ジャニーズ性加害、テレビ各局の検証番組から見えたものは… 男性中心の価値判断、アイドルは「オンナ・コドモ」のもの
2023年10月14日 07時18分
ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川元社長による性加害問題で、NHKと民放キー3局は、自局の職員らに聴取し、問題が長年報道されなかった背景を探る検証番組を放送した。見えたのは、性加害を「芸能ゴシップ」と見下した旧来のニュース価値判断と、視聴率を稼ぐエンタメ部門などが報道部門に及ぼした影響力だ。識者は「再発防止のため、さらなる検証番組が必要」と説く。(川上義則)
NHKは、事務所が元社長の性加害を初めて認めた9月7日の4日後となる11日、報道番組で、自局の元職員、現役職員、民放関係者ら40人の証言の一部を紹介した。フジテレビは事務所が社名変更を発表した10月2日、ニュース番組で元司法記者の報道局幹部が当時を振り返った。
日本テレビは同4日、ニュース番組で、20年以上さかのぼり報道、制作、編成の担当者らの証言を放送。TBSは同7日の報道番組の一部で報道、制作、編成の元担当者ら80人以上の証言の一部を伝えた。
◆「ゴシップの一つ」と見下してきた報道部門
共通するのは、当時の関係者が、元社長の性加害を認めた2004年の東京高裁判決確定のニュース価値を極めて低くみていたことだ。フジの報道局幹部は「芸能事務所と出版社の裁判沙汰、スキャンダルの一つという認識しか持てなかった」と番組で振り返った。
こうした認識に、日テレの検証番組に出演した東京大大学院の田中東子教授(メディア文化論)は「日本のテレビや新聞は、男性中心のニュース価値判断で構成されてきた。ジャニーズのアイドルを応援する文化は『オンナ・コドモの低俗なもの』とみなされ真面目に扱われなかった」と指摘する。
◆エンタメ部門は事務所に忖度、報道にも影響
フジ以外の3局は、ドラマやバラエティーなどを制作するエンタメ部門や、事務所と向き合う編成部門による事務所への配慮も伝えた。田中教授は「TBSの検証で『ベテランのプロデューサーが事務所の人に平身低頭する姿を見て育ったので自然に自分もそうなる』との証言に衝撃を受けた。事務所の圧力を想定し屈服する関係性が印象的だった」とみる。
その配慮が報道に影響した例も挙げられた。日テレでは、今年3月に英BBCが性加害の特集番組を放送後、報道局内で問題を報じようとする動きがあり、現場担当者は事務所取材が必要と感じたが、日ごろ事務所と向き合う編成との相談が要るとためらい、動きは止まったという。4月に被害者が記者会見し初めて報道した。
田中教授は「民放の場合、制作や編成の部門は番組で視聴率を上げ、収益につなげている。そんな制作や編成部門の事務所への忖度 から、報道部門が萎縮させられた」とする。「制作や編成で稼がないと(資金を投じた)いい報道はできない。バランスの問題だが、この場合は是非の非の部分が突出した」
◆「枕営業やセクハラ、芸能界はそういうところ」
今回の性加害問題は、各局の姿勢が被害を大きくした面があり、田中教授はさらなる検証が必要と考える。「『他の事務所でも枕営業やセクハラの話はあると聞いた。芸能界はそういうところ』との証言もあったが、人権重視が求められる中、テレビ局は取引先の人権問題に対処しなければならない」と求めた。
13日現在、テレビ朝日とテレビ東京はまだ検証番組を放送していない。テレ朝は「検証のための特別番組を制作、放送の予定。日時などは決まり次第、報告する」とコメント。テレ東は「報道、制作、編成のOBも含めた社員などにヒアリングを行っている。放送などで公表するかは決まっていない」とした。
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