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Football 思考〜ユニット・個人戦術編〜

なぜユニット・個人戦術が必要なのか

  Football 思考〜現代サッカーの環境 編〜(noteリンク)では、(現代)サッカーの構造について考え、主にチーム・ユニット単位で勝つための準備について述べた。これは、私の監督としての側面だ。だからこそ、今回は私のコーチとしての側面を顕出させたい。

(日々のTR・TMでも、公式戦のベンチにおいても、どちらの私も共存させている。)
(どちらの私のことも私の観察者としての側面がサポートしている。)
(そのために、試合を観る、書く、記事を閲覧する、他分野の書籍を読むことを行う。)

 トップレベルのフットボールの世界では今や4局面のコンプリートが常識と化しつつあるし、サイクルの高速化も進む一方だ。サッカーという競技が要求する普遍的な原則、そして現代サッカーのゲーム環境を攻略するためのチーム・ユニット単位の原則、戦術も似た方向性になる。同じような「ベースの力」を持つチーム同士が戦う際、そこで差異を生むのは個であることに疑いの余地はない。

 「ベースの力」はエコロジカル・アプローチによる制約で心身に様々な負荷をかけることで自然と獲得→伸長すると考えているが、「ユニット・個人戦術」は意識的でないと身につかない部分も多い。

 これは持論になるが、「ベースの力」「チーム全員が習得すべき原則」はTRの中で制約として獲得を促すことができるものの、下層の部分については個別TRと言語的な明示(あるいは映像資料等の共有)を行わないと、どのようなスキルの獲得が求められているのか選手同士、あるいは選手とコーチングスタッフで共通の絵を描くことは難しい。

 そのため、今回は局面・事象を切り分けた記述を残しておきたい。
(セットプレーはここで触れることはしないが、勝敗を分ける決定的な要素となることは当然認識している。)

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Crystal Palace 試合前のアップ風景

ユニット戦術

 各局面には2〜6人程度が主に関わる場面が多いだろう。その都度、状況に応じた振る舞いをすることが理想であるし、完全に同じ状況は起こり得ない競技だとは言え、再現性の度合いが高い場面も存在する。現代サッカーで頻発する攻防を取り上げて、どのような共通認識やデザイン性を持つと状況の打開に繋がりやすいかを示したい。

GK含むビルドアップ vs ハイプレス

 サッカーでは配分された資源を状況に応じて奪い合う競技だと前編でも述べたが、細分化して見ると、前線にスペースと時間の貯金を届けるという目的の下で行うビルドアップにおける資源は時間・選択肢・場所(広さ)の3つだと捉えている。

 保持側は一人一人の挙動によってどれだけ自分達が前進するのに必要な資源を確保するか、あるいは相手の秩序を乱すか。非保持側はその逆の狙いを持つという構造がこの局面だ。

・非保持

 まずはプレス側のトレンドについて。選択肢も時間も奪う手段として、数的同数で人を捕まえる→それでも空いてしまうGKに対しては、近い距離のバックパスが出た際に二度追いを敢行する、あるいは遠い距離のパスでGKに逃げた時にファーサイドの選手がマーカー捨てて外から圧をかける。

 ゴールキックの際はセットして始めるのでこのような形が多いが、流れの中で発生した構築局面に対しては、一旦中央からの前進ルートを塞ぐセットを築くことが多い。中央の受け手を背中で消しつつ、ボールホルダーの近くの守備者が方向付けする、あるいは正面を塞いで選択肢を強く限定する。

 これらの結果、蹴らせて回収するか、サイドに追い込んで圧縮して奪い切るか。(外切りして、中央に誘導して捕まえ切る形も存在するが実現難易度は非常に高い)

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Arsenalのプレスを司るØdegaard

・保持

 明確なトレンドとして存在するのは、相手のプレスを引き込んで縦に陣形を伸ばして、バックラインの手前に落とす、あるいは裏へ抜けるボールを供給する。いわゆる誘引→反転作戦。この作戦における中盤でポピュラーな形は、2人がヘソを共有し矢印を分散し合うものだ。いわゆるドブレピボーテ。
 この場合は、相手のトップのプレスで生じるゲートの奥と脇を選択肢として持てる。もし相手が追跡してきても、CB→CHのパスをスイッチにドブレピボーテのもう1人が前向きフリーの3人目となることで前進完了。さらに相手のCHを釣り出せていれば、トップとトップ下でもう1度同じことができる。一気に加速可能だ。
 相手が中盤の2枚を消しに来れば、GK,CBには時間がある。この際、前向きにボールを扱えるGK,CBは砲台として速さ、飛距離、弾道(柔らかさ)を自在に扱うキックを装備することが求められている。
 あるいは、ボールとともにコンパクトに陣形を前進させていく形も健在。相手のファーストラインを越す際のレシーバーとなる中盤は、CBに対してプレスに出ようとするトップの背中に立つことで、矢印を集めてからボールタッチで、あるいは基準を設定させることで、矢印を逃し、CBに時間とスペースを提供したり、ファーストラインを越える助けとなる。もしもアンカーの位置に相手の中盤が出て来れば、その次のラインが薄くなるので、ファーストラインを越えれば加速可能となる。

 どちらの場合も、SB/WBは高さを調整しつつ逃げ場になる。大型なSBであれば、相手が同数プレスで嵌めに来た場合、GKからタッチライン側へ逃すボールの蹴り先となる。また、繋いで前進する際には2通りの考えが存在する。まず誘引するという作戦が頭にあるのであれば、ドブレピボーテと同じぐらいの高さに立ちつつ、できれば相手のSB/WBの縦スライドによるプレスを誘発してその背中側に生じたスペースにアタッカーを走らせる。

あるいは安定した前進のため広いスペースの確保を優先する場合、相手サイドアタッカーの背中側にCBからのパスコースを作りたい。いわゆるプレスラインを切ることが必要だ。(プレスの誘導に沿ってボールを循環させていると当然サイドで圧縮を喰らう)
また、相手がサイドも含めて人基準で捕まえるようであれば、高い位置を取ってCBが相手との距離を取って広がるスペースを確保しつつ、緊急避難の際は相手を引き付けて降りながら、中央からのパスを引き取り近い足でダイレクトのフリックができれば反転につながる場合もある。

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万能型SBへと進化を遂げるDalot

 前進,反転,避難のどの場合にせよ、3人目のサポートによって前向きの視野を確保したボールホルダーを作り出すことができる。ボールが行き渡る選手の斜め後ろに入る。あるいは、空いていれば平行のスペースに列を上げて進出するなど。このような挙動は原則によって仕込まれておくべきもので、ユニット単位での認知負荷を減らしておけばスムーズにフリーになれる。また、どのような選手の組み合わせでも戸惑うことがなくなる。

 この局面に関して、23-24シーズンのボローニャやジローナは基本的かつ重要なポイントを再確認させてくれた。それは身体(上体)の静止だ。どちらも、3人目のサポートが必要な局面では(おそらく原則に従って)スムーズに先手を取った移動を絶え間なく行うが、ボールを扱う際には止まっている。そして相手の矢印と、スペース/選択肢の状態をスキャンしてまた適切な判断を下す。この一つ一つのゆとりが結果として速さを生み出す。自らは秩序立ったままで相手が乱れて行くのはそのためだ。

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23-24シーズンBologna躍進の象徴Calafiori

ミドルゾーンでの構築 vs ミドルブロック→プレス

 非保持側は、オールコートマンツーマンのようなある種の狂気を感じる戦法を採らない限り、ハイプレスを外されるとミドルゾーンでブロックを組むことになる。その場合、コンパクトかつ中を閉じるように構えることで、中央の楔を封じ、ライン間への侵入を許さない。

    この際、バックラインはコンパクトと言いつつも裏のスペースは消すのがベーシックな設定だが、ハイラインのチームも存在する。彼らは、敢えて蹴らせる選択肢に誘導しているのだろう。蹴られるとわかっているバックラインは対処が容易だし、相当に質の高いキックと巧みなバックドアからの高速での抜け出しでないとこれを破ることは難しい。

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コンパクトな非保持陣形を操ったEmery

 保持側は裏もライン間もダメ、となると保持側はU字型外循環を強いられる。ブロックの外で何も意識しないと相手の誘導に乗って外に閉じ込められることになる。ここで有効なのは、いかに出し入れしつつ相手の矢印を操作し、ブロックの秩序を乱せるかどうか。ワンタッチでリターンして良いのでブロックの中に1本でも刺す。あるいは外に相手が閉じ込めることを分かっていながら敢えて外に付けて圧縮させておいて逃して展開、など。

 オーソドックスなのは、左右にスライドを繰り返させて、鎖に綻びが生じた(ゲートが空いた、バックラインの場所の管理や人の追跡/受け渡しが上手くいかなかった)瞬間に斜めの楔をさしこむプレーだろう。

 また、ブロックの内外を行き来しつつ相手の管理下から逃れ、ファーストラインの脇から運んで次のラインから人を引っ張り出す、あるいはコンパクトゆえに管理しきれないスペースに速く正確に届けるようなキックを繰り出すことができればスムーズに侵入局面へ移行できる。

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ブロックの外へ逃れてのプレーを得意としたKross

侵入 vs ローブロック(押し込み局面)

 このエリアでは、ゾーン色が強まってくるのが一般的。ボール,味方,敵の順に見て自分の立ち位置を決めるのが原則。ただ、このエリアにおいても特にライン間で前向きフリーを作られたくないがゆえにCBが降りるFWを追跡する場面は頻繁に見られるようになった。特に2014年頃から、3バックで担当レーンを決めて、そのレーンに入ってきた相手を縦に出て潰しに行く守り方が一般的になったが、この考え方が4バックでも応用されるようになっている。
 ブロックにおいてはディアゴナーレの考え方が非常に重要だ。チャレンジ&カバーに似た、というか包摂されるが、横のラインの繋がりを意識しながら、1つ前のラインの選手が相手のボール保持者に矢印を向けた際に斜め後ろをカバーする動きを繰り返すことで侵入試行を断念させることが可能となる。

 また、特に442だとどのラインがペナ幅を死守するのか決まっていた方が良い。68mの横幅を4人で埋め切ることは困難だからだ。大外のアタッカーにSBがチャレンジする際、チャンネルを埋めるのはCBの出張なのか、あるいはボランチが降りるのか。後者の場合、平行のスペースやサイドを抉られた後のマイナスは誰が埋めるのか。
 相手のウイングに1on1だと質的劣位を突き付けられる場合はどのようにダブルチームを組もう。ただし、相手の逃げ場を制限することとカウンターに出る際の槍との間で折り合いをつけることが必要となる。

 クロスに対しては同一視野内にボールと相手を収めたいが、相手もそれを掻い潜ろうとしてくるので、であればしっかりと腕を使って相手との距離を認識しておくことが重要になる。

 そして基本ではあるが、ラインを揃えるのは誰か。誰が一番後ろになるのか。上げ遅れる選手のせいでオフサイドを取れなかった!という場面には山ほど遭遇する。

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堅い守備ブロックの中心 中谷

 ここからは侵入サイド。ゴールに至る道筋を描く中で、1つ手前の場所を共有することが大事になる。ペナ角,ポケット,ライン間が一般的だろうか。そしてそこに至る経路の用意。
 ゲートの奥に2人目、斜め後ろか平行の前向き3人目、という原則をこのゾーンでも適用し続けて侵入に至るチームもあれば、外に広げてから斜めに相手SBの背中に流し込む、楔を刺す。

 また、平行やポケット、背後で待つ/走り込む選手を複数重ねると奥の選手は捕まりづらい。崩しの際に3人称+1人寄ると奥の受け手を用意できるので選択肢が増える。
 
 気を付けたいのは、ポケットを取る際に走り込むコース。受ける足,身体の角度がゴールに向かっているのか。簡単に追い出されるような向き(内→外,利き足で持ちづらいなど)だと怖さ半減だ。あくまで目的がポケットを取ることにならないようにしないといけない。

 また、それぞれの場所からのクロスの目先を共有することも重要だ。ペナ角からはファーポストへドライブ回転で巻き込む,平行に速いグラウンダー。ポケットからはGK前ニアへ速く,ファーポストへフワッと,PKスポットへマイナス,のように。中の状況が確認できなければ、相手にとって処理しにくいボール、つまりバウンドするような速いボールが有効だろう。

 ライン間を取れたら、CBを攻撃するのがゴールへの近道だろう。中央の受け手はCBの手前と背後を見せ、食いついてくれば背後、ステイするならボックス手前で時間を持ってミドルや仕掛け。人に向かって仕掛けることで相手を固定し、飛び込むか否かの判断を強いる→相手が捨てた選択肢を使う。

 最後に、サイドの三人称について。旋回しながら立ち位置を入れ替えて追い越すスピードとエネルギーを生み出す、あるいはマークの混乱を招いてフリーを創出するのが一般的。このユニットでの奥を取る/ライン間やペナ角へ侵入する動きはイメージの共有が速さを生む。エコロジカルもそうだし、映像による視覚情報の共有も効果的だ。

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Fulahamの左3人称でブレイクしたRobinson

トランジション(含:擬似カウンター)

 ネガトラ局面で、本気で奪い返そうと襲い掛かるのか時間稼ぎなのかという濃度の差こそあれカウンタープレスを敢行しないチームは今や少数派だろう。誰が、あるいはどの範囲に存在する選手がプレスに参加するのか。また、どの位置まで、どの程度の長さ掛け続けるのか。ボールホルダーに絶え間なくアタックするのか、選択肢を消すのか、場所を圧縮するのか。これらを決めておく必要がある。

 反転されてバックラインが曝されれば、外に追い出すように中央のクリティカルな選択肢は消しつつ退却をするのがセオリーだろう。この際もどこまで退却を許容するのか決めておく必要がある。

 この際、攻撃側は相手の前を通過するようにしてスピードに乗った状態でボールを受けられれば、守備者がノーファールで止めることは至難の業となる。運ぶ選手はスピードを殺さずに、ただし複数の選択肢をチラつかせられるように細かく方向転換を繰り返しつつCBに向かって突っかけられるかが重要となる。

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独力でも推進力を発揮するEze

 続いて擬似カウンター。誘引して生み出したスペースで反転に成功させた後の局面はまるでカウンターのようなのでこのように呼ばれることが多い。特定のプレーをトリガーとして加速のスイッチを入れ、後方から追い越す速さと勢いを活かしつつ襲い掛かる場面はスタジアムも湧き上がる瞬間ではないだろうか。

 そのスイッチは、レイオフで前向きかつフリーの選手を作り出して大きな展開を蹴ることができる場面が1つ。(補足すると、プレス回避にしても相手を集めて解放する過程ではボールホルダーに敢えて寄ってダイレクトで逃すプレーは非常に効果的になり得る。)この瞬間に飛び出す動きが連動して行うことができれば、矢印を前に向けた相手守備陣の裏を取りやすくなる。

 1ステップ飛ばすとすれば、手前で引き取る動きを見せて、相手が食いついてくればフリック1回で追跡者の空けたスペースを突くことができる。
 さらに1ステップ省略すると、手前に降りる動きにCBを食いつかせて背後に一発で届けるのは最も直線的で脅威となる。

 まとめると、相手を食いつかせる・その矢印から逃げて即時展開・タイミングとコースを外すこと・手前と背後(のように真逆のベクトル)を突き付けること。これらがキーだ。

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手前と背後の関係性が脅威だった 西村&ロペス

個人戦術

 ここからは、ユニットよりもさらに細かい単位として「個」に焦点を当てる。戦略・作戦階層に直接ヒットするようなベースの力、というよりは、装備しておくとここまで述べてきたユニット戦術の実現可能性や実行の幅が広がるというものを取り上げる。

保持時 共通スキル

 ボールを扱うスキルの前提としてまずは受ける前に自分自身をいかに良い状態にしておくか。つまり、周りのスペース/選択肢/ボール/状況のスキャンを絶え間なく行い、複数の選択肢を用意し、相手の向けてきた矢印を感じ取っておく。

 ここで1つ。「ゆっくりプレーする」という言葉が独り歩きしつつあるが、これは前提として情報取得とボールコントロール、そして複数の選択肢の中から相手の出方に応じて後出しジャンケンを行えるようにするものだ。「緩」も「急」も当然必要であり、この振れ幅をチームとしても個としても大きく持っておくことが重要だ。レベルが上がるほどスキャニングの頻繁さが求められ、いわば細かくコマを分割して処理するようになる。

 そしてボールを止める際、最初のボールタッチの置き所は相手の向けている矢印に依存する。当然、強い矢印を向けてくるのであればそれを折る方向に外す必要がある。また、前方に広大なスペースを持っていればスピードを殺さないように持ち出して良いだろうし、寄ってきた相手が止まって待ち構えているのであれば体幹直下に置くことで飛び込ませないことが必要だろう。いずれにしても、止めるギリギリまで判断を変えられるように両足を地面にベタりとつけないべきだろうし、上体は出し手と胸を合わせて自分の意思を示すことが望ましい。かつリラックスした状態を保つ、背後の確認のために腕を使う、相手と距離取るためにゲートの奥でバックステップを踏むこともマスターしたい。

 腕の使い方と言えば、サイドで受ける際には特に相手の寄せを背中側に食らいやすいので、腕を使って相手との距離を取ってボールを隠し、押す力でバランスを維持できると安定したキープで時間を作ることができる。

 また、後方からボールを受けるのであればレイオフ、フリック、前を向けるのであればターン。これらを状況に応じて使い分ける。あくまで前向きの視野を確保できているフリーな味方に届けて展開する、加速することが目的なのであれば、自分がフリーの場合は自ら前を向く方が効率的である場面が多い。 そうしてターンをチラつかせて相手を食いつかせれば背中側のスペースが空きフリックやレイオフ後の3人目の飛び出しが効果的になる。

 キックの種類、つまり軌道や速さが多様で両足を使うことができる、というのは全員持っていて損のないスキルだ。あとはそれをどう使い分けるか。ターンできることを伝えるようなメッセージ性のあるパス。敢えてゆっくり出すことで食いつかせる、敢えて相手の目の前に速いボールを出すことでその場から動けない状態にしておいて、斜めに走り込んだ味方がファーストタッチで置き去りにできるように(あるいはトラップ際を狙わせるように)する、といった相手を操作するパス。背後へのボールは伸びすぎてGKに捕球されたり、ラインを割ったり、ゴールから離れたりしないよう、かつ背後を取って抜け出した選手に先に届くような軌道と速さが求められる。

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保持マスター Rodri

 ここからは全ポジション共通では網羅できていない事項について、細分化して記す。

GK

 長いキックの種類と、特に飛距離が求められるポジション。緊急避難を成立させるという意味では、バックラインが背走を強いられた際に、ゴールを外れて味方サイドに寄り、バックパスが少しバウンドしていても大きく蹴り返すことが両足でできることが必要になる。

 また、リセットするべくバックパスを引き取ったり、特にゴールキックスタートの構築vsハイプレスでは+1をもたらす必要がある。GKの位置は最も認知しやすく身体も開きやすい。そのため、遠くの選択肢から自由に選ぶ視野が必要となるとともに、ラインの背中側に立つ味方に付けた時、そのレシーバーは中央で全方向から激しい圧力に曝されることになるので、指でのジェスチャーや声でのコーチングによって矢印を逃す先を示し認知の手助けをすることができるかどうかは安定性に大きく関わるGKのスキルだ。

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新時代GKの象徴の1人 Ederson

CB

 構築のためには、相手トップの制限を喰らわないこと(つまり相手との距離を取る)とGK,SB,CH,WGとのパスコース角度を維持するためにペナ幅を基準に開くことがセオリーとされる。ただ、近頃はCBも移動として変数として組み込まれる場合が増え、列を上げる、外に流れる挙動を見せる選手も増えている。
 ボールを持ったあと、相手のプレッシャーから逃れたいあまりに外へ逃げると次に供給先として選択できる方向が強く限定されるため気を付けなければならない。前にスペースの貯金があれば運んで相手のプレスラインを越える、出し入れしつつゲートの奥でフリーになる味方を探る、そして対角や裏に飛び出す味方とタイミングを合わせて、かつ相手の予測の裏を掻くように蹴る。

 止まることも大事だ。正対することで相手を固定して、その守備者の斜め後ろに2つの選択肢を作るよう促す。あるいは足裏でボールを扱い静止することで、盤面を整えようというメッセージを発する。
 供給した後に立ち位置を取り直すこともまた重要だ。CBは周囲の選手の逃げ場として機能しなければならない。もう1人のCBより斜め後ろに立たないと相手を視認できないので、その方向へと角度をつけながら相手と距離を取ることが重要だ。

 3バックの脇に立つ選手(CBだけでなく、サリーダする中盤や残り絞るSBも含む)であれば、前述の挙動だけでなく、6人目の侵入者としてサイドのユニットに加勢して大外やペナ角からのクロッサーやポケットに突撃する役割を担う選手も増えている。

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3バックからの加勢で脅威となる Bastoni

SB

「構築」の章でも触れたが、SBは高さ調整しつつ外の逃げ場、ファーストラインを越えて運ぶ役、斜めの楔の供給者として侵入の入り口になる役割が求められる。相手ウイングの背中を取り、そこにSBがついてくればその背中に蹴ってもらうことで裏抜けを促す。
 または、相手を引き連れて降りながらCBからのパスを受ける→相手との距離に応じて、中央へのレイオフ/背後へのフリック/ターンしてから斜め前方の選択肢を使うことでプレス回避を成功させることも大きな貢献となる。

 大外のレーンに常駐する必要はないので、相手のSH-トップのゲートの奥に現れる、いわゆるオンタイムの2-6移動(タックイン)を行ってアンカーの脇に入ることで自らハーフスペースで構築の出口となったり、CB→WGのパスコースを開通させることもあり。また、6番や8番の位置の選手が外に流れる(サイドフロー)の動きと組み合わせてライン間のハーフスペースに入り込む挙動も考えられる。

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現代型SBの教科書 Rico Lewis

4-6(アンカー⇄ドブレピボーテ)

 ヘソの位置に入るということはすなわち全方向からの圧力を受けるわけで、他のポジション以上に認知の回数と質が問われる。ターンやレイオフを少ないタッチでコンパクトに即時判断できるかどうか。失いやすい立ち位置を取るのに、失った時のリスクは甚大なので常に繊細な動きやタッチが求められる。
 また、自分が人の管理から逃れられない際は、そこに立つことによってCBに時間と運ぶスペースの貯金を配っている効果を残したり、自ら降りて基準をズラしたり、自身の脇にもう1人中盤の選手を立たせて前向きフリーを創出するか。
 他の選手の技術やチームの規則次第だが、相手の出方に対して色々な挙動をスムーズに変えることができるに越したことはない。

6-8(ドブレピボーテ⇄インサイドハーフ)

 前述したように、4-6タスクの選手と矢印を分散するべく列を降りたりヘソの位置をボールサイドによって共有する挙動を身につけておく。あるいは、SBのところで述べたようにサイドフローをして構築の出口→サイドのユニットでの打開へスムーズに移行できる状況を作るか。ライン間に進出することで構築隊を軽くし、相手の中盤のラインを前に出にくくするか。
 
 様々な場面で3人目として引き取るアクションが求められるのがこのタスクだろう。2手先のサポートを通して自らがフリーとなり、相手の圧縮から逃れる→運ぶ/展開する。予測を基にしたロングセカンドの回収役としても可動域の広い彼らのタスクとなることが多いだろう。

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様々な局面に顔を出せるMeinoo

WG

 保持型のチームで大外を取るWGであれば、相手と正対し陣地進める、相手を退却させつつ背中側のポケットや平行に生じるスペースを使う、あるいはペナ角や深いところからのクロス供給を担うことが多いだろう。
 またはレーンを基準とするバックラインが多いが、そのルールを逆手に取ることも効果的だ。横断しながら楔の受け手となってライン間に進出する、あるいは横断ドリブルで相手バックラインの矢印を横方向に向けさせてギャップを使う/逆を取る、など。

 バックドアを狙う際は、相手の守備者に前方向への矢印を1度出させるための反発ステップや、止まった相手のよりも助走をつけてCB-SB間のギャップへ走り込む、あるいはCBの背中を取るダイアゴナルなランも効果的だ。
 
 クロスの蹴り先の共有の話は前で触れたのでここではキックの出どころとタイミングについて。両足で上げられることやアウトサイドを使ってのクロスは今後さらに使い手が増えていくのではないだろうか。

 また、WGはスローイン時に相手を背負うことが多いだろう。その際、先ほど記したように腕を使って逃すことももちろん大事だが、密着する相手に対しては大外レーンのスペースを敢えて空けておいて、そこに投げてもらって入れ替わって走ることも効果的だ。

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WGの位置で腕を使えると言えば家長昭博

ライン間

 資源が非常に限られ、打開するのに最も技術的な難易度が高い場所だと言えるだろう。
ターンをスペース消費量少なくできて、相手の守備者を固定するドリブルにできて、細かい方向転換や半歩ずらす事で一瞬、ギャップを生んだり足を振れるスペースを得たり。多くの武器を持って迷わせ、後出しジャンケンをする。

 コンパクトでかつアスリート能力が向上しつつける現代サッカーにおいても、いや、おいてこそ、この場所での創造性が価値となる。それを持つ選手とボールをいかにこの場所へ届けるか、少しでも時間と場所の貯金を持たせるかを整えるところは監督の腕の見せ所だろう。場所が限られるため、あまり多くの選手が共存することはできない。サッカーが抱え続けるテーマだろう。
(そのためマクロの視点では押し込みすぎずに余白を持っておく、というトレンドも生まれつつある。)

トップ

 最も様々なタイプが存在するポジションなので、さらに細分化しての記述は控えるが、共通して構築で求められるのは背負って定点の的となったり、降りてレイオフしたりと出口になる役割だろうか。あるいは、味方が釣り出したSBの背中側へ外抜けして長いボールを引き出すことで陣地を進める場面も最近は多く見られる。CBを外に釣り出すことができるのでクリティカルな侵入にも繋がりがちだ。
 ボックス内ではいかに相手のCBを観察して瞬間的に背中を取れるか(寄って離れる動きとか、横断しながらスピードを殺さずにギャップの奥へ走り抜けるとか)。
 そしてクロスにどのように入るか。敢えて止まって待つ、GKやCBの前に飛び込んで触る。そのような嗅覚が求められる。

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最も武器の多いトップの1人 Watkins

非保持

 理論ももちろん存在するが、個々のフィジカル能力によって最適解が異なる。また、組織と個の比重で言えば圧倒的に前者の割合が高いので、この章の記述は少なくなる。

プレス

 まずは相手の正面を塞ぐこと。最も相手の自由を奪うことができる。相手を進ませないことで、奪うという意味では挟み込むことも可能になる。プレスは多くの場合、閉じる→誘導→圧縮の順で行うが、自分の寄せがどのフェーズのものなのか、を認識しておくことが最も肝要だ。(またはどのように相手の死角から獲物を狙うか)
 もうひとつ、プレスに出るからにはボールを本気で奪いにいかないと圧力不足。

消す

 前進ルートを制限する、という意味合いの際はプレスよりも反応速度は求められず、寄せている対象がどのような選択肢を持っているのかを認識することができるだろう。後方の選手のコーチングの助けを借りながら、背中側の受け手を認識してその選択肢を消しながら詰めることは前線の選手全員に求められる。

予測・駆け引き

 サッカーというゲームは単純化していくと、この要素と陣取りゲームに帰する。と私は思っている。選択肢を削る→次の選択肢を予測するのが組織でボールを奪う、ということなのだと思う。また、駆け引きとしては敢えて選択肢を空けておいてそこに誘導する。そして自分が届くところに立っておき、出し手からボールが離れた瞬間に狩りに出る。あるいはギャップを視認しておいてそこに出されたら滑ってでも防ぐなど。人を捕まえる、ブロックの秩序を維持するだけでなくこのような要素も存在する。非保持も楽しもう!

対人

 (南米の選手を見ていると必ずしもそうではないのだが)腰を落としすぎない、両足をつかないことは方向転換に対処する上での基本的なセットポジションだろう。また、全ての対人場面で身体を入れようとしなくても良く、向き合った際は詰めてボールだけを狩ることも可能だろう。
 また、ワンツーへの対応としては、最初の選手の動きについていくのがセオリーだろう。走るコースに身体を当てて抜け出しを許さない。

空中戦

 最後に空中戦。落下地点に先に入ることが必須条件なのは言わずもがな。ファールにならないよう、飛ぶ前に競り合う相手と身体を当てておくと優位な状況を作り出しやすい。

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駆け引き、予測の巧みさと言えば彼ら。Maldini & Nesta

最後に〜決意表明〜

 サッカーは予測と駆け引きのゲームを楽しむゲームであり、移り変わる局面ごと、文脈に応じた対応力が常に求められる。監督としての私はその部分をチームとして磨くため、TR理論によるアプローチや原則の設定や整理に苦心してきた。
 しかし、今後は週末の限られた練習機会の中で少しでも個々を上手くすることがグラウンドへ向かう私の使命となる。そのため、今後はよりミクロな個人戦術に着目してコーチとしての私の腕を磨きたい。

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