サリー・アン 通じない叱り方

2歳の子どもに「自分がやられて嫌なことはやめなさい」、「お友達の気持ちを考えて」と叱っている人を見かけました。思わず「それ通じていませんよ」と心の中で呟いてしまいました。

“相手の立場に立って考える”これを心理学の専門用語で“心の理論”と言います。

これが育つ時期は定型発達児の場合、4歳以降と言われています。ですから2歳児に前記のように叱っても「僕(私)は相手ではないのでわかりません」となってしまっているのです。

さて、自閉症の人はこれが年齢相応に育っていません。

そのため、もう小学校高学年になっているのに「どうして校長先生は禿げているのですか?」見知らぬおばさんの顔のシミを見て「この黒いブツブツ、どうしちゃったんですか?」と失礼なことを聞いてしまい、トラブルを起こすことがあります。

私の知人の自閉症の子が太っている人を指して「おばさんはどうして太っているの?」と言ってしまいました。焦った母親は「太っている人の前で太っているって言っちゃダメだよ」と注意しました。

すると、今度は太っている人を指して「ねえ、ママ、太っている人の前で太っているって言っちゃダメなんだよね」と言ってしまい背中が凍り付いたそうです。

■発達検査

自閉症スペクトラムであるかどうかを診断する心理検査に“サリーとアンのテスト”があります。

トライしてみてください。

Ⓒ松永夕露

 

サリーはカゴを持っています。アンは箱を持っています。

サリーは持っていたボールをカゴの中に入れて、部屋を出ました。

アンはそのボールをカゴから出し、自分の箱に入れました。

そこへ、サリーが帰って来ました。ボールで遊びたいと思いました。

さて、サリーはカゴと箱のどちらを探すでしょうか?答えは?

「カゴ」

 

正解です。

 

何故その答えを出したのですか?

「サリーはアンがボールを箱に入れ替えた事実を知らないのだから、当然、自分が入れたカゴを探す」

誰の気持ちになって(=立場になって)正解を導き出したのですか?

「サリーの立場に立って考えてみた」

正解できたのは “心の理論”が育っているから、相手の立場に立てない子は「箱」と答えてしまいます。

 

■息子が徐々に獲得している心の理論

特別支援学校高等部の頃の話です。ある日、担任から、電話がありました。

「昨日の下校時、立石君が路線バス内で友達にしつこくしてしまいました。友達はパニックになり暴れ、バス側にも周りの乗客にも大変な迷惑をかけてしまいました。これからは登下校時にバスを使わないでください」

息子の学校にはスクールバスがあったのですが、障害により体力のない生徒など特別に許可が出た場合のみ利用可でした。息子は対象外だったので公共の交通機関を使っていました。

担任からの電話を受け「さて、帰ってきたらどうやって叱ろう?」と私の頭の中はあれこれ忙しくなりました。

「お友達の気持ちになってみなさい。自分だって同じことやられたら嫌でしょ!」

いや、自閉症だから心の理論が育っていない、相手の立場に立って考えられないだろう…。

「『お母さんはあなたのこと信じているから、これからは二度と同じことをしないで』って言おうかな?」

いや、抽象的で曖昧な表現は通じないだろう…。

「またバスの中で友達にしつこくつきまとったらしいね!何度同じことを注意されたら分かるの!いい加減にしなさい!担任からも電話あったよ!やられた子の親はきっと凄く怒っているよ!」

これじゃあ追い詰めるだけ…。

悩んだ挙句、担任にアドバイスをもらうために「帰宅後、家庭ではどのように対応したらよいのか」の電話を入れました。

すると先生は「今日、学校で厳しく注意したので、本人から話がなければ、お母さんから特に話を持ち出す必要はないです。知らない振りをしていてください」と言われました。

帰宅した息子は自分がやったことに対して落ち込んでいました。

私は何も知らないふりをして、「お帰り」と優しく声をかけました。

すると!「やってしまった、先生から電話あった?」と息子から私に聞いてきたのです。顔を見ると引きつっています。

そこで私は “傷口に塩”にならぬよう、淡々と「もう二度と同じことはしないように」と諭すだけに留め、ネチネチ掘り返すことはしませんでした。

息子は叱られる度に反省し、「相手にしつこくしたい」という感情をコントロールできるようになっていると思います。

成人した今ではそんなトラブルはありません。心の理論は年相応には育っていませんが、確実に成長していて嬉しく思いました。

執筆者プロフィール

立石美津子(たていし みつこ)

著述家
20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。
自閉症スペクトラム支援士

『一人でできる子が育つテキトーかあさんのすすめ』
『はずれ先生にあたったとき読む本』
『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』
『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』
など著書多数

日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞作『発達障害に生まれて(ノンフィクション)』のモデル
Voicy  https://voicy.jp/channel/4272
オフィシャルサイトURL https://tateishi-mitsuko.com/
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