衣珠は 頭にバカが付くくらい まじめな子で、まじめ=面白味に欠けるのか 友達が出来なかった。
授業参観などで学校へ行ったとき 一人でポツンといる光景を見るのは とても淋しかった。

私は 炊事が好きではない。
かといって やらない とか できないではなく 好きではないのである。
だから 衣珠には 小学校に上がったころから 包丁を持たせた。
そばで見ていると危なっかしいので 見ないようにした。
でも 包丁で指を切ったなどの記憶は無い。
初めは カレーライスから覚え 日曜日の朝は 炒飯を作り「ご飯できたよ~」の掛け声で 家族が眠そうに目をこすりながら 食卓に着く。これが我が家の日課だった。

中学校に上がり まだ1年生だというのに 衣珠は志望校を決めていた。
地元の総合高校の食物調理科である。
ここは 卒業と同時に 調理師の免許が取得できるとあって 志願者が多く 結構な難関だ。

衣珠は 塾には行かなかった。家庭教師も頼まなかった。
打診したことはあるが 本人が「自分の力でやってみたい。」と言うので そのまま見守ることにした。

衣珠には友達がいなかったこともあり 家の手伝いや プリン(犬)の散歩、それから空いた時間に 予習、復習、宿題などが 彼女の勉強スタイルだった。
推薦入試には落ちたものの その後の一般入試で 見事合格。衣珠は 自分の力だけで 合格を勝ち取った、