アーチャー(ジェローム・コーアン)が帰ってくる。
「サーズビーは凶暴な男です。妹だって殺しかねないのです」 ワンダリーが訴えた。ホテルで8時に会うという。そこで妹を男から引き離せばいいのだ。アーチャーがその役を買って出た。

スペードは夜中の2時に電話を受けた。アーチャーが撃たれて死んだという知らせだった。スペードは秘書のエフィ(リー・パトリック)に電話をかける。
「アーチャーが殺された。ブッシュ街の角で。奥さんには君から伝えてくれ」

ブッシュ街でアーチャーの死体を確認するスペード。心臓を一発で撃ち抜かれていた。
「サーズビーという男を捜していたんだ」 スペードは刑事たちに説明した。
その二人の刑事は自宅に戻ったスペードのところへやって来た。
「お前の拳銃は」 「事務所にある」 「ここには無いんだな」 「家宅捜索するなら令状を見せてくれ。いったいなんのつもりだ」 「怒るな、これも仕事だ」 
刑事によると、スペードが帰った30分後にサーズビーが撃たれたのだという。「俺を犯人に仕立てるつもりか。アーチャーの仇を討ったと思ってるんだな。死んだのか」 「道路の反対側から背中を4発撃たれて死んだ」 

事務所に来たスペードにエフィが彼女が来ていると伝える。「駄目と言っただろう」 「仕方ないでしょ。一晩中お守りしてたのよ」
アーチャーの妻アイヴァ(グラディス・ジョージ)とキスを交わすスペード。
「主人を殺したのはあなた?」 「誰がそんな馬鹿なことを」 泣き崩れるアイヴァを慰めるスペード。「今日は家にいなくては駄目だ」 「あとで来て」 「できるだけ早く行くよ、さよならアイヴァ」

「アイヴァは俺がアーチャーを殺したと思ってる。警察もだ」 スペードはエフィに言った。「彼女が犯人かもよ。麻の3時に行ったら、奥さんは帰ったばかりだったの」 「本当か?」 
そこにワンダリーから電話が入る。アパートに来て欲しいという。
ワンダリーのアパートへ行ったスペードに女は言った。「実は大変なことをしてしまいました。昨日お話したことは嘘なんです」 「俺達も信じたわけじゃない。本名は?」 「ブリジッド・オーネーションです」
ブリジッドによれば、彼女は香港でサーズビーと会い、先週こちらに来たという。アーチャーを撃ち殺したのもサーズビーだ。「アーチャーを撃った拳銃はサーズビーのじゃない」 「別の拳銃を持ってたわ」「ふたつも?」 「商売ですもの。ヤクザの用心棒として東洋にやってきたのよ」 「狙われてるのか」 「まだ死にたくないわ」 
スペードはブリッジに有り金をよこせと命じる。「いいニュースを持ってきてやるよ、ここで待ってろ」

スペードの事務所に目のぎょろりとした小男がやって来た。ジョエル・カイロ(ピーター・ローレ)と名乗った。
「実はあるものを探しています。置物なんですが紛失しました。彫刻で黒塗りの鳥なんです。探してくれたら持ち主に代わって5000ドル支払います。訳は聞かない約束で」 「5000ドルとは大金だ」
スペードがエフィに帰るように命じた。直後、カイロが態度を豹変してスペードに拳銃を突きつけた。「手を上げろ。事務所を探す」 「いいとも」 瞬間、スペードはカイロを殴り倒した。スペードは柔ではない。カイロの持ち物を調べる。意識を取り戻したカイロ。
「・・・返してくれれば5000ドル払う、持ってるだろう?」 「いや」 「なら、どうして探させない」 「強盗は好きじゃない」 「持ち主に損をさせたくない」 「持ち主とは?」 「それは言えない」 「俺が鳥の置物を持ってると思ってるが間違いだ」 スペードは拳銃をカイロに返した。途端にカイロがまた豹変した。「手を上げろ、事務所を探す」 大笑いするスペード。「いいとも」

スペードは謎の人物とホテル・ベルベデーレで会った。ガットマン(シドニー・グリーンストリート)という巨漢だ。ガットマンはウィルマ(エライシャ・クック・ジュニア)という手下を従えている。最近スペードの後を付回している目つきの悪い男だった。ガットマンは『マルタの鷹』という鳥の置物のことに関して話した。
十字軍の時代に作られたこの置物には黄金が散りばめられており、海賊に奪われた後、1840年にパリで見つかった時は全身を黒いエナメルで塗られていたという。
そのまま所有者は転々とし、1923年にギリシャの美術商カリラオスがある店でこれを発見した。そのことをガットマンが知り、行方を追ったが黒い鷹は盗まれた後だった。
「それが17年前のことだ。どうしても欲しい。最後の所有者はイスタンブールのロシア人ケミドフだ。交渉したが売ってくれなかった。だから女を送った。鷹を奪った女は帰らなかった。しかし、私は諦めない」 スペードはガットマンに勧められるままに酒を飲む。
だが、その酒には毒が入っていた。ふらつくスペードの足をウィルマが蹴って倒し顔を蹴り上げる。スペードは気を失った。

スペードが目覚めたときは部屋には誰もいない。あたりを調べると新聞が目に入る。『午後5時35分、香港よりラ・パロマ号入港』の記事に印が付いていた。
スペードが駆けつけた時、ラ・パロマ号は炎に包まれていた。
「この船に乗ってきた女がいるんだが」 スペードは現場にいた刑事に告げた。「大丈夫です、全員無事です」 刑事は言った。

事務所に戻ってエフィから傷の手当を受けるスペード。そこへ突然、包みを持った男(ウォルター・ヒューストン)がよろけながら入ってきた。「・・・これが、鷹・・・」 男は包みを床に落としそのまま死んだ。
「これがマルタの鷹だ」 スペードは包みを開けようとしたとき、電話が鳴った。「ブリジッドよ、アンチョ街ですって、何かあったのよ、すぐ行ってあげて。この人、彼女のために死んだのよ」 電話はブリジッドの悲鳴とともに切れたのだ。スペードは包みを手に立ち上がる。「俺が出かけたら警察に電話しろ。ありのままを話せ。
」 「この男は?」 「ラ・パロマ号の船長だ」
スペードは郵便局の私書箱に包みを預け、アンチョ街に駆けつけるが、その住所は出鱈目だった。スペードがアパートに戻るとブリジッドが駆け寄ってきた。「近くに隠れていたの。もう戻らないと思ったわ」 
スペードの部屋にガットマンとカイロ、ウィルマが待っていた。
「みんな揃ったところで、ゆっくり話をしようか」 ガットマンが言った。

ガットマンは鷹を買う金ができたと1万ドルをスペードに渡した。
「話が違う」 とスペードが言った。「贅沢言うな。命あってのものだねだ」 「鷹は俺の手中にある」 「だけど、あんたは私達の手中だよ」 スペードは先に警察の追及をかわす必要があると言った。そしてウィルマを警察に渡すことにガットマンも同意した。
「話してくれ、何故サーズビーと船長を殺した。事件の全貌を知らないと後で困る」 ガットマンが話し始める。「サーズビーはブリジッドの相棒だった。サーズビーを殺せばブリジッドが折れて鷹を手放すと思ったのだ」
「船長は何故殺した」 「船長とブリジッドは香港で会っていた。新聞を見た時、カイロは総てを察した。船長が鷹を持ってくると」 「そこで俺を眠らせたのか」 「君は邪魔だった。カイロとウィルマを連れて行った。運よくそこにブリッジもいた。取り引きは難航した。ようやく成功したと思ったが、金を取りにホテルに戻る途中で船長とブリッジに逃げられたのだ」
「船に火をつけたのか」 「ウィルマが鷹を探して船内を歩き回った。その時マッチも使っただろう」 「殺しは?」 「ウィルマが数発撃ったが船長はタフな男でウィルマを殴り倒して逃げてしまった。そこで私はブリッジから船長がどこに行ったか聞き出したのだ。説得に時間がかかったがね」

 ガットマンはウィルマに言う。「息子のように思っていたが、残念だ。息子はまたできるが鷹はひとつだけだ」
スペードはエフィに電話をした。「朝早くごめんよ、郵便局の私書箱に預けてある。それを持ってきてくれ」
そして、エフィがそれを持ってきた。
期待の眼差しの中、ガットマンが包みを開けた。ナイフで表面を削る。しかし、発した言葉は。
「・・・偽物だ、鉛だ」 その置物は良く似せた偽物だった。

「手の込んだ冗談だな」 スペードが言う。カイロは泣きながら罵りの声をガットマンに向けた。「お前がケミドフから大金で買おうというから鷹の値打ちが分かってしまったんだ。
ガットマンは動揺したがすぐに立ち直った。
「ロシア人のやりそうなことだ。ここで悪口を言ってもはじまらん。イスタンブールへ行くか?」 「イスタンブールへ行くのか?」とカイロ。「17年間追い続けた鷹だ。もう1年かかったとしてもたいしたことではない」 カイロは感激する。
ガットマンは1万ドルを返すようスペードに言った。「手数料は貰っておくぜ」 スペードは1000ドル抜き取りガットマンに返す。
「イスタンブールに一緒に来てもいいよ。君はなかなか切れる男だ」 首を振るスペード。「そうか、別れは早いほうがいい。マルタの鷹は記念に置いていこう」

彼らが去ると、スペードは警察に電話を入れた。「情報を提供しよう。船長とサーズビー殺しの犯人はウィルマだ。ボスはガットマン、カイロも仲間だ。現在逃走中だ」
電話を切るとブリッジに向き直った。「真相を話してくれ、何故サーズビーを尾行した」 ブリッジはしどろもどろになる。「アーチャーは優秀な探偵だった。拳銃も抜かずに殺されるなんて。ヘマをやったのは君と一緒だったからだ。君のあで姿にやに下がっていたに違いない。そこをサーズビーに貰った拳銃で撃ったのだ」 「違うわ、撃つ気はなかったのよ。でもサーズビーが撃とうとしないので・・・」 「あいつの後釜の用心棒に俺を選んだ」 「それだけじゃないわ。あなたが好きだった。初めて会ったときからよ」 「運が良けりゃ20年もすれば刑務所から出られる。出たらきたまえ。その可愛い首が吊るされなきゃいいがな」 「え」 「絞首刑になったら時々思い出してやろう」 「やめて、冗談にもそんなこと」 「一度だけ教えてやろう。相棒が殺されたら男は黙っちゃいない。相棒が殺されたら犯人は逃がさない。それが探偵ってものさ」

そして刑事が二人やって来た。スペードはアーチャー殺しの犯人だといってブリッジを引き渡した。刑事の一人(ワード・ボンド)が鷹の置物を持ち上げて言った。「重いな、何だ?」 スペードは答えた。「夢が詰まってるのさ」
映画館主から

脚本家から映画監督に転進したジョン・ヒューストンの初監督作品です。
ハリウッドの中でもとりわけハードボイルドくさい香りが似合ったハンフリー・ボガートを主演にしたこの作品は、大当たりしてフィルムノワール映画の原点ともなりました。

私立探偵のもとへ訪ねてくる謎の女。『マルタの鷹』をめぐる得体の知れない男たち。複雑に絡み合ったストーリーを速いテンポでデビュー作とは思えない演出で展開していきます。
はっきり言って、説明不足の感があり、話の筋が分かりにくいのですがそこはフィルムノワール、スリルと雰囲気が満点なら文句はありません。

以後、男くさい映画を連発していくヒューストンですが、7年後の「黄金」でアカデミー監督賞を得ています。ちなみに同時にアカデミー助演男優賞を父親のウォルター・ヒューストンが受賞し、親子ダブル受賞の快挙をなしとげたのです。
ウォルター・ヒューストンは「マルタの鷹」でも船長役で出演しています。
詳しくはジョン・ヒューストンをご参照ください。

ハンフリー・ボガートは、それまでに29本の映画に出演していましたが、そのうちの半分は殺されるか死刑になる役でした。
しかし、「マルタの鷹」の探偵サム・スペード役で大ブレイク。惚れた女を警察に突き出す究極のハードボイルド・スタイルにしびれたのでした。
どう見ても美男子とは程遠いボガートの「カサブランカ」(’1942年)のかっこよさ。トレンチコートの襟を立て煙草の煙を吐き出すボガート。私が煙草をやめる気にならないのは頭の片隅にボガートのイメージがあるからに違いありません。
詳しくはハンフリー・ボガートをご参照ください。

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