サイエンス

2024.08.25 16:00

光合成ではない、光の届かない深海で作られる「暗黒酸素」を発見

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この発見は、タッチスクリーンや充電式バッテリー、その他の電子機器に使用されているコバルト、ニッケル、銅、リチウム、マンガンといった元素が含まれている多金属団塊と呼ばれる深海の鉱床を中心とした研究によるものだ。本研究に関わった科学者らは、これらの微小なものから小さなジャガイモくらいまでさまざまな大きさの団塊が、放電していると考えている。

「これらのジオバッテリーは、海洋におけるdark oxygen(暗黒酸素)の生成について考えられる説明の根拠となっています」と研究チームのフランツ・ガイガーが声明で述べる。

深海の多金属団塊には、マンガン、銅、コバルト、ニッケルを含むさまざまな鉱物が含まれている(Getty Images)

深海の多金属団塊にはマンガン、銅、コバルト、ニッケルを含むさまざまな鉱物が含まれている(Getty Images)

ノースウエスタン大学で物理化学を研究するガイガーは、以前、金属酸化物の薄い層の上に水を流すことで電気を生成した研究者の1人だ。ガイガーのチームがクラリオン・クリッパートン海域の海底から採取した団塊で実験した際、1つの団塊の表面で最大0.95ボルトの電圧を記録。さらに団塊を集合させることではるかに高い電圧を生み出すことができた。

ガイガーは、多金属団塊が大きくなる際に電荷を帯びると推測している。他の理論を排除した結果、ガイガーとスイートマンは、海水の電気分解で水が水素と酸素に分離された結果、暗黒酸素が生まれる可能性が高いと考えている。

今回の発見は、研究者たちを興奮させているだけでなく、深海採掘業界も注目されるに値するものだという。

米国海洋大気庁は、海底の採掘は「採掘地域の生命と生息地の破壊につながりかねない」と警告している。海洋環境の保護を目的としている国際海底機構は、すでにクラリオン・クリッパートン海域の一部を深海採鉱から保護するよう指定している。

「深海生命の酸素源を枯渇させないために、深海採鉱の方法を再検討する必要があります」とガイガーはいう。

さらなる研究が必要

深海採鉱に関わるビジネスや財務の責任者たちに助言を与えているカナダの団体Deep Sea Miningのコンサルタント、フィリップ・ゲールズは、深海採鉱に関する議論を尽くした研究を歓迎するが、一連の発見がさらに研究されることを望んでいると語った。

「この新たな研究は、深海の生態系に対する私たちの理解を深める可能性がありますがが、適切な査読と批判によって誤解なく理解される必要があります。たとえば、これは非常に小規模な実験であり、結論を出すためには大規模な検証実験が必要です」とゲールはいう。

スクリップス海洋研究所でレビンと同僚のダグラス・バートレットも、長い時間をかけてどれだけの量の暗黒酸素が生成されたのか、太平洋以外の海底鉱床でも同じことが起きているのかを知りたいと考えている。「そうすることでモデル作成者は、このプロセスの世界的な重要性の推定を始めることができるでしょう」とバートレットがインタビューで語った。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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宇宙

2024.08.24 15:00

天王星の衛星アリエルに「地下海が存在」か、JWSTで証拠発見

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天王星の衛星アリエル。NASAの惑星探査機ボイジャー2号が1986年1月24日に約13万kmの距離から撮影(NASA/JPL)

天王星を公転する氷衛星アリエルの内部に、液体の地下海が存在する可能性があることを示唆する、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の最新の観測結果が発表された。

アリエルは、確認されている天王星の衛星27個のうちの1つ。天王星は太陽から7番目に位置する、太陽系で3番目に大きい惑星だ。アリエルとともにウンブリエル、チタニアとオベロンという天王星の4衛星は、太陽系で海を探すプロジェクトの一環として、以前より科学者の関心を集めている。

アリエルは、英劇作家ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『テンペスト』の登場人物にちなんで命名されている一方、チタニアとオベロンはシェイクスピアの『真夏の夜の夢』にちなんで名づけられている。

二酸化炭素

現在進行中の観測プロジェクト「Moons of Uranus(天王星の衛星群)」の一環として、今回の研究ではJWSTを用いてアリエルを含む天王星の4つの衛星を21時間観測し、アンモニア、有機分子、水や二酸化炭素の氷(ドライアイス)などの痕跡を探索した。

天王星の軌道領域では、ドライアイス(固体二酸化炭素)が存在する可能性は低いと考えられる。太陽からの距離が太陽地球間の約20倍離れているこの領域でも、ドライアイスは昇華して気体となり、宇宙空間に飛散するからだ。

しかしながら、峡谷や地溝帯や平坦領域などがあるアリエルの表面にドライアイスがあることが、過去の調査で明らかになっている。ドライアイスは特に、潮汐固定の状態にあるアリエルの公転方向の常に逆を向いた側(後行半球)に濃く堆積している。

液体の海?

このドライアイスの起源は明らかになっていない。だが、天文学誌The Astrophysical Journal Lettersに掲載された今回の研究論文では、アリエルの表面下にある液体の海が起源である可能性があると主張している。過去の研究で提唱されている別の仮説では、天王星の磁気圏内で放射線によって分子が分解される「放射線分解」で、アリエルのドライアイスが生成・供給されるとしている。

さらに、アリエルの堆積物の中から、もう1つ謎の物質が見つかった。一酸化炭素の明確な兆候が初めて確認されたのだ。「それは、そこにあるはずのないものだ」と論文の筆頭執筆者で、米ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のリチャード・カートライトは指摘する。「一酸化炭素が安定するには、絶対温度30ケルビン(マイナス243度)まで温度を下げなければならない」という。アリエルの表面温度は平均して、それより65度前後高くなっている。
次ページ > 海を持つ可能性があるのは地質学的に活発な天体のみ

翻訳=河原稔

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宇宙

2024.08.23 10:30

NASAの火星探査車、クレーターの縁を登る壮大な旅へ

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NASA/JPL-Caltech/MSSS

火星では、平地を移動するだけでも大変だ。砂まみれでほこりっぽく、岩がちで、風が強くて寒い。米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス(Perseverance:「不屈の努力」の意味)」は今、これらすべての条件に挑もうとしている。

今回の挑戦では、ジェゼロ・クレーターの縁を上まで登る。NASAは8月中旬、パーシビアランスの野心的な行程を発表した。標高差300m以上、最大23度の傾斜を登り切る計画だ。

パーシビアランスは2021年2月、ジェゼロ・クレーターに着陸。以来、クレーター内部で古代の湖や三角州を探査してきた。そして、今度はクレーターの西の縁を目指している。

プロジェクトマネージャーのアート・トンプソンは8月14日付の声明で、「パーシビアランスは4回の科学調査活動を完了し、22個の岩石コアを採取し、未舗装の地面を30km近く移動した」と説明。「今回、(クレーターの縁を目指す)クレーター・リム・キャンペーンを開始するにあたり、探査車はとても良い状態にある。クレーターの上に何があるかを見られる日を心待ちにしている」と述べた。

ジェゼロ・クレーターの西の縁を目指すパーシビアランスのルートを示す地図。地図の右上から左下に向かう。NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

ジェゼロ・クレーターの西の縁を目指すパーシビアランスのルートを示す地図。地図の右上から左下に向かう。NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

クレーター・リム・キャンペーンは今週中にも始まり、目的地への到達には数カ月かかる見込みだ。NASAによれば、「パーシビアランスがこれまで遭遇した中でも最も急斜面で、最も困難な地形」が待ち受けている。クレーターの頂上には、大きな科学的発見が待ち受けているかもしれない。NASAは「トゥルキーノ山」と呼ばれるエリアに関心を持っている。そこには古代の割れ目があり、大昔の熱水活動に関連があるのではないかとみられている。
次ページ > もう一つの注目エリア「ウィッチ・ヘーゼル・ヒル」

翻訳=米井香織/ガリレオ

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宇宙

2024.08.22 10:30

火星で海洋相当量の「液体の水」発見、生命存在の可能性も 利用には大きな難点が

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ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した火星(NASA/ESA and The Hubble Heritage Team STScI/AURA)

火星には、表面全体を均等に覆うと深さ1km以上の海になるほど大量の水が存在することを示す証拠を発見したとする最新の研究結果が12日、発表された。この水には理論上、地球外生命が存在する可能性があるという。

重要な事実

米国科学アカデミー紀要に掲載された査読論文によると、米カリフォルニア大学のバークレー校とサンディエゴ校の研究チームが、火星の地下深くに大量の液体としての水が潜在する証拠を発見した。

研究チームは、米航空宇宙局(NASA)の着陸探査機Insight(インサイト)が収集した、火星の地震(火震)や火山性の地鳴り、隕石衝突などに起因する地震データと、地球の地下にある帯水層や油田の地図作成に用いられる岩石物理学の数理モデルを使って、火星の地下深部に貯水層が存在する証拠を突き止めた。この水は、火星の地下深くにある地殻の小さな割れ目や隙穴の中にある。

火星の内部構造の探査を目的としたNASAの着陸探査機インサイト(InSight)と火星地下の断面を描いた想像図(IPGP/Nicolas Sarter)

火星の内部構造の探査を目的としたNASAの着陸探査機インサイト(InSight)と火星地下の断面を描いた想像図(IPGP/Nicolas Sarter)

水は火星の地表から深さ11.5~20kmの範囲に位置することがデータから示唆され、既存の技術では採取できない可能性が高いため、未来の火星植民地ではほとんど利用できないと思われると、研究チームは指摘している。

それにもかかわらず、今回の発見は火星の歴史に関する重要な詳細を明らかにするものであり、もし水の採取が可能になれば、火星の地球外生命探索のための有望な場所となると、研究チームは述べている。

論文執筆者の1人で、カリフォルニア大バークレー校地球惑星科学部の教授を務めるマイケル・マンガは「もちろん(今回発見された地下水は)生命存在可能な環境に違いないと考えている」として、「地下深くの鉱床」や「海底」のような地球上の深部環境にも生物が生息していると指摘する。

「火星の生命の証拠はまだ見つかっていないが、今回の研究では少なくとも、生命の維持が原理上は可能なはずの場所を特定できた」と、マンガは述べている。

火星の水に何があったのか

現在の火星は乾燥した不毛の地だが、かつてその表面を大量の水が流れていたことを示す証拠が数多く存在する。証拠の大半は、火星表面の構造の調査から得られたものだ。火星表面では、河川や海や湖の明確な痕跡があるだけでなく、液体の水の中でのみ形成される可能性のある組成の鉱物が見つかっている。地球の生命にとっては液体の水が必須なので、湿潤な火星が地球外の微生物に適した状態だった可能性があり、地球外生命探査の重要な候補地の1つだと、多くの研究者が考えている。

一部の水は、大部分が地殻の鉱物内に閉じ込められていたり、極地の氷冠に凍結されていたりする状態で今でもまだ火星の表面で見られるが、これは数十億年前に表面を流れていた水のほんの一部にすぎないと、科学者は考えている。火星の海は、30億年以上前に大気が失われた時代に蒸発して宇宙空間に流出したと多くの科学者が考えている一方、今回の研究では、宇宙に流出したのではなく、その水の多くが地殻内部に浸透したことが示唆されると、研究チームは指摘している。
次ページ > 火星の進化の解明には水循環の理解が不可欠

翻訳=河原稔

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