コラム:キャリー取引巡る混乱、次の市場急変を暗示
近年の金融市場の急変は、目がくらむようなさまざまな要因に起因している。パンデミック、戦争、英国の年金基金、そして直近では予想を下回る米雇用統計と円キャリー取引解消の組み合わせだった。だが、こうした諸々の要因の根底には一つの共通の流れがあった。写真は1月、ニューヨーク証券取引所で撮影(2024年 ロイター/Brendan McDermid)
[ロンドン 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 近年の金融市場の急変は、目がくらむようなさまざまな要因に起因している。パンデミック、戦争、英国の年金基金、そして直近では予想を下回る米雇用統計と円キャリー取引解消の組み合わせだった。
だが、こうした諸々の要因の根底には一つの共通の流れがあった。ヘッジファンドなど高いレバレッジを利かせた市場参加者が、マージンコール(追加担保の差し入れ要求)への対応に苦慮したのだ。こうしたことは今後も十分に起こり得る。
国際決済銀行(BIS)の研究者は「プロシクリカル・デレバレッジ(サイクルを増幅する負債圧縮)」と呼ぶ現象が、懸念すべき頻度で起きていることに繰り返し注目してきた。
BISは27日、今月5日の世界的な株価暴落に関する分析を公表。これによると、きっかけは一見ささいなものだった。2日発表の米雇用統計と、日銀のタカ派転換という大きな流れだ。雇用統計は弱い内容だったが、決して悲惨なものではなかった。日銀のタカ派転換は以前から十分に示唆されていた。
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それがどうしたわけか、世界的な株安を引き起こした。TOPIX(東証株価指数)は10%以上急落。人気が高まっていた人工知能(AI)・ハイテク関連株は時価総額が1兆ドル吹き飛んだ。
こうした値動きは先ほど指摘したマージンコールで説明できる。
まず、ヘッジファンドのレバレッジが高まっていた。米国のヘッジファンドの負債を示す指標は、パンデミック前の水準まで急上昇していた。
また、円などの低金利通貨を借り入れ、メキシコペソなどの高金利通貨建ての資産に投資するキャリー取引も膨らんでいた。BISの研究者はこうした取引の規模の特定を何度か試み、株価急落前の時点で2500億ドルだったという「大まかな概算の中間値」をはじき出した。これはおそらく低めに見積もった数字と考えられるという。
ヘッジファンドなどの市場参加者は、デリバティブを通じてこうした戦略を実行することが多い。ポジションに損失が発生したり、市場のボラティリティーが高まった場合、ディーラーや清算機関はリスクを減らすため、通常マージンコールを通知する。そうなると、ヘッジファンドなどの市場参加者は、往々にしてパニックのさなかにキャッシュが必要になり、損失が発生したポジションとは無関係のポジションを解消して追加担保を差し入れることになる。キャリー取引と米国株が巻き込まれたのはこのためだ。
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ちょっとしたボラティリティーがマージンコールを招き、それが広範な資産の売却と一段のボラティリティー上昇につながった。2020年3月と22年9月にも同様の自己増幅的なサイクルが米国債市場と英国債市場に影響を及ぼし、中央銀行が価格急落を抑制するため資産の購入を迫られた。
規制当局は繰り返し発生するこうした問題を警戒しているが、この問題はリスクを銀行から市場に移す08年以降の取り組みに関連したものだ。
バーゼル銀行監督委員会、決済・市場インフラ委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)理事会の3機関は1月、清算機関のマージンコールの予測可能性を高めるさまざまな措置を勧告した。
透明性は有益だが、それで根本的な力学が変わるとは思えない。マージンコールは市場をかく乱しており、それが終わる気配はない。
●背景となるニュース
BISの研究者によると、銀行を除く金融市場参加者への円建て融資は3月に2500億ドルに達した。これは円キャリー取引の大まかな規模を示す数値と考えられる。
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BISの研究者は、相次ぐマージンコールで問題が悪化したと指摘している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。