弟名義のETCカードを利用して懲役10カ月になった兄

まず、本件の判決文に記されていた「罪となる事実」は、以下の通りです。

〈被告人3名は、a株式会社が有料道路の料金所に設置したETCシステムを利用するに際し、ETCカードの正当な使用権限を有する者が乗車する場合に通行料金が割引されるETC利用割引の適用を不正に受けようと考え、共謀の上、C(弟)名義のETCカードを挿入したETC車載器を搭載した普通乗用自動車を、B(知人)が運転し、A(兄)が同乗して、2度にわたって正規の通行料金との差額の財産上不法の利益を得た〉

ようするに、兄が弟名義のETCカードを借り、知人の運転する車(弟は乗車していない状態)でそのカードを使って有料道路を通行し、ETC割引によって通行料の差額を不当に得たことが「罪」にあたるというのです。

1つ目の「犯行」は、2023年11月、大阪市内の有料道路をCが乗車していない車にC名義のカードを挿入して約9分間走行し、ETC割引を使って「正規の通行料金との差額770円相当の財産上不法の利益を得た」というもの。

2つ目の「犯行」は、同年12月、同じくCが乗車していない車にC名義のカードを挿入して大阪市内の有料道路を約11分間走行し、「差額630円相当の財産上不法の利益を得た」、つまり、2回の走行で合計1400円をだまし取った、という罪に問われたことになります。

判決文の最後には、

「本件は、常習的に行われた一環の犯行であり、悪質である」

と記され、兄のAには懲役10カ月の実刑、カードを貸した弟のCと運転していた知人のBには、それぞれ懲役10カ月・執行猶予3年の判決が下されました。ちなみに、兄のAは暴力団関係者でした。暴力団はクレジットカードを作ることができないという事情もあって、弟名義のETCカードを借りていたとみられます。捜査機関は「反社条項(暴排条項)」を意識していた可能性もありますが、罪名はあくまでも「電子計算機使用詐欺罪」だったのです。

高速道路のETC専用レーン
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです

「警察や検察のさじかげん次第」

立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授は、今回の判決についてこう語ります。

「Aがこの裁判で実刑になったのは累犯前科があったためですが、そもそも今回の起訴は、警察や検察のさじかげん次第という感が否めず、さすがに看過できなかったため、私も法的見解を意見書にまとめて裁判所に提出しました。現在、弁護団は控訴の手続きをして、大阪高裁の判断を待っているところです」

そもそも、同居の家族のETCカードを借りて走行することが、なぜ罪になるのでしょうか。

松宮教授によれば、多くの道路会社は、ETCを利用する際、カード会員本人が乗車することを規則で定めているとのこと。私自身、長年ETCカードを使っていながら、これまで気にしたことはなかったのですが、あらためて各社のサイトを確認したところ、「カード会員本人が乗車するように」という文言が記載されていました。

たとえば、阪神高速道路の場合、営業規則の17条4項では、「ETCカードによる阪神高速道路の料金の支払いは、通行の都度、クレジットカード会社から貸与を受けている本人が乗車する車両1台に限り行うことができます」と定めています。