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日本国憲法は、皇位が永遠に続くことを想定しているの?

皇位の安定的継承

 政府が、皇位の安定的継承の確保に向けた議論を行う有識者会議を設置するというニュースが報道されました。

 晩婚化や少子化の波は皇室にも押し寄せており、現在、皇位を継承する可能性のある皇族(現在の制度上は男性)は、高齢の常陸宮正仁親王は別にすると、秋篠宮文仁親王と、その子の悠仁親王しかいない状態であることもよく知られています。

 この皇位継承者を確保するため、一方では「女性天皇」や「女系(母方の血統だけで過去の天皇につながる)天皇」を容認すべきだという議論があり、また一方では男系を死守すべきだとして、旧皇族(第二次世界大戦後に皇族から一般国民になった、いわゆる伏見宮系統の人々。父方を遡ると南北朝時代の崇光天皇につながる)の復帰をするべきだという主張が出ていることも、この記事の読者の方ならご存じでしょう。

 ただどう考えるにしても、皇位は世襲ですから、天皇や皇族が結婚して子が産まれることが、皇位が代々続いていく絶対の前提条件です。

憲法は、皇位が永遠に続くと考えているのか?

 さて、ここで疑問を一つ考えてみることにしましょう。

 日本国憲法は、皇位が永遠に続くことを想定しているのでしょうか。

 大日本帝国憲法は、皇位について「万世一系」という言葉を使っていました。「万世」というからには、皇位が永遠に一つの系統によって受け継がれていくことを想定していたことは明らかです。

 一方、現在の日本国憲法はどうでしょうか。現在の憲法は、この「万世一系」という言葉は一切使っていないのですが、いうまでもなく第1条で、天皇は日本国および国民統合の象徴とされており、さらに第2条では皇位が世襲のものであることを明記しています。

 従って現在の憲法の条項を前提とするなら、帝国憲法と同じように、皇位が継承されて天皇が代々絶えることなく続いていくことが想定されているのは当たり前のようにも思えそうが、果たしてどうでしょうか。さらに検討してみましょう。

憲法は結婚する・しないの自由を保障している

 憲法24条を見てください。(最近の札幌地方裁判所の同性婚に関する判決でもこの条文が注目されたのは記憶に新しいところですが、本記事では同性婚については触れません。)

第24条1項 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 このように、「婚姻」(=結婚)が両性の合意のみについて成立するということは、結婚する両方の当事者だけの意思に基づくということであり、また両方の当事者が合意しなければ結婚はありえないということです。

 つまり結婚に親などの同意は必要ないし、また個人が希望しない結婚を強制されることもなく、結婚する・しないは個人の自由ということです。

憲法24条(結婚の自由)が憲法2条(世襲)のネックになる

 ここから何が導かれるかというと、「皇族との結婚を国民に強制することはできない」ということです。
 国民が誰も皇族との結婚を希望しない場合、結婚相手を強制的に連れてくることはできない(=まさに憲法24条違反になる)のですから、結局のところ、皇族の結婚相手がいなくなる事態が起こる可能性も日本国憲法は想定していると考えるほかないでしょう。

 少し言い方を変えて、次のようにも言うことができます。
 一般国民に与えられている基本的人権の保障が皇族には存在しません。そして一般国民の女性が男性皇族と結婚すれば、自分も皇族になるので、基本的人権の保障を失う(皇族としての特権は与えられる)ことになります。
 つまり、すべての女性が基本的人権を捨てるのを拒否した場合、男性皇族の結婚相手はいなくなるのです。

 (私の下記の著作の最後の部分では、この問題意識について詳しく触れています。)


 これは現在の男系男子しか皇位を継承しない制度を踏まえた言い方ですが、仮に女性天皇や女系天皇を認めたとしても、男女逆に考えれば同じことです。
 また旧皇族から新たに皇族入りしてもらうとしても、いずれ同じ問題が起こります。
 (旧皇族復帰案自体の問題点は次の記事参照)

 現代の日本には、天皇・皇族以外には一般国民しか存在しませんから(=昔の公家・大名や華族のような身分は存在しない)、一般国民が誰も皇族と結婚しなければ、次の世代が産まれないので、皇位を継承することもできなくなります

 憲法24条で「結婚(する・しない)の自由」が国民に保障されている以上は、憲法2条の「皇位は世襲」があるにもかかわらず、皇族の結婚相手が見つからず、皇位の世襲ができなくなる事態が起こりうるという限界があるわけです。

本当に皇位の継承がなくなったらどうする?

 さて、それでは本当に皇位継承者がいなくなったら、現実問題としてどうすれば良いのでしょうか。憲法自体は特に変更がなく、象徴天皇制が条文で定められたままになっているのに、天皇になる人が存在しないという事態がありうるわけです。

 天皇が行う仕事にもいろいろありますが、憲法上定められているのが国事行為であり、明確に決まっています。例えば内閣総理大臣の任命、法律の公布、国会の召集などです。

国事行為ができなくなったら?

 天皇がいないと、これらの国事行為ができなくなりますが、それによってどのような影響が出てくるでしょうか。これはケースバイケースで考えるのが適切でしょう。

 内閣総理大臣は、仮に天皇の任命がなくても、国会が議決して指名した時点で決まったものと考えれば良いでしょう。国会は国権の最高機関であり、主権者である国民が選ぶのですから、国会が指名した時にすでにその内閣総理大臣に正統性が与えられており、天皇の任命がなくても問題ないと考えることは可能です。

 ところが法律の公布については、そうはいきません。法律というものは、国会で法案を可決し成立させた時点で効力が自動的に発生するわけではなく、天皇が公布を行った日、または天皇による公布から一定期間経過した日から効力が発生するように決められているからです。つまり天皇の公布がないと、いつから実際に法律の効力が発生するか決まらない恐れがあります。

 そこまでいったら憲法を改正して正式に天皇制を廃止し、大統領制に変えて対応すれば良いと思うかも知れませんが、憲法改正の公布自体を行うのも天皇ということになっていますので(憲法96条2項)、天皇がいないと憲法改正の公布もできません

「摂政」制度を使って解決!

 このように、天皇が存在しないために国事行為ができず困ることになったら、どうすれば良いのでしょうか。

 解決策としては、「摂政」の制度を使うことが考えられます。まず憲法第5条を見てみましょう。

 第5条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

 そこで皇室典範を確認すると、次の条文があります。

第16条1項 天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
2項 天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。

この皇室典範16条2項の「重大な事故」という語句を、天皇自身が存在しなくなった事態も含むものとして解釈すれば、天皇がいなくなっても摂政が就任することで、国事行為を行うことができるようになります。

それでは、摂政はどのような人が就任することになっているのでしょうか。

第17条1項 摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一 皇太子又は皇太孫
二 親王及び王
三 皇后
四 皇太后
五 太皇太后
六 内親王及び女王
2項 前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。

 これを見ると、現在の皇室典範の定めでは、摂政も皇族(皇后や皇族女子を含む)が就任することになっています。皇位を継承できる男性皇族がいなくなっても、皇后や皇太后などの人々がいれば、摂政に就任することが可能というわけです。ただ、女性も含めて皇族が誰一人いない事態にまで至ってしまったら、摂政の制度もこのままでは使うことができません。どうすれば良いのでしょうか。

「一般国民から選ばれる摂政」を新設すれば良い

 これに対する打開策としては、この皇室典範17条を改正し、皇族でない一般国民が選挙その他の手段によって摂政に就任できるようにしておけば良いのです。(ちなみに平安時代から江戸時代までは、皇族ではなく藤原氏が摂政に就任していたことが知られています。)
 選挙によって一般国民の中から摂政を選出するようにすれば、以後はこの「一般から選ばれた摂政」が、天皇の代行として内閣総理大臣の任命や国会の召集や法律の公布などを行っていくことになるでしょう。

 これは、わざわざ憲法を改正する必要はありません。皇室典範は法律の一種ですから、国会の決議だけで改正し、「一般から選ばれた摂政」を実現させることができるのです。

 憲法には今の象徴天皇制の条文が残った状態でも、選挙で選ばれる摂政が、天皇のやっていた仕事(国事行為)をそのまま受け継いでいくことになるでしょう。天皇に代わって「一般から選ばれる摂政」が、日本国民の統合の象徴(の代行)として役割を果たしていくことになります。

 選ぶ手段は選挙に限る必要はなく、国会が選出するのでも良いでしょう。また内閣総理大臣、衆参両院議長、最高裁長官の経験者から選ぶという制約をつけることも考えられます。

(このアイデアは私だけでなく複数の人がほぼ同時に思いついていたようで、twitter上で1~2年くらい前に話題になっていました。)



 


 

 


 

よろしければお買い上げいただければ幸いです。面白く参考になる作品をこれからも発表していきたいと思います。

コメント

ボン
妥協は必要でしょ?マルクス主義はイスラムに妥協したのだから天皇制に妥協して悪いことはない。天皇は労働者の象徴にしておかすべからずって憲法を目指すべきだったのさ…70年代に活動家は失敗したよ。根っこは226の青年将校とかわらなかったんやな。
美馬 弘
皇室典範の摂政と、前近代の人臣摂政は全く違う存在です。弁護士の癖に知らないようですね。
ボン
ネジハナさん、いささか皮肉がすぎました。非礼はお詫びします。Twitterでレイプ魔山口擁護派とやりあってたので攻撃的になってしまいました。あなたが天皇制に賛成か反対かにどうこういうつもりはありません。私が怒っているのはほり先生に対してです。
美馬 弘
衆参両院議長の摂政なんて、沙汰の限り。御降嫁遊ばした姫宮さま方がかつての班位に従い、摂政にご就任なさるべき。
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弁護士。著書『13歳からの天皇制』http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/sa/1076.html 記事についてのご意見等はhttps://twitter.com/ShinHori1 まで
日本国憲法は、皇位が永遠に続くことを想定しているの?|弁護士ほり
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