「性別不合」の医師の診断規定、明確化 関係学会がガイドライン改訂

二階堂友紀

 トランスジェンダーの人たちが、ホルモン投与など性別移行に関わる医療を受ける際の医師の診断をめぐり、関係学会はガイドラインを改訂し、規定を明確化した。昨年10月の最高裁決定で、性別適合手術なしの性別変更に道が開かれるなか、診断の信頼性を担保する狙いがある。

 改訂したのは「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」。日本精神神経学会の性別不合に関する委員会と日本GI(性別不合)学会が合同で改訂作業を行った。29日ホームページで公表した。

 ガイドラインは1997年に初版がつくられた。改訂は2018年以来で、今回の改訂版は第5版にあたる。

 医師の診断は、ホルモン投与や手術を希望する場合などに必要となる。

 その診断を行う医師について、従来は、「十分な理解と経験をもつ精神科医が望ましい」「少なくとも1名はGID学会(現GI学会)認定医であることが望ましい」などとしていた。

 改訂版では、「日本精神神経学会が主催するワークショップおよび日本GI学会が開催するエキスパート研修会を受講していることが望ましい」と記した。そのうえで、手術なしで戸籍上の性別変更をする例が増えていることを受け、「戸籍の性別変更を行う際の医学的判断については、日本GI学会認定医またはそれに準じた診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有した精神科医」が診断するよう求めた。

 今回の改訂はもともと、国際的な疾病分類で「性同一性障害」が「性別不合」に改められたことなどを受けたものだ。その後、最高裁決定が出たことで、性同一性障害特例法の改正も念頭に置いた内容となった。

特例法の改正議論でも課題に

 特例法は性別変更に必要な五つの要件を定めているが、その前提として「診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する2人以上の医師」の診断の一致を求めている。与野党の改正議論では、手術要件を見直す代替策として、この「診断要件」の厳格化も課題になっている。

 公明党の「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」(座長=谷合正明参院幹事長)は、特例法改正に向けた見解のなかで、手術要件がなくなって性別変更の障壁が一部取り払われた場合、「『なりすまし』の可能性があるといった間違った認識がなされ」たり、「診断の正当性に疑いがかけられ」たりする恐れがあると言及。「診断の正当性を、より十分に確保する方法について検討する」と記した。

 自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」(委員長=高階恵美子衆院議員)も、特例法改正の方向性をまとめた報告書のなかで、「診断の適切性を確保するため、何らかの措置を講ずる必要がある」と指摘。認定医の資格や研修の修了などについて、家裁に提出する診断書に明記する方法を提案している。

 GI学会理事長の中塚幹也・岡山大教授は「ガイドラインに法的拘束力はないが、特例法の改正議論のなかで指摘されている『懸念』の払拭(ふっしょく)にもつながるのではないか」と話す。

 同学会の認定医は38人、このうち精神科医は15人。認定医や研修の機会を増やすことも課題だという。

 今回の改訂では、ガイドラインのタイトルを含め、「性同一性障害」の表記が「性別不合」と改められた。(二階堂友紀)

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この記事を書いた人
二階堂友紀
東京社会部
専門・関心分野
人権 LGBTQ 政治と社会