「長い時間を仮設する」
・時間
休憩所2は、花崗岩をワイヤーケーブルで吊り下げてできる「石のパーゴラ」の下に、木造の分棟形式の来場者施設を並べる仮設建築物の計画である。
私たちは仮設建築物を、万博会期の半年間という短い時間の単位で考えるのではなく、人類や地球といった、なにかもっと原始的で、壮大なスケールの時間感覚で設計できないか、と考えている。半年間に原始的で壮大な時間感覚を重ねることで、「つくってこわす」という仮設建築物のもつ意味に変化をもたらすことができるのではないか、と。
・数万年前
「石のパーゴラ」に用いる花崗岩は、火山岩が地中奥深くでゆっくり冷えて固まることで生成される。生成には数万年〜数十万年という途方もない年月がかかる。
・ 400年前
400年前、大阪城が再建された。その石垣には、瀬戸内の島々で採れる様々な花崗岩が用いられている。石垣の石は、島々から大阪へと水上輸送されたが、当時の輸送技術では、その最中で海に沈んだものも多く、そうした石は「残念石」と呼ばれ、今も海の底に残されているという。
・半年間
会期は半年間、施工期間や解体期間も含めると、約1年半である。この1年半という時間を、石もつ数万年単位の壮大な時間と重ねて考えたいと思った。
花崗岩をワイヤーケーブルで宙吊りにすることは、例えば石貼りのように、人間が作業しやすいように石を加工することではない。ゴロゴロと、ゴツゴツとした石そのものを、ただ宙に浮かべることは、石が生まれて、「今」という時間に存在しているそのままの状態を宙に吊ることでもある。
また、宙吊りにすることは、石の時間を万博の間だけ、「仮止めするために設ける」と捉えることでもある。仮設建築物の意味は、ここで大きく変わるだろう。
宙吊りになった「石そのもの」である石たちは、水や風、光をコントロールすることで、一時的に人間にとっての豊かな環境をもたらす。
・約400年後
海に沈んだ大阪城の残念石は、海底に起伏を生み出す地形となり、そこに魚礁が出来ているという。会期後、石のパーゴラで使用した石も残念石と同様に、海に沈めることを計画している。
大阪城築城後、夢洲などの大阪湾の埋め立て事業により、大阪湾の海底の掘削が行われたため、海底には窪地が生じ、汚泥が沈澱し、循環が滞り、生態系が崩れている。その窪地に石を埋めることで、再び循環が生まれ、生態系の復活が期待できる。会期中に、人間にとって豊かな環境をつくっていた石は、数百年という時間軸の中で、海にとっての豊かな環境をつくることになるだろう。
・数万年後
石のパーゴラの石は、海底でゆっくりと風化していき、数万年後には無くなるだろう。この時間も、地球の時間と比較すれば、また短いのかもしれない。
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