Caption :催眠術を信じない少女が、自らの身体で実証。情欲に塗れた二人っきりのパフォーマンスが始まる!
Tag :催眠術 足裏




 壁が全面鏡張りの広い部屋の中。変な男と二人きり。

「さぁ、それではお嬢さん。力を抜いて」
「はぁ」

 溜息が、男に対する返事になった。
 まったく、どうしてこんなことになってしまったんだろう。


 熱心なオカルト信者の友人が、とある催眠術師を熱弁した。
 私はそれを完膚なきまでに貶し、哂った。

 催眠術? 馬鹿馬鹿しい、有り得ない。そんな詐欺がまかり通るなんて、世も末だ。
 この認識は、今でも間違ってるとは思わない。私の意見は多数派だろう。

 そしたら、彼女は激怒した。
 曰く、『自分の身体で体験してから批判しろ!』と。

 そして、彼女が余計なことに紹介してくれてしまったのが、今居るこの場所だった。
 駅の改札を抜けて徒歩三分。路地裏の歓楽街の、そのまた裏にあるぼろぼろのビルの屋上。入り口にあるのは、『催眠術体験:一時間3,500円(税込み)』の看板。ピンサロか。

 扉を開けると、一人の男が出迎えてくれた。
 サングラスにマント、シルクハットをフル装備した男が。来る店間違えたかな。

「あぁ、彼女ならよくここに来るよ。彼女の紹介なら、最初の一回は無料にしてあげよう」

 残念ながら、間違っていないようだ。
 私が事の経緯を話すと、嬉しくないサービスが帰ってきた。


 そして、今に至る。
 バレエ教室を開きそうな、壁が全面鏡張りの広い部屋のど真ん中で、幅の大きな黒い革張りの椅子に座らされているんだ。

 あぁ、帰りたい。


。+’駅前三分に潜む獣欲のun deux trois。+’
  〜催眠術なんかに負けたりしない!!〜


 ***


「それでは、この鏡を見て。君の格好を、自身の目でよーく確かめて」

 私の前に、大きな姿見鏡が運ばれて来る。正直、はいはいって気分だ。
 そんな物がなくても、この部屋は壁一面が鏡じゃないか。

 私は仕方なしに、大の男でもすっぽりと入りそうな大きな鏡を眺めた。

 つり目にむすーっとした表情の私は、酷く柄が悪い。
 そう自覚はしても、愛想を振り撒く気なんて更々ないけど。

 昨日、髪切ったっけ。肩の上まで短くなった後ろ髪を見て、そんなことを思い出す。
 それを晒す最初の相手がこんな男だなんて、私は遺憾の意を表したい。

 袖あまりの黒パーカー、太もも丸見えのデニムパンツ、黒のニーソという組み合わせは、可もなく不可もなく。勝負服ではないけど、部屋着程適当でもないという意味で。

 小柄な私は胸もお尻も小さい。けど代わりに、腰は細く、肌は綺麗。

 全身分析お終い。まぁ、それなりに持て囃されている外見だ。
 だけど、一八年も見ていれば飽きるもんだ。自分の見た目なんて。


「君は、今何をしているかな?」
「……椅子に座ってます」
「よろしい」

 その問い掛けに、何の意味があるのだろう。そして、この答えで良かったのか。
 この男の一言一言が不可解で、いらいらする。

 年は二十後半ぐらいか。
 似合わないサングラスのせいではっきりした顔が分からないけど、まぁ好意的に見ても中の上。
 大嫌いだけど。

 安っぽいタキシード。黒いてっかてかしたマントとシルクハット。
 その格好は、どちらかと言えばマジシャンとかじゃ。
 あぁ、このマント何だか見覚えある。あれだ、ドン・◯ホーテだ。

 はっきり言って、私が友人との付き合いを真剣に考え直したくなるぐらいの男だった。
 とんでもなく、胡散臭かった。
 

「そのまま、自分の姿勢をじっと見て」

 男は、そう言って私の背後に回った。はいはい、だ。

 黒い椅子は幅が大きい。私ぐらいの体格なら、詰めれば二人座れる。
 そして、背もたれは低め。首を傾ければ、私の後頭部が椅子てっぺんに乗っかって丁度良い。
 私は、そんな椅子のど真ん中に座って、肘掛けに腕を置き、背もたれに身体を預けている。もう、ぐでーって感じ。

 どっかの社長さんならまだしも、私のような若い女じゃあ格好が付かない。
 止める気はないけど。ぐでー。


「それでは、始めるよ。鏡から、目線を逸らさないで」
「っ」

 そんなことを考えていたら、後ろに回った男が私の両肩に手を置いてきた。不快感に鳥肌が立つ思いだった。
 けど、我慢だ。この男の言うことなんて聞きたくもないけど、それじゃ友人を言い負かすことが出来ない。私はあくまで、この男の言うことに従った上で、催眠術がでっち上げであることを証明しなくちゃいけない。
 まったく、面倒なことだ。

「君はこれから、この姿勢のまま動けなくなる」

 定番の内容だ。

「そう。まるで、肩から指先まで、太ももからつま先までが蝋で固められてしまうように、だ。他の関節は動く、筋肉だって動く、そうでなければ窒息してしまうからね。だけど、両腕と両脚は動かない。想像してご覧、そうなったら君はどうしようね?」
「そうなったら?」
「あぁ。仮に、そうなったらだ」

「例え、あんたにレイプされても、抵抗出来ないですね」
「はははっ」

 私の悪意満々の言葉を、男は笑って返した。
 はははじゃないっての。


「さぁ、それではカウントダウンだ。アン、ドゥ、トロワ」

 そして、男が気取った口調で始まりを告げた。
 どうしてそこでフランス語なんだ。私は心の中でツッコんだ。

「カトル、サンク、スィス」

 4、5、6。
 ご生憎様、私はフランス語なんて分からない。数字だって、聞き慣れたアンドゥトロワのフレーズしか知らない。
 だから私は、彼のよく分からない言葉と一緒に、頭の中で数字を数えた。

「セット、ユイット、ヌフ」

 7、8、9。
 まったく。この男の神経が知れない。私は、心の中でこの男のことを罵倒し続けた。

「……ディス」

 10。


「どうだい?」
「……ふん」

 あぁ、やっと帰れる。私は安堵の溜息を付いた。
 もうこんな男とは、一言たりとも話したくない。

 私は立ち上がり、さっさと家に帰ろうと。

「え……?」

 した。
 帰ろうとした、だけだった。

「え、な……っ?」

 身体が、動かない。


「ぇ、う、嘘、でしょ……?」

 私がどれだけ身体に力を込めても、身体の関節が動こうとしなかった。精々、筋肉がぴくぴくと僅かに動くだけ。
 それは、何か大きな力に抑え付けられているようだった。

「嘘……!? そんな、馬鹿なこと……っ!!?」

 肩から手の指が動かない。脚の付け根から足の指も動かない。
 辛うじて動けるのは、胴体と首だけ。だけどそれだけじゃ、きょろきょろと辺りを見渡したり、腰をくねくね動かすぐらいしか出来ない。
 これじゃまるで、男が説明したことと同じじゃないか!

 私が一生懸命身体を揺さぶっていると、後ろに居た男が笑った。

「信じていただけたかな?」

 その声音は、まるでそうなるのが当然という風。
 私は、自分の思想を真っ向から否定された気がして、頭がかっと熱くなった。

「っ……! どんなイカサマしたっていうの……っ!!」
「ふむ、まだ信じてはくれないか」

 自然と、私の声に怒気が篭もる。
 それでも、男はびくともしない。その余裕綽々の態度がまた、苛立たしくて仕方がなかった。


「ほら、そんなに怒らない。可愛い顔が台無しだ」

 おどけた言葉に、私の怒りがピークに達した。

「ふざけ――っ!!? 〜〜〜〜っ!!?」

 ふざけんな!!
 私が声に出して彼を思いっ切り罵倒とした。だけど、その時だった。
 私の怒りの表情が、一気に歪んだ。


 ***


「んにひぃっ!!? んぐぅっひひひひひひぃ……っ!! な、なにぃひぃぃっ!!?」
「君みたいな可愛い子は、笑っているべきだと思うよ」

 突然のことだった。
 私の後ろに立っていた男が、私の腕の付け根に手を突っ込んで、パーカー越しに腋の下をくすぐってきたんだ。

「んぐふぅっ!? いっ! いきなり何すんのぉっほひひひひひひぃ……っ!!? くっ、あはぁっ!?」
「何って、君の身体をくすぐっているだけだよ。他に何もしていない」

 幅の広い椅子に座って肘掛けに腕を置けば、腋の下には随分と隙間が出来る。そんな無防備な所を、この男は十本の指を使ってこちょこちょとくすぐってくる。
 そうすれば当然、私の口からは笑い声が零れた。私が望まずとも、だ。

 鏡の向こうで、私が笑っている。
 足を床に付けて、両手を肘掛けに置いたまま、まるで逃げようとはしていない。腰をくねくねと動かし、両手と両足の筋肉をびくびくと震えさせているだけ。

 何だこれは。私は何をやっているんだ!?
 動け、動け!

「くすぐったいなら、逃げた方が良いんじゃないか? だって、僕はそれ以外何もしていないのだから」

 挑発的な言葉に、頭がますます熱くなる。

 この男の言う通り、早いところ逃げたかった。そして、この男を警察に突き出したかった。
 こんな男に身体を触れられて、それなのに笑ってしまうなんて、胃に穴が空くほど屈辱で不快だった。

 だけど、逃げられなかった。身体が動かなかった。腋を閉じることも、立ち上がることも出来なかった。
 私に出来るのは、首と腰を振って、みっともなく笑うだけ。

 あぁ、本当に、悔しい。悔しい!


「催眠に掛かっていなければ、逃げるなんて訳ないはずなんだがねぇ」
「くぅっ!!? こっ、のぉ……っ!! ぉひゃっ!! ひゃぃっひひひははははは……っ!!?」

 男が、私を嗤い続ける。

 全てが、この男の思うがままに動いていることを実感した。
 催眠術を信じない私が、まんまと引っ掛かる。こいつは自分の力を証明して、なおかつ私の身体を触れる。
 まったく、美味しいこと!

 もしかしたら、私がすぐに彼の力を認めれば、それで済むことなのかもしれない。

 だけど、私の中の泥水のようなどす黒い感情がそれを拒んだ。
 催眠術なんて有る訳がない! こんなもの、何かの間違いに決まっている!!
 私は自分にそう言い聞かせながら、身体に力を込める、笑い声を必死に我慢する。そうやって、出口の見えない必死の抵抗を続けていた。


「何もね、身体を動かせなくするだけが催眠術ではないんだよ」

 すると、男は更に笑うんだ。

「これから、君の身体が勝手にくすぐったくなってゆく」

 男の言葉に、背筋がぞっと凍る心地がした。

「私に触れられてもいないのに、勝手に身体がくすぐったくなるんだ。まるで、羽根が這うように、或いは、爪で引っ掻かれるように。面白そうだろ?」
「んぎぃっひひひひひひひひ……っ!!? ばっ!! かにゃぁっはっはははははははは……!!?」

 馬鹿なことを言うな! そう思った。この男は、これ以上私をくすぐる気なのか。
 だけど、笑い声が喉まで出掛かった言葉を塗り潰してしまう。私は、逃げ出すことも出来ない、抗議することも出来ない。ただ、歯を食い縛って、彼の言葉に震えるだけ。

 この世に、こんな残酷なことがあるだろうか。
 私は、この男の胡散臭さで固められた殻の中に、恐ろしい本性を垣間見た。


「今度は3つで良いだろう。始めるよ」
「んぐぅうぅぅっ!! んくぅっふふふふふふっ!!? 〜〜〜〜っ!!! くうぅぅぅっ!!?」

 男が、私の耳元で囁いた。

 止めろ! 止めろ!!
 私は何度も叫び続けた。だけど、頭の中で、だ。

 当然、彼は止めなかった。

「アン、ドゥ、トロワ」

 小さな声が、広い部屋の中で嫌に大きく反響した。


 ***


「さて」

 ようやく、男がくすぐる手を止める。

「は……っ! ぁ……、ひぃ……っ!?」

 くすぐったくない?
 私が平穏な感覚に安堵し、息を大きく付いたのは、ほんの一瞬だけ。
 後ろに立つ男は、私の緩んだ身体に不意打ちするように囁いた。

「まずは、腋の下だ」
「ひっ!? ぁはっ!! 〜〜〜〜っ!!? ぁ、あ゛ぁあぁぁーーっ!!!?」

 その瞬間、私の身体が大きく跳ね上がった。


「ぁはっ!!? な、なにぃっひひひひひゃぁあぁっはははははははははは!!? あはっ、あぁあぁぁぁっはははははははははははっ!!! なんなのぉぉぁっはははははははははははははははっははははははははははははははははははっ!!?」

 腋の下が、くすぐったい。男に触られてもいないのに、だ。
 それは何か、ふさふさと柔らかい物で肌を直接撫でられているような感覚。

 前に置かれた大きな鏡が、私の姿を写す。
 やっぱり、腋の下には何もなかった。男の指にくすぐられる訳じゃないから、少し厚めのパーカーが何の役にも立ちはしない。

 目の前の鏡が、私の無様な姿を見せ付け続ける。
 笑い続けた私の顔は、もう真っ赤。目からは今にも涙が零れそうで、口の端からはもう涎が垂れていた。
 何と言うか、その表情は、こう、まるでセックスをしている時のよう。経験はないけど。
 そう思ってしまうと、屈辱と羞恥が胸の中で更に膨らむ心地がした。張り詰めた感情で、呼吸が苦しくなった。

「君の弱点は、どこだろうね?」

 男が耳元で囁く。
 嫌悪と、それ以上の恐怖で、全身に鳥肌が立った。

 それは直接的でなくても、予告するような言葉だった。
 これから全身をくすぐるぞ、と。


「次、脇腹」
「んぎぃっ!!? んぐっひゅっふふふふふふっ!!? やめっ!! くる゛しっ!!? げほっ!! かはっ!!? あひっ!! あはっ、はっはははははははははははははは!!!」

 男が脇腹を指差した瞬間、くすぐったさが腋の下から脇腹に移る。
 今度は、指が筋肉にまで食い込んで、思いっ切りぐにぐにと揉み解されるような感覚がした。

 息苦しさに思わず咳き込んでしまう。それでも、くすぐったさが止んだりはしない。
 いつか窒息してしまう。そんな恐怖が、私の目から涙を絞り出した。

「あばら、それと胸の横も良いね」
「いやぁあぁっ!!!? やぁあぁっははははははひゃっははははははははははっ!!!! なにこれぇっ!!? なにこれぇえぇっへっひゃっははははははははははははは!!!?」

 今度は、そのもう少し上。
 沢山のぬるぬるとした何かが、身体の側面を這い姦る心地。

 異質なくすぐったさに、私の笑い声が大きくなる。
 首を振り乱して笑う。腰がびくびく跳ねる。手足の筋肉が、どうにか逃げ出そうとぴくぴく震え続ける。
 それでも、一向にくすぐったさは変わらない。ずっと、ずっとくすぐったかった。

「ごめん、なさいぃっ!!!! ゆるしてっ、ぇあっひゃぁあぁっははははははははははっ!!! あやまるっ、あやまるからぁあぁぁぁぁっ!!!?」

 催眠術なんて信じない。
 もう、そんなことを言っている場合じゃなかった。

 私は、とうとう折れた。
 この男に謝った。だから止めてと願った。


「さぁ、段々降りてゆこうか。太もも」
「あはぁっ!!!? おねがっ、ゆるしっ!!? だめだめだめぇえぇぁあぁぁあぁっははははははははははっはははははははははははははっ!!!! い゛やぁあぁぁぁぁっ!!!?」

 だけど、男はその言葉をまるで無視。私の悲鳴なんて聞こえていない風に、今度は座っている私の前に回って、ふとももを指差した。

 太ももが、沢山の爪で引っ掻かれるようなくすぐったさに包まれた。
 脚の付け根の際どい所にまで、くすぐったさが伸びてくる。だけど、快感だとかは全くない。ただただ、恥ずかしくて、屈辱的で、くすぐったかった。

「膝、すね、ふくらはぎ、足首」
「ひぃいぃっ!!? んくぅっひっひひひひひひひひひひひひひっ!!! ごめんっ、ごめんったらぁあぁっひゃっひひひひひひひひひひひぃっ!!!!」

 じわじわと足元に移動してゆくくすぐったさに、腰が波打つ。
 くすぐったいのはどこだ? そんな風に、身体を隙間なく調べられている気分。だけどそんなの、全部くすぐったくて仕方なかった。


「足の裏」
「ぁはぁっ!!? ぁはっ、っ!!! あぁっひゃっははははははははははははははははっ!!! 〜〜〜〜っ!!!? ぁ、あ゛ぁぁーーーーっ!!!!? ぁ゛あぁぁぁ゛あぁ゛ぁぁっひゃっはっははははははははははははははっ、ぁ゛あぁぁーーっはははははははははははははははははははははっ!!!!!」

 そして、かりかりがりがりと引っ掻くようなくすぐったさが一番下に達した瞬間、私の笑い声は最高潮に達した。

「ほう」

 男の声音が変わった。
 それは、言葉の端々が身体に纏わり付くような、不快な粘着感を感じさせた。

「君は、足の裏が弱いのか」

 男の言葉が、私の笑い声を通り抜けて、脳の中にまで潜り込む。
 催眠を掛ける宣言も、カウントダウンもない。それなのに、私の足の裏が、今よりもずっとずっと敏感になってゆくような気がした。

 その言葉で、私は自覚してしまったんだ。
 私、足の裏、弱いんだ。


「足を上げなさい」
「ひっ!!? あはぁっ!!! 嫌っ、だめぇえぇっへっひゃっはははははははははははははは!!!?」

 彼が短く呟くと、また、私の身体に不思議なことが起こる。

 身体が、勝手に動き出す。膝が持ち上がり、そして開かれる。そして、お尻を前に突き出して、股間を思いっ切り男に見せ付けるような姿勢になった。
 足の裏が宙に浮く。不自然な体勢なのに全然疲れない。その代わり、屈辱と羞恥で一杯になった。

「そうだな、足の指も開きなさい。足の裏を反らせて、とてもくすぐったい状態にするんだ」
「おねがっ、うごかにゃいでぇぇぁあぁっははははははははははははははははっ!!! いや、いやぁあぁぁぁぁっ!!!?」

 男は、そう命令すると共に、黒のニーソックスを脱がしてゆく。
 足の裏がぴんと張られながら、湿った外気に晒された。

 凄く、くすぐったそう。
 私はこれから訪れる地獄を想像して、笑い悶えながら悲鳴を上げた。


 そして、男の指が私の両足の裏に這い姦った。

「いぃ゛いぃっ!!!? おぇがっ!!!? やめてへぇっ!!!? ぁあ゛ぁっひゃっはっはははははははははははっ、はぁあぁっははははははははははははっ!!!! いやぁあ゛ぁぁ゛ーーーーーーっ!!!!?」

 催眠術による得体の知れないくすぐったさと、男の指による明確なくすぐったさが混ざり合う。
 男の指はあくまで軽く、皮膚の上で蛆が踊るような手付き。だけど、その上から斬り刻むような激しいくすぐったさが覆い被さってくる。
 足の裏の神経は、そんな相反した感覚を鮮明に受け取ってしまう。こんな地獄、人の手だけでは味わえっこなかった。


「さて、もう一つ術を掛けようか」

 男がまた囁く。

「君は、どんどんくすぐったがり屋になってゆく」
「あはひぃっ!!!? なっ!!! あはぁっ!!!?」

 どこまでも私を叩き落とすような言葉に、私は目を見開いた。

「そうだね。まるで、全身の神経が引っ繰り返ってしまったように、敏感になるんだ。決して痛みは伴わないから、安心してくれ。ただ、指でくすぐられただけで、頭が可笑しくなってしまうぐらい、くすぐったがり屋になるけどね」
「ひぃいぃぃっ!!! いやっ、そんなのっ!!! いやだっ!!? いやぁ゛あぁあぁぁっははははははははははははははははははっ!!!!」

 私は想像してしまう。
 彼の言葉通りに、身体がどんどん敏感になってしまう様子。今でももう一杯一杯なのに、更にその先を行くんだ。

 それだけでもう、私はもう頭がおかしくなりそうだった。

「アン、ドゥ、トロワ」


「あひっ!!? んぐぅうぅっふふふふふふふふふふっ!!! な、なに゛ぃ……っ!!? ひゃっ!!! ぁはっ、あぁあぁっははははははははははははははっ!!!?」

 最初は、何も変わっていないと思った。
 普通にくすぐったいし、普通に苦しかった。
 だけど、考える余裕はなかった。

 そして、少しずつ、少しずつ、その時がやって来るんだ。

「あははっ!! あはひぃいぃぃっ!!!? ――ぁっ!!!? ぁあぁぁッ!!!!? ぁ、あ゛ぁぁーーーーッ!!!!? いや゛ぁーーーーッ!!!!! っはっははははははははっははははははははははははははははははは!!!!! ひぃいぃぃぃぃぃぃッ!!!!!?」

 私が悲鳴を上げるのは、そう遅い話ではなかった。

 それは、驚く程に淡々とやって来た。
 機械が機械のつまみを捻るように、同じ速さで、くすぐったさが強くなってきたんだ。

 そして、それはまだまだ続く。
 限界なんて存在しないように、つまみが何周も何周も回転するように、どこまでも無慈悲に、くすぐったさが強くなってゆく。

「い゛ーーやぁあぁあぁーーーーッ!!!!? ぁあぁぁぁっひゃっはははははははははははははははははっ!!!! おねがッ!!! あぁあぁ゛ぁぁーーーーっ!!!!!! ぁあぁぁぁっはっははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!!!?」

 いつか身体が張り裂けてしまう。
 だけど、その時は一向にやって来ない。人間というものは、時には残酷に思えるぐらい丈夫なものらしい。

 くすぐったさに死ぬこともなく、気が狂うこともない。
 私は鏡張りの部屋の中で笑い悶え続けた。


 ***


「おねが……っい、ぐす……っ! もう、帰して……! ぅぇぇ、帰して、よぉ……っ!!」

 足の裏をくすぐり姦されてから数十分。
 私は、何度も何度も男に赦しを請い続けていた。顔は涙と涎、鼻水でぐちゃぐちゃ。もう、催眠術を信じるとか信じないとかなんて、頭になかった。
 ただ、お家に帰りたい。それしか考えられなかった。

 そこで、男が優しく囁いた。

「さて、次が最後の術だ」

 鏡を見なくとも、男の言葉に私の表情があからさまに明るくなるのが分かった。
 終わりが見えたことに対する希望がそうさせた。不覚にも、彼のことを慈悲深い存在だと錯覚すらした。

 もう、この男をどうしようだとか、そんなことを考えることもなかった。
 やっと、終わりだ。
 やっと、帰れる! 帰れる!!
 それだけしか考えていなかった。

 それなのに、彼はぽつりと呟くように告げる。
 その言葉に私は、天から地の底にまで一気に叩き落とされる心地がした。


「君は、くすぐりが大好きになる」

 は?
 私は、彼の言うことが理解出来なかった。

「くすぐられることが快感になるんだ。身体をくすぐられれば、乳首とクリトリスが勃つ。膣が濡れる。特に、一番くすぐったい足の裏とかくすぐられたら、何度も絶頂してしまうぐらいにね」

 私には、その言葉が死刑宣告よりも恐ろしい言葉に思えた。
 言葉の締めくくりに、男が笑った。

「最高だろう? ……沢山、気持良くなるんだ」
「……ぃ……ッ!!!?」

 サングラス越しに見えたのは、胡散臭い催眠術師の表情ではない。
 今にも私を喰らいそうな、欲望を剥き出しにした獣のそれだった。


「お願い!!!! 帰してぇッ!!!!? 謝るから、謝るからぁッ!!!!!」

 私は絶叫した。
 これ以上くすぐられると分かっただけでも気が狂ってしまいそうなのに。くすぐられて気持良くなる!? 冗談じゃない!!!
 その一線は何か、絶対に超えてはならないように思えた。

 あぁ、だけど駄目。どれだけ泣き叫んでも、身体が動かない!! 逃げられない!!!
 

「ごめんなさい……!!! 赦して……!!!? 本当に、ごめんなさい……ッ!!!!」
「あぁ、そうそう」

 謝った!!
 非礼を詫びる、催眠術だって認める!! 私は何度も謝った!!!
 だから止めて!! お家に帰して!! 赦して!! 赦して!!! 何度も願った!!!


 だけど、彼は遮るように言うんだ。

「君が吐いた暴言などに関しては、気にしなくて良い。ちっとも怒ってないからね」

 そして、哂った。


「最初から、こうするつもりだったんだよ。……君の友人に、そうしたように」

 私は、言葉を失った。

「アン、ドゥ、トロワ」

 その言葉と同時に、私の両足の裏に、男の指が突き刺さった。

「あはぁあぁぁぁぁッ!!!? ひゃぁあぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡♡ ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡♡♡」

 私の中で、決定的な何かが崩れる音がした。


「ひぃいぃぃぃんッ!!? あはッ♡♡♡♡ ひゃぁあぁぁぁっはははははははははははははッ、あはぁッ♡♡♡♡♡ くぅうぅぅぅん!!!?」

 足の裏が蕩ける気がした。

 相も変わらず、死ぬ程くすぐったい。だけど、それだけじゃなかった。
 足の裏から脚をぞわぞわと伝わって、子宮に届いて激しく疼かせるような、そんなくすぐったさ。
 それは、クリトリスを弄るよりもずっと強い快感。

 駄目、気持ち良過ぎる!!


「あぁ。君は、友人よりも良いね。敏感だし、可愛い」

 彼の蜂蜜のように甘くねっとりとした声が、私の脳を焦がす。
 あっという間にびしょびしょに湿ったアソコを見つめられて、身体が更に敏感になった気がした。

「さぁ、全身がまたくすぐったくなって行くよ」
「ぜんぶぅッ!!!? ぜんぶくすぐたぁあぁっはっははははははははははひゃぁあぁぁぁぁんッ♡♡♡♡♡♡ へんにぃッ♡♡♡♡♡ へんになっちゃぁぁっひゃぁあぁっははははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡」

 そして、彼の言葉と共に、全身がくすぐったくなってゆく。
 そのくすぐったさは、やっぱりさっきまでとは全然違う。

「からだっ、だめっ!!!? うごけなひのにぃいぃぃっひひひひひひひひひひひゃぁあぁぁぁっははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡ ふひゃぁあぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃッ♡♡♡♡♡」

 腋の下から脇腹が、無数の指先で撫で姦されている感触がした。
 身体の側面から、隙間なくこしょこしょというくすぐったさが伝わってくる。

「あしぃいぃぃ!!? うごいてッ!!!? うごいてぇえぇぇぁひゃあぁぁっ♡♡♡ うごかにゃあぁぁあっははははははははははははは♡♡♡♡♡ ひゃぁあぁぁぁっはははははははははは、あ゛あぁあぁぁーーーーッ♡♡♡♡♡♡」

 太ももとふくらはぎには、おびただしい数の爪先で引っ掻かれるようなくすぐったさが走る。
 かりかりかりかりという音が、今にも私の脚から聞こえて来そう。

「ふぁあぁぁぁっ♡♡ そぇっ、だめっ♡ ぞくぞくしへッ!? くぅうぅぅぅんッ♡♡♡♡♡ あはぁあぁぁぁッ♡♡♡♡ ひゃぁあぁぁぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡♡♡」

 首と背中に、優しく撫でられるような快感が走る。
 さわさわとした感触は心地良過ぎて、ついついうっとりしてしまう。

「ひぃいぃぁあぁっはっはははははははははははははははははぁッ♡♡♡ くすぐっはひのにひぃいぃッ!!? おかひぃのぉぉぉッ♡♡♡♡♡ くしゅぐたひのにぃいぃぃっひひゃあぁぁぁっははははははははははははははははははははッ!!!!!?」

 胸とアソコに、一際強いくすぐったさが叩き付けられる。
 びりびりとしたくすぐったさは、まるで電流を流されたよう。それが、不思議なぐらい気持ち良い。

「きもちぃひぃぃいぃぃぃぃッ♡♡♡♡♡ きもひぃいぃゃあっひゃっははははははははははははははッ、ひゃぁあぁぁぁーーーーーーっひゃっはははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡♡ ふぁあぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!? きひゃあぁあぁぁぁっはははははははははははははははっ、ひゃぁあぁぁあーーっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ♡♡♡♡♡♡」

 あぁ、でも、やっぱり足の裏が一番くすぐったい。そして、気持ち良い。

 彼のくすぐる手は、蕩けるような優しさと甘さを持っている。そこに、かりかりがりがりと容赦なく引っ掻かれるくすぐったさが折り重なってゆくんだ。身体が否が応でも反応してしまう快感。それが、指先から付け根、土踏まず、踵まで、隙間なく。
 それでも、彼の指の感触は消えはしない。激しいくすぐったさの隙間で確かに踊る甘い感覚が、私の心を高鳴らせた。


「あはッ、だめぇッ!!!? イッちゃ、イッちゃうぅぅ♡♡♡♡ くしゅぐられへぇえぇぇっへっへっへへへへ♡♡♡♡ イッひゃぁあぁぁぁぁっははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡ イッひゃうよぉおぉぉぁあっはっひゃっははははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡ あ゛ぁあぁぁーーーーーーッ!!!? ひゃぁ゛あぁぁ゛あぁ゛ぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡♡♡♡」

 来る。
 とんでもない勢いで、快楽が駆け上って来た。

 このままでは本当に、くすぐられてイッてしまう。

 だけど、躊躇い身体を硬直させたのは、ほんの一瞬だけ。次々と身体の中に流れ込んでくるくすぐったさが、そんな些細な感情なんてあっという間に吹き飛ばしてしまった。

「イけ」

 そして、彼の言葉が、私を奈落の底へと突き落とした。


「あはッ♡♡ きひゃッ、わたひッ!!? 来ひゃあぁ――ッ♡♡♡♡♡♡ 〜〜〜〜ッ!!!!? あ゛はひッ!!!!? あぁ゛あぁーーーーーーーーッ♡♡♡♡♡♡ あぁあぁぁあぁっはははははははははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡♡♡ ひゃぁ゛あぁぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 イッた。驚く程呆気なくイッた。
 それも、今まで感じたことのないイキ方だった。

 クリトリスを自分で弄ったって、クリトリスしか気持ち良くなれない。
 だけどこれは、全身が気持ち良い。まるで、くすぐられた所全部が性感帯になったみたい。

「ほら、まだ終わらない」
「ひはぁッ♡♡♡♡♡ まっへ、イッてぅ!!!? イッってるかぁあぁっひゃぁ゛ーーっはっはっははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡ あはぁあぁぁっはははははははははははははははははははははははははは♡♡♡♡♡♡ おかひッ!!!? なっひゃぁあぁぁっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃぁあぁぁっはははははははははははははは♡♡♡♡♡♡♡♡」

 私がイッている最中であっても、彼は私をくすぐり続ける。
 イッた後の身体は、催眠術がなくったって敏感。そんな身体をくすぐられたら、またすぐにイッてしまう。
 そして、イッた身体を、まだまだくすぐられ続ける。

 これじゃあ、どんどん、くすぐったくなってしまう。気持ち良くなってしまう!

「ひぅうぅん!!? らぇっ、またイッ――!!!? あぁあぁぁっははははははははははははは♡♡♡♡♡ イ゛ぅうぅぅぅぅぅぅッ!!!? 〜〜〜〜〜〜ッ♡♡♡♡♡ ひゃぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁッ♡♡♡♡♡♡ あはぁあぁ゛ぁぁ゛ぁぁっひゃっはっはっはははははははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡♡♡」

 何度も何度も、私はイッた。
 全身をくすぐり姦されてイッた。

「うひゃぁあぁぁっはははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡ イッひゃっ♡♡♡♡♡ わたひッ!!!? くひゅぐられへイッっひゃはぁあぁぁっはははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡♡♡ 〜〜〜〜〜〜ッ!!!? あ、あぁあぁ゛ぁあ゛ぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ♡♡♡♡♡♡♡」

 前に置かれた鏡が、私を写し続けている。
 上を向いた目は焦点が合っていなくて、大きく開いた口からは舌を突き出している。アヘ顔も良いとこ。

 あぁ、本当に無様な格好。
 だけど、どうしようもない。くすぐったくて、気持良くて、仕方がないんだ。


「もっほぉッ♡♡♡♡♡ もっほくひゅぐっへぇえぇあっはっはははははははははははははははははははははははッ♡♡♡♡♡♡♡♡ きもひよふひ――ひゃぁああぁぁぁぁっはははははははははははははははッ、ぁあぁぁぁ゛ーーーーっはははははははははははははははははははははははは♡♡♡♡♡♡♡ くひゃぁあぁぁぁぁっははっはははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁあ゛ぁぁぁ゛ぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡♡♡♡♡」

 私は、何度も何度もイキ続けた。
 彼にくすぐられて、何度も何度もイキ続けた。


――――――
――――
――


 ***


――――――
――――
――


 もう、何も考えられない。


「ふむ、気を失ったか」

 ピンク色に塗り潰された視界の向こうで、彼の声が聞こえた。

「君の友人と同じ処置をしよう」

 だけど、彼の言葉は耳を通り抜けるだけ。
 その意味を考える余裕なんて、私にはなかった。

 全身を走る絶頂の余韻が、私の心を苛んでいたから。
 くすぐったくて、気持ち良い。それだけを考えていた。

 そして、こうとも思っていた。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。もっともっと、くすぐられたい。
 

「ここで、いかがわしいことは何一つ起きなかった。ただ、私が催眠術を披露し、君は満足して帰る。そんな出来事だ。今のように、異常なくすぐったがりでもないし、それでイき狂うことなんて……」

 だけど、彼の言葉に、身体の火照りが徐々に収まってゆく。

 待って! 行かないで!!
 私は夢の中で必死に手を伸ばす。心の片隅で、どこか覚えのある安堵感を抱いていたのを無視して。

「……いや」

 だけど、彼は言葉を止めた。

「やはり、君は覚えている」

 そして、私の身体は再び燃えるように熱を帯び始めた。


「君は、全ての出来事をはっきりと覚えている」

 彼は続ける。

「そして、欲してしまうんだ。また、ここに訪れたい、私にくすぐり犯されてイき狂いたいと思う。そうしよう。……だから、その術だけは解除しない」

 心がざわつく。心の片隅に残っていた一欠片が、ピンク色の感情に飲み込まれて消え去った。

 やった、やった!
 もっと、気持ち良くなれる!! もっとくすぐったくなれる!!!

 私の心は、歓喜に支配された。


 そして、最後に彼は呟いた。
 とても甘く、愛おしい声で。

「アン、ドゥ、トロワ」