大河ドラマ「光る君へ」において、物語が大きく動く舞台のひとつ後宮。風俗考証を担当する佐多芳彦さんに、後宮とそこに住まう后妃の呼称について伺いました。
――後宮はどこにあるのでしょうか?
朝廷の諸官庁が置かれた大内裏(だいだいり)の一角に天皇の住居である内裏(だいり)がありますが、仁寿殿(じじゅうでん)と承香殿(しょうきょうでん)の間を境として、南側が政(まつりごと)の場、北側が天皇の后(きさき)らが暮らす後宮となっていました。天皇はもともと仁寿殿で暮らしていたのですが、何らかの事情があり、平安時代中期までに清涼殿(せいりょうでん)へ引っ越ししています。
近衛府(このえふ) … 内裏内の警衛、および、行幸の際の供奉(ぐぶ)を担当する機関。
衛門府(えもんふ) … 大内裏内の警衛、および、行幸の際の供奉を担当する機関。
兵衛府(ひょうえふ) … 内裏周囲の警衛、および、行幸・行啓の際の供奉・雑役を担当する機関。
――後宮の中で最も格が高い場所はどこでしょうか?
後宮は七殿五舎(しちでんごしゃ)とも呼ばれますが、最も格が高いのは弘徽殿(こきでん)です。清涼殿に近く、天皇の警護や内裏の警固を行う武士の詰所である滝口陣がそばに置かれています。
◆◆ 後宮の主な御殿 ◆◆
【弘徽殿(こきでん)】
後宮の殿舎のひとつ。清涼殿に近く、高い身分の后妃の御殿となる。
【登華(花)殿(とうかでん)】
後宮の殿舎のひとつ。弘徽殿の北に建つ。
【凝花舎 [梅壺] (ぎょうかしゃ/うめつぼ)】
後宮の殿舎のひとつ。壺(中庭)に紅白の梅を植えたことから「梅壺」ともいう。飛香舎(ひぎょうしゃ)の北に建つ。
【淑景舎 [桐壺] (しげいしゃ/きりつぼ)】
後宮の殿舎のひとつ。壺(中庭)に桐を植えたことから「桐壺」ともいう。清涼殿から最も遠い。
【昭陽舎 [梨壺] (しょうようしゃ/なしつぼ)】
後宮の殿舎のひとつ。壺(中庭)に梨を植えたことから「梨壺」ともいう。女官の詰所であったが、東宮の御在所にもなった。
【飛香舎 [藤壺] (ひぎょうしゃ/ふじつぼ)】
後宮の殿舎のひとつ。壺(中庭)に藤を植えたことから「藤壺」ともいう。
――後宮で暮らす后妃の呼称について教えてください。
後宮で暮らす后妃は立場によって、太皇太后、皇太后、皇后、中宮、女御(にょうご)、更衣(こうい)と呼称が変わります。后妃には女房という女性が仕え、それぞれサロンを形成していました。藤原道隆の娘・定子には『枕草子』を著した清少納言、藤原道長の娘・彰子には『源氏物語』を著した紫式部が女房となり、奉仕しています。
◆◆ 后妃の呼称 ◆◆
【太皇太后(たいこうたいごう)】
先々代の天皇の后(きさき)。本来は天皇の祖母で后にのぼった者。あるいは皇后から皇太后、さらに太皇太后にのぼった后。
【皇太后(こうたいごう)】
前天皇の皇后、あるいは現天皇の生母。
【皇后(こうごう)】
天皇の正妻。立后(りっこう/冊立[さくりつ])の儀を経て皇后となる。
【中宮(ちゅうぐう)】
もともとは太皇太后、皇太后、皇后の住まいのこと。転じて三后の別称となる。皇后とほぼ同格。
【女御(にょうご)】
天皇の寝所に侍する后妃の位。皇后・中宮に次ぐ。女御は、親王または大臣の姫君。
【更衣(こうい)】
天皇の后妃の位。女御に次ぐ。更衣は、大納言以下の姫君。