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<ユースク> スポーツ、左回りの法則

2021年8月9日 05時00分 (8月9日 05時00分更新)

  • 子ども用スニーカー「瞬足」の靴底=アキレス社提供。左右非対称にある滑り止めは左回りのコーナーで機能を果たしやすい
  • 中山競馬場の4コーナー
 陸上トラック競技、スケート、社交ダンスなどすべて左回りです。なぜ? 競馬には右左があります。どうしても知りたいです。(名古屋市西区、島田弘正、81歳)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期された後、開催された東京五輪。賛否両論がありましたが、ユースクにはスポーツへの素朴な疑問も寄せられました。 (佐々木香理)

陸上も野球もケイリンも右利きが多いから?

 東京五輪のさまざまな競技では確かに左回りが目立った。日本選手団の主将を務めた山県亮太選手らが出場した陸上をはじめ、野球、ソフトボール、ケイリン…。五輪競技以外でも競艇やオートレースは左回りだ。
 近代スポーツの歴史を振り返ると、19世紀後半の英国のオックスフォード大とケンブリッジ大による対校大会の資料では、会場を右回りに走る選手たちがスケッチで描かれている。近代五輪では、第1回となる1896年のアテネ五輪から、1904年のセントルイス五輪までは、同様に陸上競技で右回りだった記録が残る。
 だが、1908年のロンドン五輪では一転し左回りに変わった。12年に国際陸上競技連盟が創立。ルールが設定され、陸上競技は「左手を内側になるように周回する」と統一された。
 陸上競技などのスポーツ史に詳しい立命館大の岡尾惠市名誉教授(83)(体育学)は「右利きの場合は左足が軸になり、左重心となって自然と左回りに動きやすくなる。世の中は右利きの人が多いため、左回りが採用されたのではないか」とみる。

諸説「心臓が左側だから」

 ただ左回りが競技の主流となった由来は、諸説あるという。例えば「心臓が左側にあるため心臓を守るように走る方が楽」、「地球の北半球では自転に合わせて走る方が楽」などだ。
 過去に岡尾名誉教授らが取り組んだ滋賀県草津市内の小学生による駆けっこでの実験や、陸上経験者による実験では右利きは左回りが、左利きは右回りの方が速かったという。

左回り特化、子ども向け靴

 「調べた限り、全国の小学校の運動会は左回り」。総合プラスチック加工メーカー「アキレス」(東京都)のシューズ事業部シューズ第二営業本部の津端裕さんは、こう指摘する。
 同社は2003年、左回りに特化した子ども用スニーカー「瞬足」を発売。靴底に特徴があり、右足の内側と左足の外側に突起状の滑り止めが数カ所あり、左回りのカーブで走る時に足圧がかかるグリップになっている。子どもたちのスポーツの原体験となる運動会に着目して開発され、子ども靴としては異例のロングヒット商品に成長した。
 津端さんも同様、左回りの由来に「右利き大勢」説を支持。ただ「左利きの人が左に回りにくいという話は聞いたことがない」とも。
 左か右か−。読者の皆さんも、体力づくりを兼ねて走り比べてみてはいかが。

競馬は左右ばらばら

 一方、人間から離れて馬になると事情は変わってくるようだ。中央競馬では札幌、函館、福島、中山、京都、阪神、小倉の7競馬場が右回り、東京、中京、新潟の3競馬場は左回りで、右回りが優勢に。中部地方の地方競馬では笠松、名古屋が右回りとなっている。
 どうして左右が入り乱れているのか。中日スポーツ競馬担当の若原隆宏記者に理由を聞いてみた。すると、「競馬場の都合による」というのが答えらしい。広大な土地に競馬場ができた欧州では左や右が入り乱れ、日本でおなじみの楕円(だえん)形のコースばかりではない。一方、日本と同じく都市に近い場所にある米国の競馬場は楕円形な上にすべて左回りという。「スタンドをどこに配置するかなど競馬場を造る際の制約で右回り、左回りが決まる」と説明してくれた。

パドックは原則左回り

 コースは右左が入り乱れているが、出走前の馬を見るパドックは、国内では「ほぼ」すべて左回りだ。若原記者によると「馬を扱うのは左から」という慣例があるようで、騎乗や地上で手綱を引く場合は必ず馬の左側から行っている。

武士道由来の例外

 「ほぼ」としたのは一つだけ例外があるから。それは地方競馬の佐賀競馬場で右回りのパドックを持つ。佐賀県競馬組合の飯田健史係長は「言い伝えなのですが…」と前置きをした上で、鍋島藩の武士は利き腕の右手で刀を抜きやすいよう、常に左側に馬を置いていた伝統に基づくと教えてくれた。「武士道と云(い)うは死ぬ事と見つけたり」で知られる書物「葉隠」の精神が染み込んだ鍋島藩らしいエピソードだ。
 最後に若原記者が気になる情報を教えてくれた。右回りの大井競馬場(東京)が今年秋ごろをめどに設備を整備し、左回りにも対応可能になるという。運営する特別区競馬組合によると、双方に対応できる国内唯一の競馬場で、世界的にも珍しいという。
 人間側の都合で右回りでも左回りでも走る。競走馬はつらいよ…。 (石井宏樹)

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