親族に後継ぎはいないが、企業や事業は残したい。そんな中小企業経営者の思いに応える新しい形の事業承継が動き出している。その担い手はいずれも30代の若手起業家たち。中小企業問題を解決するため事業承継の新潮流に挑む人たちを追った。
滋賀県で住宅建設や不動産事業を手掛けるソブホールディングスの社長を務めていた創業者の奥文宏氏は今年4月、会長に就任した。まだ50代前半だが、経営を後継者に任せる決断を下した。
奥氏が設計事務所を立ち上げたのは1995年。その後、2005年に住宅の建設を始め、08年には不動産事業にも参入した。現在は注文住宅や建売住宅の建設・販売のほかリフォーム事業にも進出している。
後を継いだのは1987年生まれの平井裕章氏。奥氏と血縁関係はなく、ソブグループの従業員だったわけでもない。外部から後継者を招き入れた形だ。
平井氏は中小企業の事業承継を担うSoFun(ソーファン、滋賀県近江八幡市)の創業メンバーで、同社の取締役も務めている。SoFunは事業を承継するに当たり、ソブの株式の過半数を取得し、平井氏がソブの社長に就いた。
ソブグループの近年の売上高は4億〜6億円の水準で、経営が大きく悪化していたわけではない。にもかかわらず、奥氏は経営者としてはまだ若いとも言える年齢で経営を外部人材に譲ることを決めたのだ。
50代で外部人材に譲渡
奥氏は事業を承継した理由について「もともと自分で事業を立ち上げ、30代から40代は仕事が楽しく、スキルも成長してきた。50代に入り、良い人がいれば引き継いでもらいたいと考えるようになった」と話す。奥氏には子どもが2人いるが、「小さいときから、後は継がなくていいよと話していた」という。「他社の経営者などを見ていると、この厳しい時代に会社を経営していくには能力や野心がないと難しい」(奥氏)。
社内から後継者を引き上げるという方法もありそうだが、奥氏は「会社が大きくなってきて、建築ができる、不動産営業ができる、という人材はいる。ただ、会社の経営となると話は別で、お金の恐さを知らないと失敗してしまうかもしれない」と考えた。
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