研究室だより 2024年7月号(担当:杜)

投稿日:2024.08.07

投稿者: 共通田中研究室

皆さま、初めまして。今月のブログを担当するM1の杜です。

大学院に入学して四ヶ月が経ち、気がつけば今学期の終わりになりました。入学当初は多くのことに戸惑いましたが、研究室の先輩方のサポートや同期との助け合いのおかげで、充実した忙しい大学院生活を送っています。

さて、今回のBlogでは、7月11日に本郷キャンパスのダイワユビキタス学術研究館で行われた、映像ジャーナリストの伊藤詩織さんが初監督したドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』の日本初上映会・トークセッションについてレポートしたいと思います。本イベントは、メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)と田中東子研究室の共催で行われ、映画の上映とその後の30分間の対談という流れで進行しました。対談では、伊藤監督とジャーナリストの浜田敬子さんが映画製作の過程や伊藤監督が伝えたいメッセージについて語り合い、最後には田中東子先生が閉会挨拶を行いました。

ちなみに、本イベントには私も田中東子研究室の他の3名のM1と共に会場運営スタッフとして参加させていただきました。大学院に入って初めての経験で少し緊張しましたが、他のスタッフの皆さんと力を合わせてイベントを無事に終えることができたことに嬉しく思っています。

『Black Box Diaries』は、伊藤監督が自身で遭遇した性暴力被害に向き合い、真相を追求し、公正な判決を求める姿を記録したドキュメンタリー映画です。ほとんどの場合、性暴力の被害者の経験はニュース報道など第三者によって語られており、当事者目線から語られることは非常に稀ですが、この映画では、90分間の映像がすべて伊藤監督自らスマホで撮影した自分の姿や、自身の身近な人々によって撮影された映像で構成されています。このように当事者視点からの記録手法により、伊藤監督の多面的な人物像が作品に反映されています。

図1)伊藤監督と浜田さん

映画終了後のトークセッションでは、伊藤監督と浜田さんがまず、『Black Box Diaries』の日本初上映の感想について語り合いました。伊藤監督は、2017年に『Black Box』を書き始めてからこの映画が完成するまでの道のりや、400時間を超える映像を本作品に編集していく過程で直面したさまざまな挑戦について話されました。その中で伊藤監督は「(自分の被害者経験が)第三者によって勝手に報道されたり解釈されたりするよりも、自分で自分のナラティブを伝える」ということの重要性を論じました。また、伊藤監督は、自身の被害を語る経験を踏まえて、日本語の文脈で「No」をはっきりと伝えることの難しさについても触れました。

私はこれまで何度か新聞記事で伊藤監督の話に触れてきましたし、以前中国にいたときにも中国のニュースメディアで彼女の事例が報道されているのを見たことがあります。そのため、上映前にある程度の心構えはしていましたが、実際に映画の90分間を観る中で、伊藤監督が映像を通じて伝えた決意と勇気に何度も胸を打たれました。一番大きな感想として、伊藤監督が作品中の当事者視点からのカメラワークを通して、「声を上げ続ける性暴力被害者」というメディアで常にラベルを付けられている人物に、立体的な人間としての姿を与えたと感じました。彼女が度重なる挫折に直面し、カメラの前で長い沈黙を経て再び勇気を出して前に進む姿が描かれる中で、従来の「性暴力被害者はこうあるべきだ」という固定観念が生き生きとした新しい姿に変わっていく様子が印象的でした。多くの来場者が伊藤監督の奮闘から勇気を得たと話していたように、私もこのドキュメンタリー映画と伊藤監督の言葉から多くの勇気をもらい、新たな視点で性暴力被害について考えるきっかけとなりました。これからも研究室のメンバーと一緒にこのような活動に参加し、議論や考えを深めていきたいと思います。

図2)トークセッション中の伊藤監督と浜田さん