第11話 弾ける汗、弾け飛ぶフロントホック
う〜ん……この状況、どうしたものかな。
おそらく、多分、絶対に僕のせいなんだろうけど、それを言う訳にはいかないんだよね。
「はい、出席をとるね〜」
そう言う和野先生。いつもならそこで教室内は静かになるんだけど、今日はザワザワが止まらない。
「静かにしてね〜。はい、相澤くん」
和野先生はそんなザワつきも気にせずに出席をとる。その事に更にザワつくクラスメイト達。
まぁそうだよね。27歳独身教師が白衣姿で《《ツインテール》》にしてたらそうなるよね。違和感と拗らせ感しかないもんね。しかも割りと高い位置でのツインテールだから動くとピョコンピョコン動く。
みんな先生の見た目が若い事は知ってるけど、それと同時に実年齢も知ってるからソレに容易に触れることが出来ずに白目を剥くだけ。
そして先生はチラチラ僕を見てくるのやめて。
「今日の欠席は渡瀬さんと坂下君だけね」
な、なななな……なんだってぇ!? そういえば確かに姿が見えない。昨日のアレのせいだよね。大丈夫かな?
ちなみにこのクラスでの渡瀬さんは彩音さんの事。妹の渡瀬美織と藤宮さんは隣のクラスだ。
あ、そういえば今日の体育は合同でやるって言ってたな。近づかないようにいつも通り先生とペアを組んで隅っこで大人しくしていよう。僕のクラスは37人。そして二人休んで35人。ほら、一人余るからね。
体操着姿の彩音さんが見れないのは残念だけど。
で、体操着に着替えて校庭に出た。チャイムはまだなっていないから、みんな散らばって好きな事をしている。
「赤坂君、今日は何故か体育の先生が腹痛でおやすみになったの。だからこの時間があいてる私が代わりに見ることになったの。だから先生とペアね」
「ねぇ拓真。私と一緒に組まない?」
「ねぇねぇ拓真くん。ボクと組もうよ」
あれ? おかしいな。いつもなら一人で小さい石と大きい石をわけてるはずなのに、なんで三人も僕の周りにいるのかな?
それに先生、隣に立ちながら僕の背中をサワサワしないで下さい。あ、ツインテールやめて今度はポニーテールなんですね。
渡瀬さんは近いよ。そんなに近づかなくても聞こえるから。それとなんで名前呼びなの?
あと藤宮さん。体操服がその大きな胸でパツパツになってるのそんなに見せつけないで。ちゃんとジャージのチャック上まであげて。わざと胸の下でとめて持ち上げるようにして強調しないで。そしてなんで藤宮さんも僕を下の名前で呼んでるの?
「ダーメ。赤坂くんは先生と組むの。年頃の男女でペアなんて何があるかわからないでしょ? それに二人ともクラス違うじゃない。渡瀬さんは藤宮さんと組んでね」
「…………ちっ。じゃあ後でね、拓真」
「え〜ケチ〜! またね! 拓真くん!」
不満そうな顔で戻っていく二人。
そして先生。組むのはペアであって腕ではありません。小刻みに震えながら胸を腕に高速で擦り付けるのはやめて下さい。小声で「今日のブラはフロントホックだからこんなに動いたら外れちゃうかも? プルンッ! って胸が飛び出ちゃうかも? そうなったら隠してね? 赤坂君の手で。なんちゃって! 外なのに! きゃー♪」って言わないで下さい。ナニがあるかがわからないのは先生の方ですよね? 一人で盛り上がらないでください。僕のを盛り上げようとしないで下さい。ほら、そろそろチャイム鳴りますよ。
「今日の体育は私が代理で担当でーす。体力測定をやるので委員の人は測定をお願いね。じゃあ体操が終わったらまずはペアを作って怪我しないようにしっかり柔軟をしてください」
和野先生がそう言い、体操が終わると次々に作られていくペア。 そして僕に向かって歩いてくる和野先生。背後で爆発が起きてもおかしくなさそうな気迫が伝わってくる。頭の上にアーチ状に【和野香里奈!】って文字も出てきそうだ。
「じゃあ赤坂君。柔軟やろっか」
そこから始まる柔軟という名の蹂躙。
背中合わせで腕を組んで背負い投げのように体を伸ばすやつでは頭の後ろで「んんっ……はぁ……んくぅ!」って艶かしい声を出してくるし、お互いの足の裏を合わせて手を引っ張り合うやつではわざと胸元を広げてシャツの中の谷間とピンクのブラを見せてくる。なんて卑怯なことをしてくる先生なんだ。
更に背中を押して前に倒れるやつでは僕の背中を手じゃなくて胸をグリングリンと押し付けてくる。その瞬間──
パチン
という音と一緒に、さっきまで伝わっていたものとは違う柔らかさを背中に感じた。
「あっ……うそ? ほんとに外れるなんて……」
「え? ちょっと先生まさか……」
「う、うん。ブラのホック外れちゃった……」
外れたのはわかったけど、背中にさらに押し付けてくるのはどうして?
「落ちちゃうから赤坂君ちょっと動かないでぇ!それにこんな所で外れるなんて……恥ずかしいの」
和野先生、あなたの羞恥心はいったいどうなってるんですか? それが恥ずかしくてなんで普段の行動に恥を感じないんですか?
「んっ……こすれて……」
擦れるなら動かないで下さい。そして早く付け直して下さい。
「ねぇ赤坂君? ちょっとお願いがあるんだけど、ホック付けてくれない?」
「……はい?」
何を言ってるのかな? この人は。
「ほら次は赤坂君が先生を押す番でしょ? 先生はちゃんと腕を伸ばして柔軟してるフリをするから、その時に後ろから手を回してシャツに手を入れて付け直して欲しいの」
「え、いや、それは自分で……」
「はいっ! 直して! ん〜〜〜!」
僕の言葉なんて聞かずに腕を伸ばして唸る和野先生。この人は正気なの? 頭バグってない? 後ろならまだしもホックの位置が前なんだよ? 絶対に僕のこの手がたゆんたゆんに触れてしまうんだよ? そもそもブラジャーのホックなんて付けたことどころか触ったこともないんだよ?
「は、早く……きて……」
そこは「付けて」でいいと思います。もう少し言い方を考えてください。
「じゃあ……いきますよ……」
そして──
僕は覚悟を決めて後ろから手を伸ばす。周りに見えないように背中で隠しながら和野先生のシャツの中に両手を入れる。
見えないから手探りでホックを探すんだけど、よく考えたらどんな仕組みになっているかわからない事に気が付いた。
そりゃそうだよね。分かるはずがないもの。僕は童貞なんだ。ただでさえ柔らかいものが手のひらに触れてて集中出来ないんだ。
だから、こういうことになるのもしょうがないよね。
「ひうっ! 赤坂君!? それホックじゃ……ひんっ!」
「すいません。わざとじゃないんです。硬かったから間違えたんです」
何とって? それは言えない。まだ18歳以下だから。
「赤坂君……もっと……」
和野先生が潤んだ目で僕見ながらそう言ってくる。
「先生……」
ギュッ!
──まぁ、そんなことになるわけは無く、僕は自分が着ていたジャージを脱ぐと和野先生に後ろからかけてあげる。
「え?」
「先生、これ着てください。そしてその中で付け直してください。僕にはちょっと先生の体は刺激が強すぎて無理です」
「あ、赤坂きゅぅぅぅん…………ちゅき……」
いいから早く付け直してくれないかな。柔軟終わっちゃうよ。
で、そのあとは特に何事もなく体力測定がはじまった。
僕はそこでとんでもないものを見ることになる。
それは藤宮さんの反復横跳び。
まさか……まさかあんなに暴れるなんて思わなかったよ。