ハリスはこれにてオワコン!…最大の激戦州ペンシルべニアで大敗する必然
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バイデン政権の優柔不断
思い出すべきなのは、そもそもバイデン政権が環境保護政策について、優柔不断であった事実である。たとえば、ルイジアナ州のカルカシュー・パス2(CP2)という、メキシコ湾とラテンアメリカのレイクチャールズを結ぶ航路沿いに建設予定の100 億ドル規模の巨大なLNG(液化天然ガス) ターミナル建設計画について、バイデン政権は今年1 月26 日、気候変動、経済、国家安全保障への影響を分析するため、新たな液化天然ガス輸出施設の許可プロセスを一時停止した。ルイジアナ州の判事は7月1日、共和党主導の16州による連邦裁判所での訴訟が審理中であるにもかかわらず、液化天然ガスの輸出を目的としたプロジェクトの検討を遅らせることはできないとのべた。これを受けて、米国連邦地方裁判所のジェームズ・ケイン・ジュニア判事は、州側の主張を支持し、バイデン政権による検討の遅延を、一時的に差し止める仮処分命令を下した。 しかし、バイデン政権による一時停止策は、このプロジェクトの廃止を意味しているわけではない。大統領選後に、建設許可になる可能性は否定できない。その証拠に、ペンシルベニア州選出の民主党上院議員2人は、この一時停止策に対してさえ公然と反対した。民主党内にも、推進派がいる以上、環境保護派に配慮して、選挙前はいったん、止めるそぶりをみせて、選挙後に推進する可能性が大いにある。 たとえば、バイデン政権は昨年3 月13 日、環境と気候に影響をおよぼす可能性が高いという理由で広く反対されているにもかかわらず、アラスカの巨大石油掘削プロジェクト「ウィロー」を正式に承認した、「悪しき前歴」がある。
マスメディアの「嘘」
もう一つ、重要なのは、シェールガス採掘に伴う温室効果ガス排出について、多くのマスメディアがきちんと報道していない点である。フラッキングには、強力な温室効果ガスであるメタンガスの漏出といった問題があるのだ(ここでは、詳しく論じるだけの紙幅が残されていないので、関心のある読者は拙著『帝国主義アメリカの野望』の「第2章 エネルギー争奪からみたアメリカ帝国主義」を読んでほしい)。 つまり、真の環境保護派であるならば、フラッキングによるシェールガスの採掘を禁止するのは、絶対的条件であるはずなのだ。しかも、フラッキングには、廃水処理井戸による地震の誘発という大問題もある。 ハリスは、自身の副大統領候補として、2023年、2040年までに州の電力網を完全にグリーンエネルギーで稼働させることを義務づける法律に署名した気候変動の強硬派であるミネソタ州知事ウォルツ氏を選んだ。それは、電気自動車への強力な支援、より厳しい環境規制、化石燃料企業への説明責任の強化といった環境保護派を勇気づける方向性を示している。 しかし、ハリスは副大統領候補にペンシルベニア州知事のシャピロを選ばなかった。シャピロは穏健派として人気があり、エネルギー経済に依存するペンシルベニア州民の懸念を和らげることができたかもしれない。しかし、そうしなかった。 このため、ユダヤ人であるシャピロを見限ったハリスへの不信感も生まれている。だからこそ、いまになって、ユダヤ系の有権者を取り込むために、民主党は、8月19~22日にシカゴで開催される「シオネス・アクション・ファンド」(ZAF)の大会イベントに、二人の民主党上院議員を参加させることにした。一人は、ペンシルベニア州選出のユダヤ系のジョン・フェッターマンであり、もう一人は、ユダヤ系有権者とのつながりを積極的に築いてきた、ニュージャージー州選出のコーリー・ブッカーだ。 ZAFは、民主党がユダヤ人コミュニティ、ユダヤ人の安全、そして先祖代々の祖国であるイスラエルの地におけるユダヤ人の自己決定権に対する歴史的で大切な公約を継続するという緊急の義務があることを、民主党に認識させ、思い起こさせるよう取り組む機関である。その意味で、シャピロを選ばなかったハリスへのユダヤ系有権者の不信感を払拭する努力が求められているというわけだ。 どうだろうか。こんなハリスにペンシルベニア州民は投票するだろうか。私には、そうは思えない。「ハリス-ウォルツ」は惨敗するだろう。
塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授・元新聞記者)
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