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鬼喰いの浄鬼師~くらえ俺の消臭剤!妖怪・怨霊シュパッと討伐!イマドキの陰陽師が青春と呪術に全力投球!!~ 作者:羽之 晶

第2章~陰陽白書~


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第15話「ナイスですねッ」その1

 平安時代の夜空に消臭スプレーが浮かび月と重なる。


 呪符が貼られたスプレー式のボトルをがっしりと掴むと、上空を漂う阿形 桃眞(あがた とおま)は、足元に見える得体の知れない化物を睨みつけた。


 人間の胸部が大きく左右に裂け、中から血や内臓に(まみ)れた、赤黒い鬼の上半身が露となっている。それはまるで、男の体内で鬼の上半身が一気に膨張し胸部を突き破ったかの様だ。


 本来のその男は、鬼の腰付近で仰け反るように絶命している。下半身に纏う血に染まった神職の(ころも)からして、神社の神主のようだ。


 ジーンズに白いシャツ。桃眞の腰に巻いた茶系のジャケットがバタバタと上空で音を立ててなびく。

 鬼の更に下では、神社の神殿が木っ端微塵になり爆煙をあげている。


 桃眞と鬼はその爆煙から飛び出し空中を上昇していた。いや、と言うよりは、鬼の重い一打で桃眞が神殿を突き破り上空に飛ばされた形だ。

 それを跳躍し追いかける鬼という構図となっている。


「おかしいぞッ。この消臭剤……人間の気配も消せるはずだよな?」と言いながら、桃眞は消臭剤を銃を撃つ様に構える。

 そして五回プッシュした。


 シュパ、シュパ、シュパ、シュパ、シュパと霧状の消臭液を噴霧する。


「うん、メッチャ爽やか……爽やかッ!?」


 異変に気付きボトルを確認すると、『せっけんの香り』と表記されていた。


「あの野郎ッ、呪符で人間の気配を消す消臭剤に変えるって言っておいて。なんでせっけんの香りなんて渡してきたんだよッ」


 桃眞は、スプレーボトルのノズルを外すと、原液を鬼に向かってぶちまけた。

 この鬼は、目が見えなく匂いに反応する。

 原液を鬼にも掛けることで鼻を効かなくさせたのだ。


 桃眞や、今、地上にいる仲間達の『人間の気配』を消す事で優位に立ち回るはずが、せっけんの匂いが逆に体に付く事で、その存在を察知されしまうのだ。

 今、この時、必要としているのは『無香料』である。


 地上では、桃眞の仲間達が別の目的の為に、必死に神社内を駆け回っていた。


 正方形の境内(けいだい)を赤いレーザーが囲っている。

 呪符をレーザーポインターに巻きつけることで、鬼が通れない結界を形成していた。



 不織布マスクを付けたショートヘアーの小柄な秋瀬 蓮水(あきせ はすみ)と、スクエア型のインテリ眼鏡を掛ける慎之介が、敷地内の数箇所に、スマートフォンを置いていく。


 ズレる眼鏡を中指で押し上げる秀才の慎之介だが、ファブリーズの選定を間違った張本人である。



 スマートフォンから流れる呪術の声。

 安倍晴明の呪術をボイスメモに記録していたモノだ。



 逃げ回る何かを追いかける櫻子が、怒りを露わにしている。


 その手に握られた『ローズの香り』のファブリーズを睨みつける。


「慎之介のヤツ。肝心な時にローズの香りを選ぶなんて信じられない。コレじゃ逆効果よッ」


 逃げる何かは、呪術が鳴り響くスマートフォンに近づくと、慌てて引き返した。

 どうやら効果があるようだ。



 遥か上空を飛ぶドローン。

 その本体にも呪符が貼られ、書かれた呪術の文字が蒼白く淡い光を放っている。



 飛び上がる桃眞の更に上から境内を見下ろす。


「おひょひょひょひょ……まさか、小生(しょうせい)の女子寮盗撮用ドローンが、こんな時に役に立つとは思わなかった成り」


 ドローンのカメラが捉える映像は、境内の鳥居の側でVRゴーグルを付けている成春に届けられる。



 操作用コントローラーが無く、宙を舞う成春の指先に従うドローン。呪力で操っているようだ。


 ドローンは急降下すると、木の枝をすり抜け成春の頭上の鳥居を潜る。


 回廊の中を旋回し、崩落する神殿の周りを一周すると、廊下を走る櫻子を見つけ……尻を追いかける。


 斜め下からのお宝映像を脳内に記憶しようとしたが、ギリギリで理性が働く。


 デニムショートパンツから露わになっている太ももの隙間から、逃げ回る何かを確認すると、各自が耳に付けるマイクスピーカーに声を届けた。


「作戦成功なり。対象は離れの建物に逃げ込んだなり。どうでも良い慎之介氏と、小生の櫻子たんと蓮水ちゃんも、急いで離れに向かって退治するしん。桃眞氏は、もう少しソイツの相手をして対象に近づけないでくれナリ」


「誰がお前の櫻子じゃヴォケッ!!」と、櫻子の怒声が鼓膜をつんざく。



 桃眞は、両手の指を絡め印を結んだ。


「犬神ッ、お前も行け」


 そう叫ぶと、境内の隅にいた雑種犬の愛くるしい子犬が、離れに向かってヨチヨチと走り出した。銀髪の毛が逆だった途端に青い炎を纏い、鋭い眼光を放つ成犬へと進化した。


 そして離れに向かって疾走する。



 桃眞と鬼が降下を始める。

 ふいに鬼の口から飛び出た長い舌が、桃眞の頬を掠めた。


「キモイッつの」


 目の前の鬼を睨み付ける桃眞の黒い瞳が、緋色(ひいろ)の光に染まる。

 それに呼応するかの様に、シャツから伸びる腕にも同じ色の紋様(もんよう)が浮かび上がった。

 続けて首元から両頬に向かって、緋色に光る幾何学模様(きかがくもよう)の筋が浮かび伸びてゆく。


 黒い頭髪の所々にまで、緋色に光る毛がメッシュの様に色付くと、拳を高々と掲げた……。


「目には目を……歯には歯を……鬼には鬼の力で、テメェを浄化してやるよッ!!」


 そう言うと、数メートル下にいる鬼に向かって、全力で拳を振りかぶった。

 桃眞の拳から、巨大な緋色に輝く手が空振(くうしん)と共に飛び出し鬼を掴むと、地上の原型を留めていない神殿へと打ち込んだ。


 地面が揺れる。


 赤い衝撃波と()き上がる爆煙……。

 木片と(かわら)の破片が舞い上がる。



 ………………。



 煌々と行燈の明かりが神社の神殿内をゆらゆらと照らす。


 広い板の間の中央に、墨で描かれた大きな五芒星のマークとそれを囲む円陣。


 その中心で、手足を拘束され眠る神主。黒い狩衣を纏っている。


 マークの周りで胡坐をかき眠る桃眞、慎之介、成春。

 正座をしながら眠る櫻子、蓮水。


 両手を付きながら眠る子犬……。



 そして、彼らの前で平安最強の陰陽師である安倍晴明が床に座し、両手で印を結び術を口ずさんでいる。



 ――そう。これは憑侵除霊(ダイブ)である。



 彼らは一体、何と戦い、何を追っているのだろうか。

 もう少し、ここまでに至る話を続けよう……。




 第2章~陰陽白書~



 細く白い指先が慎之介の胸を滑らせる。

 潤んだ瞳、艶やかな唇から舌なめずりをする。

 そっと顔を耳元に近づけた。


 亜麻色の巻髪が慎之介の耳に触れる。



「あぁ……ッん……」と耳元に吐息を漏らす。



「あ、あの……先生?」と怪訝そうな表情で訊ねる慎之介。


「なぁにぃ」と甘い声を掛ける。


「これって治療ですか……」


 自分の色気が通じていないと察した霧島 流海(きりしま るか)は、つまらなさそうな表情で、慎之介から離れた。


「つまんないの。もう体の傷は完全に消えたわ。よく毎日、私の誘惑に打ち勝ったわね。褒めてあげる」と言いながら、霧島はブラウスのボタンを留め、溢れ出るバストを仕舞い込む。


「まぁ。興味ないんで」と白いシャツを被り、狩衣を纏う慎之介。



「興味ないかぁ。私もまだまだね」


「生徒を誘惑して何考えてんですか」


「さぁ。大抵の男はイチコロなんだけどさ。まぁ、アタシの誘惑が効かないって事は、さては他に好きな女子がいるな」と目を細めた霧島。


 慎之介は、その言葉に動揺したのか「か、かか関係ないでしょ」と急にぎこちなくなり、狩衣のボタンを留める手が滑る。


「図星か」と予想が的中してニンマリする霧島。



 その時、保健室の扉が開いた。



 ドアの前に立っていたのは、現怪伐隊隊長の村雨 祥生(むらさめ しょうせい)だ。


 深緑色の狩衣を纏い、烏帽子の下からは、ゆるふわパーマの前髪が目の上に掛かる。


流海(るか)」と村雨は低いセクシーな声を掛ける。


「あら祥ちゃん」と霧島が言うと、「おいおい、そう呼んで良いのは俺の女だけと相場が決まっている。もう決心ついたのか」と村雨が問いかける。


「何の決心」と霧島はわざとらしくキョトンとした顔で聞き返した。


「それは、お前……決まってんだろ」と言い、畳の上を歩き霧島に近づく。


 そして、霧島の両肩を掴むと、唇を尖らせキスをする仕草をした村雨。


「熱いチューをしてだな……今宵こそ俺とベッドインをしようぞ……ッ」


 そう言った瞬間、霧島は白衣のポケットから取り出した注射器を何の躊躇いもなく、ブスリと村雨の首元に突き刺した。


「あッ、あへぇぇ……」と情けない声を漏らすと、村雨は床に倒れ眠り始める。



 その光景をじっと目の当たりにしていた慎之介が失笑した。



「先生。それ……何したんですか」


「あぁ。コイツいつもシツコイのよ。だから、毎回迫ってきては、こうやって眠らせてるわけ」と淡々と答える。


「毎回って……。それに誘っておいて、拒否るとか中々悪魔ですね」とイビキをかく村雨を見ながら慎之介が言った。


「誘われる方が悪いのよ」と言うと、霧島は廊下に向かって急に叫んだ。



「あぁーん。誰かぁ。ブラのホックが外れそう。手伝ってぇーん」


 そう叫んだ瞬間、十数人の男子生徒が瞬く間に部屋の中に流れ込んできた。


「如何された!!」


「どうされた?」


「ホックの手直しは是非とも我に」


「是非とも私に」


「いーや私が」


「まて、それは俺の仕事だ」


 鼻の下を伸ばして必死に訴える男子寮生のその様は、池で餌を求めて口をパクパクさせている鯉の群れのようだと慎之介は感じた。



「お前ら、プライド無いのかよ……」



「小生に任されよッ」


 その声に「成春?」と声に出す。


 男の群衆をかき分けて成春がデレデレした顔を出す。


「おひょひょひょ。この日の為に、小生が編み出した舌だけでブラのホックを掛ける秘儀をお披露目させて頂こうではござらぬかッ」


 そう言った時、慎之介と成春の目が合う。


「おや、これは慎之介氏」


「お前も、霧島先生に落とされたのな」と冷ややかな視線を送る。



「みんなゴメェーン。自分でブラのホック直せちゃった」とあざとく舌を出すと、男達の「エーッ!?」の声が重なる。


「何なんだよコレは……」と慎之介が呆れる。



「ついでと言っちゃなんだけど。この人眠っちゃってさ。どこかに運んでくれない」


 甘い声でそう言うと、成春が最前列で叫びだした。


「せいれーつッ」


 成春の後ろに狩衣を纏う男子生徒が並ぶ。


「我ら、霧島 流海親衛隊にお任せあれッ!!」


 そう言うと、寮生達は村雨を担ぐと「流海様の為ならエンヤコーラッ、流様の為ならエンヤコーラッ!!」と号令を掛けながら消え去った。



 それを見送る、霧島と慎之介。


「霧島先生。いつかここの陰陽頭にでもなるつもりですか……」と訊ねる。


「そんなの興味ないわよ」


 そう言うと、また艶めかしい目で慎之介を見つめる。


「何ですか……」


「貴方みたいにガードの堅い男の子大好きよ。男は堅くなくっちゃね。落とし概がありそうだわ」と言い、手の甲で優しく慎之介の頬を撫でる。


「俺はアイツ等とは違います。治療ありがとう御座いました」


 そう言うと、慎之介は霧島の手をサッと振りほどき保健室を後にした。



 その後ろ姿をじっと見つめる霧島。


「私の誘惑にも負けずに一途に思われてる相手……きっと幸せなんだろうな」と、ぽつりと呟いた。





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