第4回PTA会費は学校の「第二の財布」? 机や椅子を購入、草刈り機も

PTAとお金

杉原里美 小林未来

 「この大金は何に使われているのだろう」

 兵庫県稲美町の会社員男性(40)は、2023年度に初めて小学校のPTA委員になった。金融関係の仕事をしていた経験もあり、前年度の会計報告に疑問をもった。使い道が分からない20万~30万円のお金が、「教育振興費」という名目で、学校に渡されていたのだ。しかも、PTAの会計資料を作っているのは学校側で、通帳も学校が保管していた。

 「領収書を見せてください」。教頭に頼んだ。

 草刈り機に2万5千円、天体望遠鏡の部品に3万7千円……。本来は税金で購入されるはずの物品を、学校の判断で自由に購入していたことが分かった。

 「おかしい」と指摘すると、「今まで意識していなかった」と教頭は言った。PTAの本部役員にも疑問を伝えたが、「子どもたちのためだから」と取り合ってもらえなかった。

 仕方なく、関心をもってくれそうな町議を探し、相談した。町議が議会で質問したところ、町が全校を調査。他の学校でも、机や椅子などがPTA会費から購入されていたことが分かった。

 本来、公立学校の経費は、学校の設置者が負担することが学校教育法で定められている。さらに、公立学校が学校経費に当たらない部分について民間から寄付を受ける場合は、自治体が指定する手続きを取らなければならない。PTAから学校への寄付ももちろん同様だ。こうした手続きを怠ったまま、学校が自由に使っていた。町は昨年度末、PTAから寄付を受ける際のルールを定め、学校に通知した。

 男性は、PTA会費を子ども2人分で年5400円支払っている。「一保護者として、自分たちの会費が法律や自治体の規則に抵触するかたちで使われていることに憤りを感じる」と話す。

 男性によると、今年度の予算にも「教育振興費」の項目があるという。

 PTAは学校とは別の任意団体だが、会計が学校の事務と一体化していることもある。

 埼玉県公立中学校の事務職員柳澤靖明さんは、PTA会計に携わった経験がある。

PTA会計から支出 要求したら、教委が予算化

 約20年前に勤めていた学校では、PTA会費が給食費と同じ登録口座から引き落とされていたため、会費未納の保護者への督促を含めたPTA会計も、事務職員である柳澤さんが担当せざるを得なかったという。

 その際に、PTAからの「学校協力費」という名目で学校が自由に使える15万円から、職員室のプリンターのインク代や接待用の茶菓子代などが支払われていたことが分かった。本来は、必要なものなら公費で負担しなければならないものだった。

 学校のマラソン大会で校外のグラウンドを利用する費用も「学校協力費」から支払われていたため、次年度から教育委員会にその費用を要求するようにした。すると、教委は予算化してくれた。柳澤さんはPTA役員と話し合い、公費でまかなうべきものを整理した結果、学校協力費は半減したという。

 PTAはボランティアなのに、半ば強制的に、保護者の労力もあてにされている。

 小学生の娘2人がいるさいたま市の女性(44)は、PTAの広報委員だった一昨年の夏、市立小学校の理科室のカーテンを洗濯した。

 この学校では、年度初めの保護者懇談会で、教室のカーテンを洗濯する係を決める。じゃんけんをしないと決まらないこともあった。

 女性が広報委員になった年は、コロナ禍で保護者が集まる機会がなく、PTAの委員が洗濯を担当することになった。

 理科室の担当教員と日程を調整し、洗濯当日は職員室にあいさつ。脚立を借りて理科室に運び、大きなカーテンのフックを3人がかりで外した。

 外したカーテン約8枚は、近くのコインランドリーで洗って学校に持ち帰り、再びフックにかけてつるした。

 コインランドリーで支払った約600円は、どこにも請求していない。PTA本部から「自宅で洗うか、コインランドリーで洗うかご自身の判断でお願いします」と説明されたため、各家庭の自腹だと思っていたという。

保護者の「善意」で成り立つ仕組み

 そもそも、なぜ保護者が学校のカーテンを洗わなければならないのか。

 さいたま市によると、学校のカーテンを洗濯するために使える予算は計上されている。24年度は小・中・特別支援学校計164校で約6682万円だ。ただし、学校規模などに応じて配分した結果、最も多い学校でも約95万円しかない。プール清掃やピアノの調律、窓や床の清掃などにかかる費用もこの予算から支出する。優先順位は校長の判断で決めるという。

 一方、公費を支出する際は、あらかじめ市がリスト化した「業者登録名簿」に記載されている業者と取引するのが原則だ。サービスの技術力や税金の納付状況などを調査したうえでリスト化しているという。

 予算内でカーテンの洗濯をする場合は、名簿に登録してあるクリーニング業者に学校が依頼して請求書をもらう。学校が現金を扱う仕組みはなく、経理担当部署のチェックを通った後、市から支出される。

 保護者によるクリーニングは、あくまでPTAの善意による活動として「予算外」の扱いになっているとみられ、立て替えた領収書があっても出金することはできない。理科室のカーテンを洗った女性は、「委員になっても、予算の流れは示してもらえなかった。保護者の『善意』で成り立つ仕組みはおかしい」と話す。

「公費の使い勝手の改善を」

 どうして学校はPTAのお金を頼るのか。柳澤さんは、「学校財務規則に従って、学校には現金が配当されないことが多い。そのため、現金で支払わなければいけない費用が、PTAからの支出になりやすい」とみる。

 学校の公費は、翌年度の予算を教育委員会に要求する仕組みもあるが、多くは教委側からの一方的な額になる。急に必要になったからといって教委が費用を支払ってくれることは多くなく、払ってくれたとしても時間がかかる。そのため、年度後半になると、予算のやりくりが難しい場合も少なくない。

 さらに、予算の使い道について校長に権限がないことも多い。自由にお金を使う裁量が学校にあるかどうかは教委の判断で、自治体ごとに異なる。

 購入する品物が、学校の備品になるものなのか消耗品なのかによっても違う。

 消耗品は校長の決裁を経て事務職員が注文すればいいが、1万円以上の備品は年1回、要求をまとめて教委にうかがいをたて、教委が入札して決められた業者から納入されるといった制度もある。

 学校が、PTAから備品の寄付を受け付けた場合、原則として自治体の備品として登録するという手続きが発生する。自治体によっては、手続きが煩雑なところもある。

 「学校のお金(公費)の使い勝手をよくすれば、PTAに頼らない学校も増えてくるのでは」と柳澤さんは言う。(杉原里美、小林未来)

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