「裏金」発覚し会費をゼロに 保険も自前のPTA協議会も
「数円の不足分は、あの財布から出して」
兵庫県姫路市立小学校でPTA本部の庶務担当役員を務める女性(44)は2021年3月、会計担当の役員から引き継ぎを受けて驚いた。会計処理の方法を尋ねると、古参役員は、こう告げた。
「領収書は切らない。帳簿にも載せない。会計の秘密やからな」
その財布は「不明金」と呼ばれ、地域のお祭りでPTAがチケットを売った際の余剰金らしい。帳簿にも記入されていない「裏金」だ。監査担当の役員も指摘せず、内々に処理されていた。
「言われたことに黙って従う風習が、毎年続いている」と、女性は思った。なんとかしなければ――。
役員になって2年目、古参の役員たちが引退し、改革を決意した。
PTAのお金をめぐっては、不思議なことが多かった。その一つが、学校からの「おねだり」だ。
役員会の後、教頭先生が会計担当の役員をつかまえて、「コロナでごみ箱が足りないから、買ってください」と求めた。PTAの議題にも上がらなかったが、ごみ箱の費用はPTAの「予備費」から購入された。
その他にも、学校の印刷機のインク代、スリッパなど学校の備品をPTAが買っていた。
「本来は、学校の予算から出すべきものでは?」。PTA会長に話すと、会長も疑問を感じていたという。
女性ら新役員は、PTA予算に「学校協力金」という項目をつくり、学校からおねだりされると、教育委員会に問い合わせるようにした。「本来は学校で出すべき支出だが、緊急で仕方なく出したお金」という位置づけにして、予算要求を促したかった。
「おねだりに応じると学校に予算がつかなくなり、悪循環になる」と女性は言う。
市のPTA協議会(市P)や日本PTA全国協議会(日P)など上部団体に納めるお金の負担もあった。市Pが補助金を分配している地区PTAの決算書を見たところ、役員の飲食に使われていることがわかった。
上部団体を脱退すると、年間十数万円が浮いた。保護者が払うPTA会費を月250円から月200円に減額した。
昨年度から、ついに会費をゼロにして、PTAを解散。保護者会として再出発することになった。
繰越金のみで運営 活動はスリム化
会費が余っても返金などをせず、前年度からの繰越金が累積していた500万円を崩しながら活動している。広報誌をインターネットのブログに変えるなどしたため、ほとんど費用はかからないという。
以前は、PTAで運動会や音楽会の受け付けなどをしていた。だが、運動会は午前中のみ、音楽会は学年ごとの行事となり、保護者の役割もなくなった。
「ボランティア団体にしては、扱うお金の金額が大きすぎて、問題が起こりやすい」
神奈川県横須賀市PTA協議会の前会長桜井聡さん(57)は、PTAの特徴についてこう語る。
横須賀市内の小中学校PTAが加盟する横須賀市P協は2023年度末、上部団体の神奈川県PTA協議会(県P協)と日本PTA全国協議会(日P)を退会した。
最も大きな理由は、少子化による会費収入の減少だ。市P協は、各学校のPTAから、子ども1人あたり年69円の会費を徴収し、そのうち33円を県P協に「上納」していた。だが、毎年500~700人の子どもが減少する中、上納金を納めると、市P協の活動費自体が不足してしまうため、上納金が負担になった。
さらに、PTAへの加入は半ば強制的だったが、任意加入であることを徹底したことで、1割弱の会員が減った。「会費を有効に使うために退会した」という。県P協と日P退会後は負担が減り、徴収する会費を世帯あたり年60円に値下げすることもできた。
「上納金」やめ、本来の活動費へ
市P協は今年度から、PTAについて保護者が自由な議論をする「しゃべり場」を設けるなど、新しい活動を始めた。
学校の備品の購入や寄付など、学校側からの依頼についても、簡単に応じないように、ホームページで指針を公開した。本来、公費で負担すべきものをPTAが負担するのは学校教育法や地方財政法に違反するおそれがあることを周知している。「PTA会長は、こうした法律などを知らない保護者がなることが多い。ガイドラインを示すことが必要だと考えた」と桜井さんは話す。
県P協から脱退したため、上部組織のPTA団体保険には加入できなくなった。市P協は、この保険に加入していた横須賀市内のPTA会員も多くいたため、PTA保険を自前で立ち上げた。
桜井さんは、「放課後の事故などを割安な保険料でカバーできるPTA保険へのニーズはある」と言う。ただし、収益を上げると納税が必要になり、市P協が非営利団体であることに矛盾が起きる。そのため、一般社団法人を立ち上げて保険事業などは移管し、保険会社から入る手数料約100万円は、事務局の家賃と事務員の人件費や必要経費として使い切る方針だという。
内部統制の仕組み必要
横須賀市P協が退会した神奈川県P協では、昨年度、不明瞭な会計が明らかになった。県P協は、朝日新聞のアンケートに対し、「厳正なる会計処理業務、監査実施と透明性が担保できる組織体制やシステム作りを順次進め再発防止に取り組んでいる」と回答している。
PTA会計に詳しい公認会計士の岩崎淳さんは、「記録をつけ、第三者の目を入れてチェックし、会員に公開する。内部統制の仕組みさえ作れば、お金の管理は難しいことではない」と助言する。(杉原里美、小林未来)
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