【橋本琴絵の保守主義入門】 王様としてのお父さん 昔,男と女がいた。男は女を求め,女は男に応じた。そして,子供ができた。男は父となり,女は母となった。そして,二人は子を愛した。 この家族が生きていくために,父と母は畑を耕し,家畜を飼い,この農耕と牧畜のための土地を守った。 そして老いて死ぬとき,愛する我が子へ父と母は財産のすべてをあげた。 ただ,「我が子」だというだけの理由で,全財産をあげることにした。 こうして,子供は田畑と家畜のいる土地をただ生まれたというだけで手に入れた。 これを相続という。 人間は,大昔から相続を連続した。中には,せっかくもらった財産を無意味になくしてしまう愚か者もいたが,決して減らすことなく,維持して,増やしてさらに生まれた子供に相続財産を託す者もいた。 こうして相続が連続すると,ただ自分の子供へ対してのみ影響した父権は,時代を経てやがて王権へと成長した。 いまや,父祖が耕した土地から生み出した作物と家畜の肉と乳によって,栄養と免疫を得て、真新しい数多の命も生まれた。 これらの新しい命や,また父祖の土地が産んだ食べ物によって命を救われた人々が,土地を耕し王権を守る兵士となった。 時代を経るごとに,最初小さな父権が強大な王権へと成長した。 こうして出来た集団を人は「国家」と呼んだ。 一方で,反対意見もある。 何もない原野に集まった人々が,野生から採れた食べ物を持ちあい,契約を交わした。そして,ある日突然王様や政府ができて,これを「国家」と呼ぶことにしたという。 だが疑問がある。何もないところで突然王様だという人がいても,人々はそれを王様だと認めるだろうか? この疑問に,ジョン・ロックの『統治二論』は答えていないが,ロバート・フィルマーの『パトリアーカ(民族の家長)』は明確に答えている。そう,最初の国王とは,最初の父親だった。 子供を愛する父親の気持ちが幾世代に渡り連続することで,王権は成長し,国王を頂点とした国家に発展する。 契約によってつくられた人の集まりは会社に過ぎず,そこに血は通わない。容易に分断されてしまうことだろう。 現代の私たちは,愛または契約によって家族になる。通常,愛と契約の両方を備えることが理想とされる。 男と女は情によって結ばれ,社会的経験則によって夫婦の契約を婚姻届への署名捺印によって証明する。 血の通わない男女には,時には契約が必要かもしれない。だが,親子の契約はあるだろうか。否,無い。 考えてみると,アダムとイブは結婚をしていない。日本神話の伊邪那岐と伊邪那美も結婚をしていない。情によって結ばれ,そして子供を産んだ。 私たちはしばし,人と人の関係性について悩むことがある。契約によるべきか,情念によるべきかだ。神話は情念による結合を支持している。いつから,私たちは契約を重視するようになったのだろうか。 それは,財産のあり方を巡るときに起きた。いくら情があるといっても,財産の帰属先までは感情によって決めることはできない。そこで,取り決めが必要だった。 しかし,契約が先か情念が先かを考えたとき,情念が先だろう。金と愛ならば,私たちの保守主義は愛に重きを置く。 父の在り方も同じだ。 確かに,お金のない父親は良くない父親だ。しかし,愛のない父親ほど悪いものは無い。子供を愛する意志を持たず,ただの動物的衝動によって意志を伴わずに子供をつくった場合,その父親の父権に実体は無い。 近代における結婚制度の失敗は,ここある。 ただ性欲を満足させるがための副産物として子供を得た獣に対しても,人間の父親同様の父権を与えたからだ。当然,行使すべきする能力の無い者に与えられた権利は濫用される。 飲酒による家庭内暴力,児童虐待に配偶者間暴力など,外部からは見えない蛮行は古今東西で繰り返されてきた。 これに反発が生じるのは当然で,いわゆる女権運動(フェミニズム)とは,酩酊した夫から暴力を受ける妻の互助を目的に設立された。 しかし、良き父親は子供を望み,子供を承認し、次に為すべきことは,相続である。この相続は,最初の相続かもしれないし,何百回,何千回目の相続かもしれない。 優れた父親とは,子孫に名前を覚えてもらうことができる。 これは容易なことではない。 父親の父親,そのまた父親と果たして何世代に遡って,「父の名前」を憶えているであろうか。 父の父を辿り,どこかで知らない名前となったとき,それは相続に失敗している。 あなたが名前を知っている「最初の父親」が,相続の開始時点だ。 貴族とは,何百年以上もその相続に成功している血筋をいう。愛のある血筋の証明なのだ。 もし,あなたが遠い過去の父親の名前を知らないのであれば,あなたの子が最初の相続人となる。 相続とは,単に財産を残すことだけではない。愛の伴わない金は,すぐにでも散財されてしまう。しかし,愛と共に受け継いだ財産は,尊いものだ。 国王は最初の父親であった。 ならばこそ,あなたの血もあなたが生存していて,生殖能力を持つ限り,国王となる可能性に欠けることは無い。 あなたが莫大な愛や金を子供に残せといっているのではない。ただ,子供を全力で愛すればいいのだ。 そうすれば,子供はあなたの名前を忘れない。あなたからしてもらったこと,愛された記憶は永遠に覚えている。 そして,あなたから命をもらったことを感謝する。もちろん,金はあるに越したことではないが,それ以上に必要なのは,愛なのだ。