植田真光
Shinko UEDA
誉田 私はどうしようもないような人でも何か一つ長所があるとそこと付き合うんですよ。それで、その長所を伸ばしてあげることをしていきながら人間として成長していってもらいたいと思っています。
短所は関わっている周りの人達で補っていけばいいんですよ。長所を伸ばし続ければ、それは10の短所よりも強くなります。だから私が仕事で集めている人間は、持っている長所はもの凄く長けています。
仕事についても、一人だけで取り組むことはせず、すべてチームでやります。
皆で取り組んでそれぞれを補いながら達成するんですよ。そうすると、ひとつ、ひとつ、仕事が終わるたびに皆がちょっとずつ成長してますね。私も含めてですけど。
植田 いま誉田さんがおっしゃっている、短所があっても、そこはみんなで補いながら良い所を伸ばそうよ、というのは人生のどの時期から思うようになられましたか?
通常、騙されたり、裏切られたりという経験があると、人を信じなくなり、人に期待もしなくなり、
「結局、人ってそういうもんなんだな、あいつはあんなもんなんだな」
と、思ってたりして、人に対して距離を置いたり、信用しなくなっていったりするじゃないですか。
誉田 はい。
植田 だいたいはその辺りに辿り着きますよね。
だけど「難点はあるけど、こいつにはこういう良い所があるじゃないか」っていうところで、騙すかもしれないけど、裏切るかもしれないけど「俺はこいつのここが好きで、この良いところを伸ばしてやったら何かあるかもしれない、難点は許そう」とおもえるようになった時期ですね。
誉田 騙されるかもしれない、足を引っ張られるかもしれない、損をするかもしれないという疑いよりも、どれだけいいものを持っているか、何を見せてくれるのかという可能性を求めるほうが面白いんです。
歳を重ねて、経験を積んでくると「相手にも事情があるんだろう」と思えるようになってきますし、いつまでも自分の中に怒りとか、許せないとかの感情を持っていると、そこから出られなくなってなかなか前に進めないことが多いですよね。
私はね、皆で明るい方に歩いて行きたいんですよ。よく、暗い話ばっかりする人がいますよね。苦手ですね。明るい話ばっかりの人のほうがいいです。能天気なことではないですよ。プラスだけでいくことはまずないですからね。大変なことを抱えていても前を向いて行くということですね。
私が人を許し、人の良い所を見つけ、そこを見て、そこを面白がり、人と付き合えるようになったのは、大きな挫折を経験してからですかね。
ボロボロになってすべてを投げ出そうと思っていた時の家族の私に対する想い。見捨てずに助けてくれた仲間たち。心に浸みましたね。「ありがたいな。人のために、自分のためにがんばろう。もう、このどん底の気持ちには戻って来ないぞ」と思いましたね。そこら辺りからだと思います。「どれだけいいものを持っているか」になっていったのは。
大丈夫かなこの人、と思ったらできるだけ裏切られないような環境の中に持って行って仕事をしてもらうようにしていますね。
植田 あいつはこういう環境でいると裏切ることもあるけど、こっちの環境では裏切らないだろうというところですね。
誉田 そうです。自分が信用している仲間たちの中に入ってもらってやってもらいます。私達の仕事仲間は一枚岩なんです。それぞれの個性はあっても向いている方向は一つなんです。その中にいると自然と心はは繋がっていきます。
人を信じる。神を信じる。自分を信じる。
信じる、信じないは自由だが、
信じないことには、前に進むことはできない。
疑った瞬間から恐怖心が生まれ、
目の前の事から目をそらし、
進むことや、考えることを止める。
大阪府咲洲庁舎ビルの再生の一環としての同ビル内のホテル事業や、
地域活性化に寄与されている、
被災地への支援など、
大きな意味での信心について話をしました。
誉田喜博氏と
植田 誉田さんは長く不動産取引の世界にいらして、今は独自の技術を使って既成のビルをリノベーションし、ホテル経営をされていますね。今まで、仕事上、沢山の苦い経験もされてきたと思うのですが、何を信じて仕事をされていますか? お金だけしか信じないという人もいますが(笑)
誉田 何を信じてやってきたということですか?
植田 商売ですから当然利益を上げることが目的になるのですが、利益は出るけれどそのやり方はしない、誰になにを言われようがそこは譲れないということとかですね。
誉田 まぁ、私の仕事の世界は海千山千の人が多く、色々な絵を描いてくる人がいまして、世間の普通の常識どおりにはいかないところはあります。身内も含めて騙されたり、裏切られたりしたこともあります。さんざんな目にもあっていて、仕事上、一瞬でも気を抜く事はできないんですが、でも、人の可能性を信じ、自分を信じる。その信念でやっていくということでしょうかね
人としての理想を言いますと、素晴らしくバランスが整っていて、その上で長所も飛び抜けていて、心がきれいで性格が良いというようなことになるんでしょうけど、そんな人なかなかいるもんじゃないですよね、というかほぼいないですよね。
植田 強くて優しいというのが理想ですが、強いと傲慢なところがあったり、優しいけど弱いとか色々ありますね。
誉田 弱いけど傲慢というのもたまにありますが(笑)
植田(笑)
植田 誉田さんは過去に人に裏切られたり騙されたりといった経験をされていますけど、その経験で学んだことからでしょうか、人の言動とか人の機微とかをよく見ておられますよね。で、通常はポーンと見放す場面でも見放さないですよね。誉田さんは情に重きを置かれる方なのでその分裏切られたりしたときの反動は大きいと思うんですよ。なのに、自分や、人を信じる心は変わらずに持っておられる。自分が何かを得た時、仕事の上での成功でもそれ以外でも、自分が成し遂げたという事と同時に感謝の気持ちも忘れない。
これは何かというと「俺の努力だ、俺の実力だ」とか「俺が頑張ったらできるんだ」というだけの解釈しかできない人は事あるごとにどんどん人を切って行くので、先細りをして最後は鉛筆の先みたいなところに立っているような状態になるんですね。でも、神の御加護なり、人の縁なりをありがたいと感じるような人はもっと大きくなっていくんですね。大きくなればなるほど自分の中で「まだまだ俺はこれではだめだな、もっとこうしなきゃいかんな」という理解がだんだんと深まっていくんですね。これは凄く大事なことだと思うんですね。
裏切られたり騙されたりして苦しくなったときに、石ころを蹴るように撥ねつける気持ちも経験としては必要なことだと思うんです。若き頃にね。でも、人間や人生はそんなことだけではないっていう事を知っているからこそ感謝の気持ちが生まれるんだと思います。
誉田 何事もプラス、マイナス両面ありますからね。
植田 でも、やっていかなければいけないので、問題のある行いがあった人でも、普通の世間から見たらとんでもない事で、とんでもない人かもしれないけど、俺の中では許せる。「まぁ、これぐらいやったらええか、しゃぁないか」「それよりもあのひとはこんな能力があるじゃないか。そこを伸ばすことはできないのか」「一人でほっておいたら、あの能力を使ってくれるところもないだろうし、自分の所に来たら活かすこともできるんや」と、世の中で使い物にならない部分は呑み込んでやっていくことをされてる。また、スタッフの人達もそれを理解されていると思いますね。
誉田 人はけっして一人では世の中を生きていけないです。利用されたり、裏切られたりしても人と関わって生きて行きますので、一人、一人をよく見極めて、良い縁を持てる可能性があるのならば付き合います。あとは気に入らないところも個性として見ていますね。目の前の出会いや挑戦に対し向き合う事を選びますね。皆が同じ方向を向いていれば全体はぶれません。一人が仕事で失敗した時、彼だけで背負うんじゃなくて、それは皆の経験として勉強させてもらいます。反省もしますが、反省より学習のほうが大事です。一人の失敗から皆で学習するんですよ。
私達は失敗したらすぐに方向転換します。「次、行こう!」と。やり直しはチャンスにもなります。「雨が降ったから、虹が出た」みたいにね。例えば、不動産の取引で、社長の私の判断で「これはいける」と多額の手付金を入れた物件でも皆で検討した結果「やっぱり違うな」となると、流す事もあります。一人の視野だけでは何かにこだわってしまって、全体を見られない事がありますからね。
植田 人を信じられない人っていうのを誉田さんはどう見ておられますか?
誉田 人を信じられない人?
第一歩目が不足でものを言う人か、感謝から始まる人の違いではないですかね。
不満だけを口にしたって何も始まらないですよね。私達の仲間でも最初は不足から入る人もいます。でも、やっていくうちにいずれ解ってくれるだろうと思ってやっています。最初は理解できなくても、いずれ理解してくれるだろうと。
それがその人の修行であり、生き方につながるんだと信じています。 (後篇に続く)