日大就活生は学長7宮川3で乗り切れ~就活の危機管理を検証する
宮川会見から内田会見、学長会見まで日大株は暴落の一途
皆さん、こんにちは。大学ジャーナリスト改め日大評論家の石渡です。もう肩書を変えようか、と思うくらい、日大アメフト騒動に揺れた一週間でした。
このアメフト騒動、誰がどう考えても、内田・前監督、井上・前コーチの指示であることは明らかです。
ところが頑なに認めない内田前監督の意向もあり、問題は長期化。しかも、この問題は、全く関係のない日大の就活生にも飛び火しています。
日大の就活生の心痛がどれほどか、察して余りあります。
それもあってか、25日夕方には大塚吉兵衛学長が記者会見をしました。そこでも一般学生の就活について言及しています。
では、日大の就活生は選考解禁を前に、このアメフト騒動をどう乗り切ればいいでしょうか。
実は学長会見、そして宮川会見にそれぞれヒントがあります。それが本記事タイトルの「学長7・宮川3」でもあります。
学長会見はヒトゴト会見
大塚吉兵衛学長の会見は、同じYahoo!個人で記事になっています。
記事タイトルにもあるように、学長会見は明らかにズレていました。内田・井上会見ほどひどくなかったにしても、これで信頼回復につなげたか、というと全くの論外です。
冒頭こそ謝罪していますが、誰に対しての謝罪かはっきりしません。関学や宮川選手への謝罪は謝罪という割にあまりにも具体性に欠くものでした。
そのうえ、冒頭の学長挨拶は通り一片の謝罪後、内部への事務連絡的な話や企業・OBへのお願いなど、無関係な話が次々に出ました。
一般学生の就活については、
「4年生の就職問題もいろいろカバーしたい。重責と感じている」
として配慮を求めていました。
が、配慮、というのであれば、この問題の収束を図ることが学長の責務です。
そもそも宮川選手に謝罪し「卒業後の進路まで力を注ぎ、1日も早く安心感を与えたい」としながら、一連の騒動については「監督、選手のコミュニケーション不足」としています。
宮川選手は監督・コーチの指示としていますから、それを否定する時点で「安心感」を与えられるわけがありません。
真相については第三者委員会を立ち上げる、としつつ、詳細は未定。
運動部の統括であり教学の責任者としつつ、内田前監督と何度話したか聞かれると「2回くらい」。
ぶちギレ司会者を当事者が評論するとは論外
ぶちギレ司会者については「1社でまとまってくれればという気持ちが強く、同じ局で3、4つクルーが分かれ、画作りしたことにイラッとしたのでは」。
どう考えても、ぶちギレ司会者についての回答は「ご迷惑をおかけして申し訳ない」以外にあり得ません。
それを「イラっとしたのでは」とはどういう神経なのでしょうか。
確かに学長コメント通り、メディア側にも問題があります。
そうした指摘はメディア側からも出ています。
“逆ギレ司会者”にも一分の理…アナウンサーは取材者なのか出演者なのか(5月26日 スポーツ報知配信記事)
本来の主役である会見者の答える映像の前にセットで流されるマイクを持って質問する“番組の看板たち”の顔、また顔。ふと、その会見の主役が誰だったのかを忘れそうになる。
ただ、こういう評価は同じメディア側、あるいは視聴者・読者など一般人から出る話です。
取材対応のまずかった日大の、それも学長がヒトゴトのように話すのはまずいのではないでしょうか。
宮川選手へのバックアップも、コミュニケーション不足だの誤解だの、と話すようでは、宮川選手の言い分を認めていないも同然です。ということは、宮川選手は記者会見の謝罪・自説を撤回しなければ日大に居場所がない、という論理だって成り立つわけです。学長会見で誰か、この矛盾を追求してほしかったところ。
記者会見だけでなく学長声明もヒトゴト
一般学生についても同じです。記者会見後、大学サイトには学長コメントが掲載されました。
「学生と向き合う」ことを第一に,全教職員を挙げて本学すべての学生・生徒に対する支援に取り組んでいくことを各部科校長に指示いたしました。一日も早く皆様が安心して平穏な環境の下で勉学に励めるように,さらには,一日も早く本学への信頼が回復されるように真摯に取り組んでまいります。
学生生徒に対する支援を指示、とありますが、では具体的にはどんなことなのでしょうか。
例えば、いたずら・抗議の電話・メールが増えたのであれば、対応人員を増やす、学生・生徒が不安がっているのであればカウンセラーを増やすなどの方策を出す、そのための予算もつけた、ということであれば具体的です。
あるいは、「信頼を回復」というのであれば、「第三者委員会を立ち上げた、中立の人員を集めて現在すでに調査を進めている」ということであれば、これも具体的です。ですが、そうした具体策は一切なく、口だけ。
この声明文一つ見ても、全くのヒトゴトです。そして当の学長(と田中理事長と内田前監督)だけがわかっていません。
なお、学長会見前の記事ですが、「ディフェンスライン」という概念から失敗をまとめた記事がこちら。
日大は、どこで判断を間違えてしまったのか(東洋経済オンライン5月24日配信記事)
もし読者の方が広報担当であれば、読んでおいて損はありません。
就活への影響はほぼなし、ただしメンタルでは影響も
さて、ヒトゴト学長、もとい、大塚学長が懸念する就活への影響ですが、実はほぼ皆無と言っていいでしょう。
この騒動は、大学のパワハラ体質や後手の対応のまずさにあることは日本人の99%が知るところです。企業採用担当者も同じであり、この騒動を理由に日大生の評価を落とすことはあり得ません。
人材研究所の曽和利光さんがキャリコネニュースでほぼ同じことをコメントされています。
安心していい。大丈夫です。普通の企業なら関係のない学生にまで問題を一般化することはない
ただし、SNS等ですでに出ているように、選考で落ちるところまでいかなくても、メンタル面での影響はあり得ます。
「日大かあ~、と言われてどう反応しようか困った」
「日大、というだけで『あの騒動をどう考えるか』と聞かれた」
ただでさえ、就活において学生は緊張しやすいものです。そこにアメフト騒動について聞かれて開き直れる学生などそうそういません。
これでメンタルに影響があり、うまく面接に対応できず落ちる、ということはありそうです。
ヒトゴト学長を一般学生は7割見習え
では、一般の日大生は就活中、どのように対応すればいいでしょうか。そのヒントは、ヒトゴト学長の会見にあります。
結論から言えば、あのヒトゴトぶりを学生は見習えばいいだけです。
「日大かあ~、大変だね」
と言われたら、
「皆さんに同情してもらえるのでかえって恐縮です」
くらいで十分。
「この騒動についての感想は?」
などと聞かれれば、
「ああいうパワハラに近い話が自分の大学であったことに驚いています」
くらいでしょうか。
そもそも一般学生がアメフト騒動を深刻に考えても解決しません。仮に1970年代の日大紛争のように「田中理事長体制の一新を!」など声を挙げるほどなら話は別です。が、一般学生でそこまで踏み切る学生はほぼいないでしょう。
ならば、学長のようなヒトゴト感を7割マネするくらいでちょうどいいのではないでしょうか。
もちろん、学長や理事長、内田前監督などの立場ある社会人(しかも当事者)が、ああいうヒトゴトのように話すのは相当まずい、という前提においてですので念のため。
残り3割は宮川会見の潔さを
ヒトゴト学長の会見を就活にも生かす、とは言え、全てヒトゴト学長をマネするのは危険です。
そこで参考にしたいのが宮川会見。
いや、同年代だけどあの立派な話し方は無理、と考えた日大生も多いはず。大丈夫、全部マネする必要はありません。
マネしてほしいのは、宮川選手の潔さです。
宮川選手の会見の特徴として、監督・コーチの指示があったことを明らかにしながら、監督・コーチへの感情論は一切、口にしませんでした。本音では、相当、煮えたぎる思いがあったことは誰もが想像できます。しかし、記者会見では感情的に批判することは全くありませんでした。それどころか、「指示はどうあれ、自分の弱さ」とまで言い切ります。
先にご紹介した東洋経済オンライン記事でも著者は、こう評価しています。
この質疑応答は、「視聴者に監督とコーチの責任を強く印象付けながら、それでいて監督やコーチを責めていない印象を与える」と視聴者には見えました。世間は加害選手に対してきわめて同情的になります。
一方、内田・井上会見にしろ、ヒトゴト学長会見にしろ、謝罪をしつつ、宮川選手の「誤解」「勘違い」「コミュニケーション不足」など、宮川選手の責任としか取りようのないコメントを連発しています。
このような相手への感情論は、真相が誰の目にも明らかな今回の騒動では明らかにマイナスです。
真相が明らかでないケースでも、感情論や相手への強い否定はコミュニケーションという点においてはマイナスです。
ケース1
採用担当「日大かあ~、大変だね」
学生「ホント、大変です。あんな、ろくでもない学長や監督のいる大学に入らなければよかったです」
採用担当者「この騒動についての感想は?」
学生「ああいうパワハラをすること自体、信じられないですし、恥ですね」
ケース2
採用担当「日大かあ~、大変だね」
学生「皆さんに同情してもらえるのでかえって恐縮です」
採用担当「この騒動についての感想は?」
学生「ああいうパワハラに近い話が自分の大学であったことに驚いています。仮に将来、私が似たケースに遭遇した時は、組織も私自身も両方守れることはなにか、それを考えるようにしたいです」
ケース1は両方とも、感情論・否定が強すぎます。すると、採用担当者はどう考えるでしょうか。
「もし入社して少しでも合わない上司・先輩社員がいれば、似たような感想を持つのか」と警戒します。
その点、ケース2はどうでしょうか。感情論・否定はなく、むしろ前向きささえ感じます。
体育会系の学生は部の雰囲気を正直に
では、日大の他の体育会系の学生が「君の部でもああいうパワハラ体質なの?」と聞かれた場合はどうすればいいでしょうか。
こちらも、ヒトゴト学長7・宮川3がベスト。
学生「うちの部は、監督・コーチとも熱心に指導してくれますがパワハラ体質、ということはありません」
採用担当「もし、ああいうパワハラ的な指示があったらどうする?」
学生「宮川選手のように苦しむかもしれません。ただ、誰かを批判するだけよりも、組織のためにも私自身のためにも両立できることはないか、考え抜きます」
実際、日大でも日大以外でも、部によって指導方針はそれぞれ大きく異なります。個人面接ではそのあたりも含めて話せばいいのではないでしょうか。
アメフト騒動と日大4年間の生活は別
これまで、日大は16学部中14学部のキャンパス、それぞれが独立していました。2016年新設の危機管理学部・スポーツ管理学部が三軒茶屋キャンパスに開設されますが、これは戦後の日大では初めて、1キャンパス2学部となったのです。
キャンパスごとに独立した大学はマンモス大学としては日大くらい。つまり、学部の独立性がきわめて高く、日大生のカラーははっきりしていませんでした。
それがこのアメフト騒動でネガティブなイメージがついてしまったことは否定できません。
が、このアメフト騒動と日大生、特に就活生がこれまで過ごしてきた学生生活4年間は別ものです。
そして、採用担当者の大半はそのことを理解しています。
日大の就活生には、こうした状況を理解したうえで就活に臨んで欲しいと心から願います。