ディズニー、死亡事故遺族に「ディズニープラス加入歴があるため訴訟無効」主張を取り下げ。今回のみの特例と強調
ディズニー・リゾート内レストランの食事が原因のアレルギー性ショック症状で女性が亡くなり、遺された夫がレストランおよびディズニーの監督責任を訴えていた裁判について。 問題のレストランの写真をみる 米ディズニー社側は「夫は以前Disney+サービスに加入していたため、利用規約によりディズニー相手の訴訟は起こせない」との主張を取り下げました。 (ディズニー、リゾート内の死亡訴訟を『ディズニープラス規約』根拠に取り下げ求める。裁判外解決を主張 | テクノエッジ TechnoEdge) ■訴訟に至る経緯 亡くなったのは、ニューヨーク在住の女医であるKanokporn Tangsuanさん。2023年秋に、夫のJeffrey Piccoloさんとその母親とともに、米フロリダ州ディズニー・リゾートの Disney Springs にあるレストラン Raglan Road Irish Pub and Restaurant を訪れました。 遺族側の訴状によると、Tangsuanさんは特定の食材に強いアレルギーがあったため、ディズニー・スプリングスのウェブページにあったアレルギー対応食などゲストの特別なリクエストを最優先するとの記述や、レストランのページにもアレルギーフリーメニューを用意しておりリクエストに応じると明記してあったことを理由に、問題のラグラン・ロード アイリッシュパプ&レストランを選んだとされています。 当日もウェイターに対して再三アレルギーに対して確認したところ、ウェイターはシェフに確認したのち、指示どおりにアレルギーフリーであると繰り返し明言したとされています。 しかし食事を終えたのち、リゾート内でショッピングを楽しんでいた際に体調が急変。アレルギーからの強いアナフィラキシーでショック症状を起こし、持ち歩いていたアナフィラキシー対策のエピペンをみずから使用したものの、搬送先の病院で死亡が確認されました。 遺された夫ジェフリー・ピッコロさんは遺族を代表して、問題のレストランと、ディズニー・リゾートを運営するウォルト・ディズニー パークス&リゾーツ社の責任を明らかにし賠償を受けるべく訴訟を提起しました。 ■ディズニー側の主張 しかしディズニー側が主張したのは、夫ピッコロさんは以前に動画配信サービスのディズニープラスに加入しており、登録時に合意した利用規約によって、ディズニーを公開の裁判で訴える権利をみずから放棄しているため、訴えは無効であるとの内容。 (正確には、登録時に「ディズニープラスの利用規約に合意して続ける」をクリックすると、リンク先の利用規約の項目中からリンクされたまた別の「ディズニー利用規約」にも合意が成立したことになり、そちらにはディズニー社および関連会社、子会社を相手とした集団訴訟に参加する権利の放棄、公開の陪審員裁判を受ける権利の放棄、少額裁判を除き争いはディズニーが指定した仲裁サービスを通じた裁判外紛争解決手続で処理するといった項目が含まれているため、今回の訴訟については取り下げを求めるとの主張でした) またディズニープラス契約に加えて、事件が発生した2023年秋にディズニー・リゾートを訪れる前にはチケット購入のためウェブサイトまたはアプリの My Disney Exprerience利用規約にも合意していることから、夫ピッコロさんは妻の死に対してディズニーを裁判で訴えることはできないとも主張しています。 これに対し夫ピッコロさん側の弁護士は、ディズニープラスには2019年に無料体験で登録したのみですでに解約しているとしたうえで、動画サービスの利用規約に合意したことをもって、無関係なリゾートやパーク内での被害を含む、ディズニーのあらゆる関連会社や子会社に対して永久に訴訟を起こせなくなり、米国で認められた通常の(陪審員)裁判を受ける権利を放棄したことになるといった主張は論外であると強く非難しています。 ■今回のみ特別に取り下げ。原告に訴訟提起の権利なし主張はそのまま この件が広く報道されたことから、ディズニー側は態度を一変し、裁判の継続を受け入れることを明らかにしました。 ただし、今回の訴えについては悲劇的な状況であることからあくまで自主的に、合意している法廷外仲裁の権利を行使しないとの立場です。 もともとの「ディズニープラスに加入すると、またはディズニー利用規約に合意すると、解約後も永久にディズニーおよびその関連会社や子会社のあらゆる行為に対して通常の訴訟を提起する権利を放棄したことになる」との主張自体を撤回したわけではありません。 今回の事件は広く報道されたこと、重大な過失により妻を亡くした夫に対して、過去の動画サービスの体験加入を盾に逃れようとする大企業の構図が明らかにディズニーのパブリックイメージを傷つけることから、「あくまで特別に」裁判の当事者になることを選択したとも考えられます。 (もし当初の主張に固執して、裁判の過程で一部でも否定されてしまえば、今後の「ディズニー利用規約に合意した相手には訴えられない」地位を脅かされる可能性もあり、主張の是非を問われることから逃げたとの見方もできます) ■ディズニーの監督責任についても主張対立 なお原告側は当初から、主張のとおりであればもっとも過失責任が大きいであろうレストラン側と、ディズニー(米ウォルト・ディズニー パークス&リゾーツ社)の両方の責任を訴えています。 これに対して、ディズニーは「そもそも訴訟をする権利がないため無効」に加えて、問題のレストランはディズニーの所有する土地にあるだけで、ディズニーが所有するわけでも管理しているわけでもない、よって当事者ではないとも主張していました。 これに対し原告側は、ディズニー自身がディズニー・リゾートの一部として自社の Disney Springsウェブサイトにレストランの公式ページやメニューを置き、アレルギー対策についての文章を掲載していること、レストランのページだけでなくディズニー・リゾート全体についてもアレルギー対策への取り組み等を掲載していることから、直接経営していないから監督責任はないとの主張は当たらないと反論しています。 またレストランのアレルギー対策や求人、スタッフのトレーニングをディズニーが左右できた、または管理する権限があったとも主張しています。(ディズニーは、法廷でのテクニカルな文言のやりとりではあるものの、この点を否定しあくまで無関係なレストランであると主張)。 ディズニー・スプリングス内レストランが起こした死亡事故に対してディズニー側がどの程度の監督責任を追うのかは、今後の裁判の結果まで分かりませんが、それとディズニープラス利用規約による免責主張はまた別の話です。 ■チケットはレストランとは別のテーマパーク。「特別に払い戻し」 なお、ディズニー側が主張していた「チケットの購入時にも利用規約に合意していたはず」は、Disney Springsやレストランの利用とは関係なく、レストラン訪問の2日後に訪れる予定だったディズニーのテーマパークであるエプコットの入場チケット。 妻が急死してしまったため、結局はエプコットも訪問していません。遺族側によれば、ディズニーパーク側はこの使用されなかったチケットの払い戻しに応じたものの、夫に対して「今回だけの特別措置」であり、また同じようなことがあっても払い戻しに応じるとは限らないと強調したとのこと。
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