ゲーム実況者火あぶり君に関して

真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

火あぶり君という、ゲーム実況者がいました。活動期間は2008年から2012年で、古いマイナーなホラーゲームを担当していました。テンションは低いのですが、語彙が豊富で滑舌も良く、漢字の読み間違い等も全く無かったため、それなりに人気がありました。 彼が炎上したのは、2011年の冬のことです。

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炎上の原因は他のゲーム実況者からの共演依頼を蹴ったことでした。相手は火あぶり君の100倍以上の動画再生数やコメント数を集めている大物実況者で、当時としては珍しい企業からの案件依頼も受けていた成功者でした。 相手本人は火あぶり君が共演を蹴ったことを淡々と動画で報告したのですが、

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ファンや、匿名掲示板のいわゆるヲチスレと呼ばれる界隈の人々は火あぶり君を中傷し、彼の動画に陰惨なコメントを残しました。 図に乗るなとか、何様だとかのコメントはまだ良い方で、火あぶり君の喋り方や息の吸い方を揶揄し、やがて何の根拠もない人格攻撃を始めました。

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火あぶり君は犯罪者の息子だとか、ある凶悪事件に関わっているだとか、そういうことが大量に書き込まれ、やがて悪質まとめサイトと呼ばれるキュレーションサイトや、小さなネット出版社が迎合するような記事を出しました。

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火あぶり君は黙って動画投稿を続けていましたが、ある日突然「すいませんでした」と題した動画を残して、姿を消します。 謝罪動画かと思われましたが、内容はそれまで続けていたホラーゲーム実況の最終回で、火あぶり君は一言も喋りませんでした。 彼を炎上させていた人達は大喜びで勝利を祝いました。

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ただ、火あぶり君をずっと擁護していたファンの1人が、自身のブログでおかしなことを言い出しました。 「最後の動画が変だ。俺もこのゲームを持っているが、こんなステージは無かった。本当は火が回った館で幽霊のラスボスと対決するんだ。なのに火あぶり君は、墓場で人間の敵キャラと戦っている」

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「火あぶり君がナイフで刺しているラスボスは何だ？ノイズだらけの悲鳴だけど、どこかで聞いたことがある気がする。これは火あぶり君が共演を蹴った実況者の声じゃないのか。火あぶり君が音声を加工したんだろうけど、ちょっと普通じゃない。火あぶり君は大丈夫なのか」

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このブログの指摘に有志が集まり、すいませんでしたの動画を解析しました。火あぶり君を炎上させていた人々はすでに興味をなくし、どこかに行ってしまっていましたが、火あぶり君に共演を持ちかけたゲーム実況者の更新が止まっていました。

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すいませんでしたの動画には、まるでサブリミナル効果のように、一瞬をさらに細切れにしたような短い時間だけ表示される、画像が差し込まれていました。 暗い和室に立つ中年の男が、体中にマジックで四文字の文字列を刻んでいる画像でした。

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右園死児。 彼の体にはそう書かれていました。 おびただしく書き連ねられていました。 火あぶり君に構った人気実況者の動画は、令和の今も更新されていません。

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