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 男性として生まれ、自認する性は女性のトランスジェンダーの当事者が戸籍上の性別変更を求めた家事審判で、広島高裁は、性器の見た目を変える手術をしなくても男性から女性への変更を認める決定を出した。

 手術を要件とするのは、憲法が保障する「意に反して身体への侵襲を受けない自由」を侵害し、手術するか性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約だとして、「違憲の疑いがある」と判断した。

 性の多様性を柔軟に受け入れようとする国民意識の変化に合わせ、性的少数者の自己決定権を尊重し、生き方の選択肢を広げる決定と言える。政府、国会は法改正を促す司法のメッセージと受け止めるべきだ。

 2004年施行の性同一性障害特例法は、性別変更に五つの要件を規定している。このうち性器の見た目の変更を求める「外観要件」は、生殖能力をなくす「生殖能力要件」とともに事実上手術を強制する手術要件と呼ばれ、申立人は両要件を違憲だと訴えていた。

 広島高裁は、申立人は継続的にホルモン療法を受けて身体に女性化が見られ、性別適合手術を受けなくても要件を満たしているとした。手術なしで男性から女性への性別変更を認める判断は異例という。

 ただ、外観要件自体は社会生活上の混乱を避けるために設けられ、正当性があると認めた。今回の決定の対象は申立人に限られ、最高裁で憲法判断がなされないため、今後も外観要件は残ることになる。

 既に生殖能力要件については昨年10月、最高裁が違憲と決定している。その際、大法廷の裁判官15人のうち3人は外観要件にも違憲判断を出すべきだとの意見を付けた。各地の裁判所では、手術なしの性別変更を認める判断がほかにも出ている。

 二つの要件は、望まない人にも手術を求める過酷さでは変わらない。与野党は生殖要件を削除する方向で法改正の検討を始めたが、外観要件も見直しの議論が必要ではないか。

 法改正に慎重な保守系国会議員の一部には、銭湯やトイレで混乱を招くなどとして外観要件の削除に懸念を示す声もある。だが、漠然とした不安を理由に、人が性自認に応じて生きる権利を妨げてよいことにはならない。悪意による性犯罪などの問題とは切り離して考えるべきだ。

 特例法施行から20年、戸籍の性別を変更した人は1万人を超えた。LGBT理解増進法は成立したが、理解不足による偏見や差別はなくならない。性的少数者が自分らしく生きる権利を守り、多様な性や家族を認め合う社会を実現する。時代に合った法制度の抜本的見直しに向け、前向きで冷静な議論を求めたい。