ボン尻ちゃんのなく頃に
『ひーん、覚えてろ~!』
パコレンジャーの必殺技が炸裂し、悪は滅びた。
──が、最後の最後で残された俺を誰がエスコートをするかで盛大な内輪揉めが勃発。戦隊の絆に不穏な影を落とす運びとなったものの、世界の平和に比べたら些細な問題だろう。
この舞台、別にテレビシリーズとの繋がりとかないし。
何はともあれ、ショーは無事終了。流石に自分が登壇することになるとは思わなかったが、まあほぼ蜜水のおっぱいに埋まってただけだからな……。疲労感もクソもない。いや、むしろ回復したまであるな。
──なのでおっぱいに罪はないが、しかし蜜水の罪はきっちりカウントされていたらしい。
「は、離せ~! 私を誰だと思っているんだ~! ひびきちゃんだぞっ、皆の妹のひびきちゃんなんだぞ~!?」
劇中のアドリブに関しては『普通の男性なら通報モノだが、オギャピなら仕方ない』と無罪放免。でも代わりに差し入れの件とか色々とバレたので、羨まけしからん罪で劇団の女の子たちにマジ詰められている。
ところでオギャピってなんです? 鳴き声の一種だろうか。ほら、ギエピー的な……。
『ちょ……暴れないで下さい! 逃げようったってそうはいきませんからね!』
『大体、妹ってなんですか! 私たちの方が歳下ですよ!?』
「ぐふっ……」
あ、今鋭いのが刺さったな。
「お、おのれ人間共め~……。たとえここで倒れようとも、第二第三──(中略)──第九十九の私が何度でもオギャってやるからな~!」
「延々と復活するタイプのクソボスかな?」
特定の手順を踏まないと倒せないやつ。
世に雑草などという草はなく、逆説的に全ての草は蜜水なのだ。
関係性を深堀りされると困るのは俺とて同じなのだが、ここで助けに入ると余計にややこしくなるのが目に見えている。どうにか誤魔化してくれたまえ。
でもなんで悪役演じてる時より言動が邪悪寄りなんだろう、あいつ……。素のアライメントが悪に傾き過ぎではなかろうか。
「──この度は突然のことにも関わらず、ご協力いただきまして誠にありがとう存じます」
「ああ、いえいえ。そう畏まらずとも」
俺がビタンビタンと跳ね回る蜜水に心の中でエールを送っていると、何やら上品な佇まいのマダムがやって来た。
自己紹介によると、彼女は劇団の副座長さん(既婚者)だそうな。腰は低いが、なんとなく背筋が伸びる雰囲気の人だ。
「いただいた差し入れのことも含め、本来であれば座長自ら挨拶に赴くのが筋なのですが。ご存知の通り、今は手が離せず……」
深々と頭を下げる副座長さん。
不在というか、戦隊メンバーはショーの後にふれあいイベントがあるのだ。座長さんはそんな戦隊ピンクの中の人らしい。
果たして一体どのピンクなのかは皆目見当も付かないが……座長ってくらいだし、おそらくリーダー格のピンクだと思われる。いやどのピンクだよ。ファン目線だと全然違ったりするのだろうか?
なお怪人レッグホールドは調子に乗って観客のヘイトを買いすぎたため、諸事情により不参加である。この辺りは元々代役であることも含めての判断なのだろう。
「こんなことで子供たちの楽しみを奪うわけにはいきませんし、座長さんにはあまり気になさらないようお伝え下さい。……まあそのキッズたちに紛れて、見覚えのある大きな(胸)お友達もいた気がするけど──」
「呼んだ?」
「呼んでない……」
「りょ。では話が終わるまで、隅で大人しく待っている。ジメジメ」
ニョキッと死角から生えて来たのは、北欧系の特徴を持った銀髪のブルーアイズジト目美人。
言わずもがな、彼女はニーニャ・オホリトテップの中の人であり──本名を"
……いやホント、何で居るの?
別に見られて困ることもないし、下手に放置してややこしくなるよりかはマシなのだけれど……。蜜水といいこいつといい、シンプルに結ちゃんの教育に悪そうなんだよな。
いやまあ教育番組のメインキャラがドスケベトプスって時点で、若干の手遅れ感は拭いきれないのだが。諦めない気持ち……!
ともあれ当然のような顔で居座ろうとする部外者に、副座長さんが困惑しながらも苦言を呈す。
「あの、このエリアは関係者以外立ち入り禁止の筈なのですが……」
「であれば何も問題はない。私はれっきとしたダーリンの関係者。……あるいは迷子の子猫ちゃん」
「前半無視するけど、要は出口が分からなくなったと……。すみません、すぐに連れて出ていくんで……」
絶対性感を持つニーニャは人を見つけるのが上手いため待ち合わせなんかは得意なのだが、目的地を探すのがド下手であった。
あと体力もあんまりない。
「は、はあ……。それであの子、瑞葉の件なのですが……。頭の痛い限りではありますが、あれでも未来あるギリギリ若手の可愛い教え子。今回は私が無理を言って参加させたことが全ての発端です。どうか何卒、お叱りの言葉はこの私に──」
「え、むしろあの程度なら全然可愛いもんですよ?」
「ええ……」
おや、もしやドン引きしておられる?
どうやらお礼よりも蜜水の助命……もとい、処女命嘆願が本題だったようだ。いうて今朝の暴れっぷりに比べたら大人しいもんよ?
あ、副座長さんが頭を抱え始めた。
「……彼女はスターも夢ではないほど才能溢れる教え子だったのですが、それだけに向けられる期待や重圧も増す一方で……。なまじハードルを飛び越えてしまえる能力があったばかりに、気付いた時には既に手の施しようもなく──あんなことに」
やはり指導する側としては、大人の尊厳を投げ捨てた教え子の末路に思うところがあるのだろう。
ただ、今の彼女が不幸であるかは別の話だ。少なくとも俺はそうは思わない。
「でも、自分(の性癖)に嘘を吐いて生きることほど辛いことはないでしょう。第一、他人がどれだけ彼女を評価し期待したところで、自分の才能をどう使うかは瑞葉の自由ですよ」
──彼女は真理に辿り着いたんだ。歳下異性へのオギャりこそが、このシコレス社会に残された成人女性のオアシスであることに。
俺だって人生二周目で好き勝手やってるんだ。
まあ才能ガチャで貴重なモテ女のレールに乗ったにも関わらず、目先の欲望に身を委ねて逆走するような残念な生き様は、どこか蜜水らしくもあり……。ん? これ悪口か?
つーか生身であることにさえ拘らなければ、にじこんでも役者時代と似たようなことは出来るんじゃないか? 準備の負担がえげつないことになりそうではあるが、それこそ3Dライブでお芝居とか。
そもそもVTuberの演者がやってることって、キャラを演じるほぼ役者──おっと、余分な思考はシャットアウトだ。脳が破壊されちゃうぞ。
──なんて身バレ不可避の発言を人前でするワケにはいかないものの、そこは男性経験の成せる技か。副座長さんはこちらの言いたいことを汲み取ってくれたようだ。
「……確かにそうかもしれませんね。道を
「うんうん……うん?」
「弟子から学ぶは師の喜び。私もたまには教え子を見習って、今夜は夫にオギャりの限りを尽くそうと思います」
そっかー、
やはり結ちゃん……結ちゃんだけが俺の癒やしなのか。我が貧乳の義妹は
でもニーニャじゃないが、急いで連れて来られたせいで元の座席までの道順は俺もうろ覚えなんだよな。
あ、そうだ。
「おーい瑞葉~。そろそろ結ちゃんと合流したいんだけど、お仕事終わったんならお前も来る?」
「いいの!? わ~い、
『
『そうだそうだー! そしてあの男性を打ち上げに連れて来て下さーい!』
絶対に退勤したい蜜水と、絶対に道連れにしたい劇団スタッフたち。熾烈な争いの火蓋が切られた。
数を頼りにする劇団側に対し、蜜水は身体スペックで圧倒。次から次へと撃墜スコアを稼いでいく。
「おっと、背中がガラ空きだよっ! 今の私は、アクメすら凌駕する存在だぁ──!!」
それはただの聖女タイムでは?
『くっ、なんてスピード……ってきゃあ!?』
「ふむ、流石はひびきん。すれ違いざまに相手のブラのホックを外し、最小限の動作で行動不能に陥らせている」
「なるほど……。いい歳したヒトメスって巨乳しかいないから、激しい動作をする上ではブラの重要性が跳ね上がるのか。でないと暴れ回るもんな」
「若くして垂れ乳になるリスクを恐れ、クーパー靭帯を庇ったままでは戦線への復帰は絶望的。数的有利が無意味となった以上、趨勢は決したも同然」
つまり戦術が戦略を上回ったと。どうやら今俺たちは、無駄にハイレベルな痴能バトルを目撃しているようだなッ……!
ニーニャと一緒に解説モブごっこに興じていると、自らの才能を遺憾なく発揮する教え子の活躍を見た副座長さんが、頭の痛そうな表情をして呟いた。
「……それはそれとして、甘やかすとあのように際限なく付け上がるため、適度に躾けることを強く推奨いたします」
「そっスね、肝に銘じておくことにします」
とはいえ予定にない代役までやりきったのだ。頑張ったご褒美くらいは与えられて然るべきだろう。
正直、最近はツッコミに奔走するあまりその辺疎かにしていた部分はあるからな……反省反省である。
初心忘るべからず──世のヒトオス共に出来ぬから、他ならぬ俺がやるのだ。
こういう考えが余計なオギャりを生む要因に繋がっている自覚はあるのだが──俺の承認欲求を満たすために俺を犠牲にするのは当然のことなので、何もおかしいところはない。やれやれ……なんてコスパのいい男なんだ、俺って奴は。
▼
急ぎ客席へと戻って来た俺たちであったが──そこに結ちゃんの姿はなかった。
更に言うなら、燕君たちチームショタの面々も見当たらず。まあ彼らに関しては他の観客と一緒に退場しただけかもしれない。
ただそうであるなら、荷物が残されているのは不自然であるように思う。単に連れションに行ってるだけの可能性もあるにはあるが……。
何よりも奇妙なのは──、
『ボ、ボン~……』
「えっ、ボン尻ちゃん?」
人っ子一人いないVIP席──そこには何故か、床に倒れて目を回すボン尻ちゃんだけが残されていた。
すぐさま駆け寄り着ぐるみを助け起こした俺たちは、何かを知っていそうな彼女……彼女? へ矢継ぎ早に疑問をぶつける。
「やい鳥公、ここで一体何をして──いや、それよりもそこに座っていた女の子を知らないか? セミロングより少し短いくらいの黒髪で、歳の頃は小学生。世界一可愛い義妹と言っても過言ではない小動物系で、多分天使の生まれ変わりだと思うんだが……」
『ボ、ボボンボンボン……?』
「っていうかこの子、こんなところで何してるのかな? 確か今くらいの時間って、ボン尻ちゃんはパレードの準備で忙しい筈だけど……」
『ボン! ボンボン!』
「それが事実であれば、目の前のマスコットは偽物である可能性大。今すぐ皮を
『ボン!?』
ニーニャが急に物騒なことを言い出した。このままでは埒が明かないので、着ぐるみを引っ剥がして中の何者かにご登場願った方が手っ取り早いと判断したらしい。
さしもの鳥畜生も身の危険を感じたのか、冗談だよね……? とでも言いたげなご様子。
『ボン~、ボン~……ボン!』
意を決したボン尻ちゃんは──念入りに? 周囲を見渡して? 他に誰も見ていないことを確認。
そして高笑いする令嬢の如きポーズを構え、全身から溢れんばかりのお嬢様性を強くアピール! そのもふもふに包まれたるは如何なる高貴な女性であるか、声高らか心
『ボボンがボンボン、ボンですわ~~~~~~!!』
…………。
……。
「こ、この金持ちにしか許されないエリート感漂う語尾、まさか貴女は……」
『そう──ある時は四十八手のVTuber、またある時はキュートなヒップのマスコット、しかしてその実体は……!』
「不平等院ケツがデカい堂さん!?」
『──って誰が国宝級のメートル越えヒップですかボン! 拝観料請求いたしますわよボン!?』
お、おう……。そこまで褒めたつもりはなかったのだが……よし、このノリツッコミは間違いなくご本人様だな。
『全くボンっ、今はわたくしのヒップサイズなんてどーでも……どーでもよくは、ありませんボンがっ……!』
「何か、間に物凄い葛藤が挟まってたね……」
「むむむ、この尻に対する往生際の悪さは確かに本物」
『そこっ、お黙りボンなさい! そんなことよりも、とにかく一大事なんですボン! このままでは"結社"のいやらしい
分かった、分かったから! 何かヤバいことが起きてるっぽいのは、字面から十分に伝わったから……。まずはそのけったいな語尾をどっかに捨てろ! 話がまるで頭に入って来ねえ……!
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※大切なお知らせ※
本作品、【求ム】貞操逆転世界の婚活ヒトオスVTuber【清楚系】』は現在KADOKAWA『電撃文庫』様にて、秋冬頃の刊行を目指し書籍化の準備中でございます!
ようやくご報告が可能な段となりましたので、VTuberの重大告知風にお届けさせていただきました。
イラストレーター様など、情報が解禁され次第近況ノートやTwitter等でお知らせする予定です。
更には今年の新作である【助けた竜がメスガキだった件。円満追放から始まる異世界『わからせ』ライフ。】
https://kakuyomu.jp/works/16818023213435873350
こちらも冬頃の刊行を目指し、書籍化が進行中でございます!
レーベルはKADOKAWA『ファミ通文庫』様。
担当イラストレーター様は『nima』先生です。
改めまして、これもひとえに皆様の応援のお陰でございます。
無事に世に
【求ム】貞操逆転世界の婚活ヒトオスVTuber【清楚系】 外なる天使さん@全作品書籍化進行中 @TheOuterAngle
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