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澱界宮の探索者 作者:赤上紫下

第 03 章


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08:群島宮第二層

 海を渡った後は、比較的近くにあった転移門(ゲート)を使って、第二層に到着した。

 最初の遠吠えを聞きつけたらしい追加のコボルドとの戦闘もあったけど、リシーとララの戦い方はどちらも直剣でスパスパやるだけだったので、参考になるようなものは、残念ながら何もなかった。

 第二層の天候は第一層と特に変わらず……湿度はちょっと高いかな。地形は、まだ転移門(ゲート)近くしか見てないからかもしれないけど、陸地部分は樹木や岩場が多くなったような印象。

 次の転移門(ゲート)は、普通に今居る転移門(ゲート)から少しだけ見えてた。間がちょっと、足場になりそうな岩場が二、三ある以外は荒れた海で、直線距離は二キロぐらいで、更に五〇メートルぐらいの断崖絶壁を上る必要が――


「うん? ……さっきの一〇〇メートルちょっとの海を越えた直後にこれって、難度の上がり具合がまた急だね?」

「……いや、第二層のメインはそっちじゃないわよアキミチ。来たことがなくても【所在確認】(マップ)で何となくわかるでしょ?」

「……なるほど」


 左に視線を向けてみれば、かなり険しい山のような陸地がある。【所在確認】で確認できる第二層の中心は……陸地と海の丁度中間ぐらい。陸地が盛り上がってるから向こう側はわからないけど、大きく曲げて作られたクロワッサンのような地形になっていて、そこをどうにか抜けていけば、陸路で辿り着けそうだ。

 アナログ時計で例えるなら、6がスタート、3がゴールで、反時計回りにショートカットするか、時計回りに険しい道を進むか、って感じかな。いや、ショートカットの方が険しいのか、普通なら。

 リシー達も陸路を進む気のようで、石造りの大きな台座のような形の転移門(ゲート)から下りて、陸地の方をそれとなく警戒している。


「一人だけ進んでも仕方ないでしょ?」

「そだね。急いでるわけでもないし」


 五人ぐらいなら運んで飛べる出力もあるし、五人以上乗れる舟もすぐに用意できるけど、もうちょっとゴーレムを動かす経験を積んでおきたいところでもあるから、丁度良いところではある。

 ……何を使うかは、先に教えておいた方が良いかな? 見た目はモンスターっぽいところもあるし、リシーとララなら多分とっさに出た攻撃なんかでも普通に貫けるだろうから、できれば慎重にいきたい。

 ということで――


「リシー、今ちょっとゴーレムの操作も練習中なんだけど、それで進んでみても良いかな?」

「ゴーレム? 重さはどのぐらいなの? 速さは?」

「重さは変えられるけど、大体二トンちょっとぐらい、俺を含めても二.五トンまではいかないぐらいに抑えるつもりだよ。速さも普通に歩くよりは速いね」

「可変式……? 何かまたおかしな物が出てきそうだけど……そのぐらいの重さなら……まぁ、良い、わよ?」

「ありがとう。それじゃ早速出すねー」


 同意も得られたので、見た目にわかりやすい一立方メートル角の透明なブロックを二個並べて取り出し、バスケットボール大のゴーレムの核は手で持てるように取り出して、持ったまま押し付ける。


「何この……ガラス、じゃないわよね、ちょっと変形してるし、そもそもゴーレムって言ったら岩じゃないの?」

「ん、この核も元は岩で作られてたゴーレムの核を流用してるけど、身体の素材は何でも良いみたいだよ」

「……そう、なの?」

「そうそう、こんな風にね」


 と言いながら制御して、ゴブリンの拠点を攻略した時と同じような身体に整えながら、というより持ち上げさせて胴体の中に座る。リシー達やララは外に居るから、座席は一人乗りのオープンカーみたいに開いてあるけど、ゴーレムの肩の位置は同じ位置にある。核は、俺から見て自動車のハンドルがありそうな位置に、二センチぐらいのゴーレムの身体で包んであるからそうそう傷つくこともない。


「……それ、戦えるの?」

「大型モンスター用に作っておいた大太刀があるし、ゴーレムに持たせた武器にも『闘気』を纏わせることはできるから、ゴブリンキャプテンは仕留められたよ」

「…………一番おかしいのは、アキミチ自身かしらね……」

「ええー……?」


 ララからの評価は、顔の上半分が仮面で隠されているにも関わらず、困惑しているのがよくわかった。

 ……リシー達三人も同じような表情だったからかな?



 ………………

 …………

 ……



 第二層の陸地ルートには、第一層の少なさは何だったのかという勢いでコボルド型のモンスターが多数居た。

 ゴーレムの二足歩行形態の身長はモンスターを引き寄せすぎそうだったので、手足を短く、座席を低くした四足二椀形態で進んでいたら、現れたのは複数の洞窟や登山道に分岐する分かれ道。

 ゴーレムだと登山道一択になりそうだなんて言われたものの、他の探索者が先行していたルートではあったので、直径一メートルぐらいの球状になれるように身体を削って、探索者が進んでいないと思われる洞窟も選べることをしっかり示した。

 それから相談した結果、他の探索者が先行していない洞窟を進むルートとなり、広さの関係で一度に出てこれるモンスターも減ったので、落ち着いて皆の戦い方を見る余裕ができたりとか。

 リシーはこの世界の基準で考えれば細身だと思われる直剣と『闘気』を併用して、ビキニアーマー姿ではあるけど正統派っぽい剣技で正面から。

 ララは似たようなサイズの直剣を使って、リシーより少なめの『闘気』であっさり倒していた。次の一撃に繋ぐ動作が流れるように軽やかで、まだまだ余裕がありそうな様子。

 ウルとルビーは、二人と比べると火力不足感はあるけど、複数体の足止めをしながらリシーが戦いやすい状況を整えるような役目、かな。

 俺はまぁ、周囲に人が居る状況で大太刀を振り回すわけにもいかなかったので、道中では刃が水平になるように突いたり、ゴーレムの手で首を捻ったり。洞窟に入ってからは、先端を刃のようにしつつ触手状に伸ばした手に『闘気』を纏わせて突きで斬ったり、別の手で矢を受け止めたりしていた。実験し放題な感じ。


「……クリアスライム?」

「いや、ゴーレムだよララ。身体が固体一歩手前の粘液でできてるだけでね」

「……『闘気』を使ってるのはともかく、ここまで自在に形を変えるのは、『だけ』って言えるほど小さな差じゃないと思うわよ?」

「核はゴーレムのものだし、形も俺が変えさせてるんだけど……」


 かなりゲーム的な操作が可能であるとはいえ、【物品目録】アビリティや転移門(ゲート)などを使った転移みたいな例外を除けば質量保存の法則は働いているので、太い腕を一気に細くすれば、腕は当然勢いよく伸びる。

 戻す時は逆に太くするようにイメージしてもいいし、とぐろを巻かせてから繋げてもいい。まぁ、これがスライムだったら変形するのが当然で、もっと楽に動かせそうだけどね。

 ともかく、そんなそんな伸縮どころか変幻自在の腕に『闘気』を纏わせて《シャープ》を使えば、雑魚モンスターぐらいどうということもない。

 ついでに、直接『闘気』を使わせた身体も特に削れたりはしていないので、思ったより安全が確保されている力だった様子。


「よくよく考えてみれば、キュプレス山林宮のボスワイバーンも素手で『闘気』を扱ってたっけ……」

「……アキ?」

「ああ、今ちょっと試したいことを思いついて……まぁ、ゴーレムの身体は全く削れてないから大丈夫だよね、多分」


 そんなことを考えているうちに、リシー達とララがそれぞれまたコボルドの一団を倒して、また自分が戦ってよさそうな順番が回ってきた。コボルドが比較的多いルートだったのか、単に戦闘音で呼び寄せているのかは不明。

 ともかく、さっき思いついたことを試すべく、左の貫手(ぬきて)を剣に見立てて『闘気』を纏わせてみたところ、特に痛みもなく、多分成功。そのまま狙いを定めて突きながら切り離すと、左手から放たれた『闘気』の刃がコボルドごと奥の岩壁に切れ目を入れることに成功した。

 といっても一体しか仕留められていないので、左手の無事を確認しつつ、残りは『闘気』を纏わせたゴーレムの腕を伸ばして仕留め、そのまま遠隔で死体も収納して交代する。


「うーん……剣から飛ばした方が速く飛ぶし、直接当てる方が効率的だから、これを使う機会はなさそうだね。残念」


 刃が飛ぶ速度が手の速度に依存してる感じだったせいで、流石にゴブリンの矢よりは速いとはいえ、回避されたり、射線に誰か走りこんだりしないか心配になる。

 素手で扱えることもわかったから、デコピン(フリックフィンガー)指パッチン(フィンガースナップ)で『闘気』の斬撃を飛ばして相手を斬る、みたいな技にもちょっとロマンは感じるけど、この辺はなんかもう完全に魅せ技の類だと思うので断念する。狙って飛ばせる気がしないからね。

 手のひらや指から弾として放って攻撃できれば面白そうだけど、これも『闘気』の操作だけで勢いをつけて放つのはまだ難しい。

 その辺までやりたかったらプレートではなく、アビリティを獲得してから使った方が多分楽……だけどそこまでする必要性も感じない。優先度はかなり低めかな。

 暇なときに、とりあえず指パッチン(フィンガースナップ)の練習をちょっと入れるぐらいで……。


「……さっきの《シュート》は、十分使えるんじゃないの? アキミチ」

「いや、よっぽど特殊な状況でもない限り、【物品目録】を使って何かを飛ばした方が強い上に量も放てるから、使いどころはちょっと難しいよ?」

「勢いをつけて取り出せるのは知ってるけど、そこまで威力は出ないでしょ?」

「そうでもないよ? 相当な勢いは付けられるし、重い物でも関係ないし」


 と、また俺が倒してよさそうな順番が回ってきたので、蕎麦畑に混じっていた二〇〇グラムほどの石ころを、コボルドの首を狙って超音速で複数射出。

 銃身内で加速するわけでもなく、取り出された時点で音速を超えている石ころは、銃と比べれば静かに飛び、四体居たコボルドの首にそれぞれ命中。当然のようにしっかりと貫通し、壁に当たって砕け散りながら奥の方へと飛んでいった。全弾命中して全滅させたので、ゴーレムの腕を伸ばして収納すればもう交代だ。


「ここは洞窟の中だから飛ばす物を自重して、拾った石ころをそのまま飛ばしただけだけど、見ての通り、さっきの貫手の《シュート》より威力も速度も出てるよね、これ」

「……こんなことができたのなら、何で『闘気』を……?」

「そりゃまぁ、手札を増やすためだよ。できることが増えれば、ゴーレムの腕に『闘気』を纏わせて振り回してるみたいに、もっと強い何かができる、ようになることもあるでしょ?」

「……確かに、そうかもしれないわね」


 リシー達三人の方は、貫手での《シュート》はともかく、【物品目録】の力で射出した物の威力は知っているからか最初から納得している様子だった。

 そして、次が来てリシー達が仕留め、ララが仕留めてまた俺が……と更に何度か順番が巡りっていると、先の方からざわめきが聞こえていることを認識できた。


「この先……探索者の反応はそこまで進んでないから、モンスターがたくさん居るのかな?」

「えっ? あ、そ、そうね、コボルドの村みたいになってるはず……だけど……もうここまで進んだの? 速すぎない?」

「そう言われても、俺はここに来るの初めてだし……ララはどう思う?」

「私? 一般的な探索者と比べてペースが速いのは【所在確認】で見ての通りでしょうけど、無理に急いでるわけでもない、良い調子だと思うわよ?」


 リシーへの回答に困ったのでララに丸投げしたら、もっともな回答を返された。

 誰でも使えるアビリティ、というか自分でもついさっき使ったアビリティなのにそういう発想に至らなかったのがちょっと恥ずかしい。


「それより問題は、一斉に襲ってくるコボルドをどう分けるか、かしらね」

「あー……倒していいならまとめてやるけど、存在力(ExP)のことを考えるとリシー達に譲った方がいいのかな……?」

「それだと、アキミチが存在力(ExP)を得られないんじゃない?」

「ああ、それは大丈夫だよ。土や海水を分解するだけでも存在力(ExP)は得られる、っていうか、今でもLvを上げすぎないように加減してるところだし」

「ハァ?」

「いやほら、初めて来る迷宮なのに一から全部パワープレイで乗り切るのはどうかと思ったり、しない?」

「…………しなくは、ないわね。今でも十分力業だと思うけど……」


 ……ちょっとララを怒らせかけた気がしたけど、セーフ。

 あんまりここで足を止めて後続に追いつかれるのも面白くないから、リシーに提案してみるか。


「俺が大雑把に堀を作って二分するから、その左右をリシー達とララとで分担、とかどうかな? 余裕があったり厳しかったら適宜相談する感じで」

「……私達は大丈夫だけど、ララはどう?」

「問題ないわよ。アキミチこそどうなの? 最初にかなり無茶をすることになるんじゃない?」

「『防護』もあるし、ゴーレムでも攻撃は防げるから多分大丈夫だよ」


 比喩ではなく他の何倍も速い矢が飛んできたら流石にちょっと危ないかもなーとは思うけど、そのぐらい。十中八九大丈夫、のはず。

 ということで、屋根付きスクーターのように前に壁を作ったゴーレムに乗って洞窟の出口からのこのこと出つつ、【物品目録】の力を通していく。

 コボルドの村の足元には土があり、どことなくボロい木造家屋が何件か、敵意はそこら中から何百と感じる。そんな景色を見ているうちに、幅二メートル、深さ三メートルぐらいの範囲指定が完了したので、土も岩盤もお構いなしにごっそり収納して、大まかな分断は成功……かな? 飛んでくる矢も大したことはなかったので、ゴーレムで全部受け止めることができた。


「終わったよ」

「凄いわね……それじゃ、私は左側を貰おうかしら」

「…………そうね。ウル、ルビー、右側頑張るわよ」

「はいっ」「わかりました」


 中ボス的な個体が居るのは左側だったわけだけど……まぁ、うん。

 数体程度との遭遇戦とは違った戦い方が見れることに期待、かな。

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