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日本初と言われるセクハラ裁判 歴史を変えたその判決とは

2024.08.27 公開

1980年代後半、社会を大きく変えた女性の一人が晴野まゆみさん。彼女は日本初のセクハラ裁判に臨んだ。今回はその過程を再現ドラマで紹介した。

1988年、まゆみさんは当時30歳。大学生向けの雑誌を作る小さな出版社で働いていた。男性と女性の平均年収にも開きがあり、早く良い男性と巡り合って結婚してほしいと親が女性に願っていた時代。まゆみさんは出版の仕事にやりがいを感じており、もし将来結婚しても仕事を続けたいと思っていたという。

しかし直属の上司である編集長はそれを快く思っていなかった。そして編集長から「遊び好きのくせに」などと頻繁に言われるようになった。

この頃からまゆみさんのありもしない噂が流れるようになる。それはフリーのライターや新聞記者と不倫をしているという噂話だった。

後輩女性からは「晴野さん、男にモテてるから仕事が来てるって言われてて…」と言われ、それを「編集長が言ってる」という。

当時、遅刻を繰り返す編集長に対しまゆみさんが意見することもあり2人の関係はうまくいっていなかった。そんな中、まゆみさんの働きぶりが評価されるようになったことで関係はさらに悪化。編集長はまゆみさんとの仕事にやりづらさを感じ、次第に退社を願うようになっていたのだ。

そんなある日、まゆみさんは編集長に呼びだされ、広まっている異性関係の噂を理由に彼女に退職を迫ったのだ。根拠もなく、編集長自身が広めていた噂…納得できないでいると、編集長は、まゆみのある過去について知っていると訴えた。それは過去に1度だけ経験のあった不倫の事実についてだった。

まゆみさんはそのことに後悔しすでに関係は解消していたのだが、編集長はその事実を引き合いにまゆみさんに対し退職を迫ったのだ。

まゆみさんは、すぐに編集長の上司である専務に相談した。だが、事態は思いもよらない方向に進んだ。まゆみさんは後日専務から「会社の空気を乱した」「ケンカ両成敗」と退職を促されたのだ。

その上、「男を立てることを学ぶように」と指摘までうけたまゆみさんだったが、数日後驚きの事実を知ることになる。なんと編集長は3日間の謹慎のみで仕事に復帰していたのだ。

そのことを友人に話しても、友人男性は「仕方ないだろ?会社は男が回してんだし、そんなことよくあるだろ?」、友人女性は「たかだか数年でしょ?そんなに仕事頑張る必要ないじゃん」という反応が。母親にも「とにかくもう忘れて、次の職でも探したら?」と言われる。

大好きだった出版の仕事、一方で狭い業界のため噂は広がっているかもしれず、それでは仕事などできない。やはり編集長に嘘の噂を流したことを認めさせなければと民事調停を思いつく。調停員が間に入り話し合いで解決をはかる方法だが、調停員に相談しても「若くて奇麗なら男女関係を噂されても仕方ない。嬉しいことじゃないですか」とまるで話にならなかった。

まゆみさんは弁護士に相談するが、「やはり録音など物的証拠がないと」と言われる。

この頃、時代は昭和から平成に移り変わった。そんなある日、ある記事に目が留まったまゆみさん。

それはこの年開業したばかりの法律事務所。これでダメなら諦めるしかないと思うまゆみさんに対応してくれたのは辻󠄀本育子弁護士。辻󠄀本弁護士は「名誉棄損なら恐らく負ける、ただ別の方法ならあると思う」「これは明らかに性差別」「背景にはあなたが女性であることが含まれていると思う」と強く伝えてくれた。

辻󠄀本弁護士は女性であることによる就職差別を受けた経験があり、 弱い立場で苦しむ女性たちの力になりたいと弁護士になっていた。

辻󠄀本弁護士からは「嫌な思いをしている人が我慢をすること、それは当たり前ではない。でも、それでも勝てるかどうかわからない。どう?やる覚悟はある?」と尋ねられ、まゆみさんは覚悟を決めた。

そして、被害を証明できる人と支援者を集めることになった。しかし女性社員から証言は集まるも裁判となると証言してくれる人はほとんどいなかった。

一方で、まゆみさんは支援者を募るため、女性たちに職場で嫌な思いをしたことがないかアンケートを実施。するとこれまで多くの女性たちが声を上げられず我慢し続けていたことを知った。これは自分だけの闘いではないと思ったという。

こうして、辻󠄀本弁護士の働きかけもあり 数多くの支援者や女性弁護士が集結。

辻󠄀本弁護士は「今の社会の常識で判断されると勝ち目はない。これは社会の常識が問題だと訴える。今、世界ではこういった女性に我慢を強いる性的いやがらせは大きな問題になっている」と伝えた。

セクシャルハラスメントは1970年代にアメリカで誕生し、 1976年、男性上司の性的嫌がらせが性差別にあたるとの判決が下されたことを きっかけに世界に広まった言葉。 当時、日本でもセクシャルハラスメント、 通称「セクハラ」は話題となっていて辻󠄀本弁護士は、まゆみさんの事例が このセクハラに該当すると確信。

こうしてまゆみさんたちは「職場での性的嫌がらせと闘う裁判を支援する会」を結成した。

1989年8月、編集長と会社を相手取り「性的嫌がらせは不法な行為」として提訴したまゆみさん。世間からの反響は大きく批判の声もあった。

そんな中、日本初と言われるこのセクハラ裁判が始まった。誹謗中傷から守るため当時異例の匿名で行われたこの裁判。元上司や会社側の弁護士は全員男性で、対するまゆみさん側の弁護団は全員女性。

裁判で編集長は中傷発言自体を否定。これに対し、まゆみさんには、録音などの明確な証拠がなかった。さらに編集長はまゆみさんの人格を否定し告発自体が信用できないと主張した。

そして編集長側の弁護士はまゆみさんに何度も「お酒はどれくらい飲むんですか?」「何時くらいまで飲むんですか?」などと尋ね、酒好きで派手な女性と印象づける作戦を行なっていた。まゆみさんはごく普通にお酒の席を楽しんでいるだけだったが、当時はそれが“はしたない”行動だとされることも少なくなかったのだ。 

まゆみさんの弁護団は、色々な人との不倫の噂について編集長が本人には確認せず上司に報告していたことを認めさせた中、実質的なクビを宣告したとされる専務が出廷した。専務は「そもそも晴野君は自分でやめると言い出したんですが」と言い出す。

実は明日から来なくていいと言われた数日後、まゆみさんは専務に呼ばれ、解雇は(まゆみさんにとって)汚点がつき不利だろうと、自己都合による退社の欄にサインをしてしまっていたのだ。

そんな中、裁判開始から1年半、まゆみさんたちの反撃が始まった。

証人として現れたのはまゆみさんの後輩だった女性。証人依頼を断る人もいる中、彼女だけがこの裁判への出廷を了承してくれていたのだ。 噂話について編集長から「多く聞きました」という第三者の証言は大きな後押しとなった。

編集長サイドも新たな証人を出廷させてきた。それは編集長の学生時代からの友人だという男性だった。 彼は以前から出版社によく出入りしていて、既婚者にも関わらず当時まゆみさんに迫っていたことがあり、そのしつこさに負けまゆみさんは「今、付き合っている人がいる」と仕方なく自身の不倫を打ち明けてしまっていた。その編集長の友人は、まゆみさんがいかにふしだらな女であるかを大袈裟に話し始めた。

この証人の言動にまゆみさんの支援者たちも黙っていられず、裁判後直接話をしに行った。そしてその場で失笑されたことに怒りがこみあげたまゆみさんは、思わずこの男性を平手打ちにしてしまう。

このことはすぐにメディアに取り上げられた。辻󠄀本弁護士は「例えどんな証言であろうと暴力で否定することはできない!とにかく謝罪をすること」と伝えながらも、諦めずに、今後女性たちが声を上げられる日本を作るため、弁護団は勝つための方法を必死に模索した。

迎えた判決の日。被告及び被告会社は、原告に対し連帯して165万円の金員を支払えという判決。なんと、編集長だけでなく会社にも損害賠償としての支払いが命じられたのだ。実質的な勝訴だった。

画期的だったのは、直接体に触れるなどの行為だけでなく言葉によるセクハラも認められた事、そして編集長に加え、会社にも責任があるとしたことだった。

一体、なぜこのような判決となったのか。この時、裁判長をしていた川本隆さんに聞くと「(裁判が)始まった時はいわゆるイジメのたぐいの事件だろうと受け止めてた」と話す。

だがこの裁判中、会社側の弁護士がまゆみさんに、「女性がそれほど飲むことに対して恥ずかしいと思っていない?」と、まゆみさんが「なぜ女性がお酒を飲んだらいけないんですか?」と問い返した際に疑問を持ったという。そしてその疑問が日本の歴史を変えた。

裁判では、辻󠄀本弁護士が「この裁判は単なる個人的な争いだけの話じゃないんです。女性に対するいやがらせ、それは性差別を背景にした社会構造の仕組みで行われており、多くの女性たちが抱えている問題でもあるんです」と伝えていた。

川本さんは“なぜ女性だけが夜遊びをしてはいけないのか?”と考え、また“会社は円満に働ける環境を作らないといけない、そこにいくとこの事件はいわゆる労働事件になる”と判決までの間、海外での事例を読み漁り、日本の感覚が遅れていると感じたのだった。

こうして、日本初と言われるセクハラ裁判は会社側の管理責任も問う社会全体の課題を浮き彫りにした。

この裁判が一つの要素となり5年後の1997年には、男女雇用機会均等法の中に、事業者はセクハラ防止の為、配慮する義務があるとする規定が新設された。

現在は自ら立ち上げた編集プロダクションで働くまゆみさん。この裁判に対しての想いを聞くと「私の闘いというのは、女性みんなが思っていることであり、性差別というものに対しての闘いだったと思ってます。男女の分断というように煽ってくるというのも(声も)あったんですけど、私は決してそうじゃない。むしろお互いが理解し合う。手を取り合ってほしいというのが願いです。今も変わらないです」と話してくれた。

現在、企業や大学生たちに向け講演活動も行うまゆみさん。分断ではなく、お互いが痛みを理解し、分かり合う社会が来ることを願っている。

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2024年8月29日 時点

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