行政処分を受けて急増する解約請求。最初の発表後わずか1日で投資家約470人から解約申し入れがあり、請求総額は28億円超になったのは前号で報じた通りだ。今回は、6月末までの13日間で、1722人から総額95億6100万円の解約申し入れがあったことがわかった。2024年8月時点では、100億円を優に超えていると推定される。気になるのは都市綜研インベストファンドの財務状況である。

グループの支援を強調

 同社は7月29日、停止していた解約依頼の受付を再開したと発表した。月間の予算は5億円以上で、全ての譲渡に応じるまでに6カ月から12カ月を要するとの見通しを示している。同社が公表した今年3月末時点の最新の財務諸表によると、自己資本比率は3.2%。同社の総資産3044億円のうち、2900億円あまりは前述の手法で計上された土地などの固定資産で、現預金などの手元流動性は約100億円しかない。この状況でも、同社は年間100億円を超える配当を継続しなければならない。加えて、開発用地の約半分は成田国際空港からの借地であり、販売可能な土地の大部分はすでにファンドに組み入れ済みだ。

 共生バンクグループ代表の栁瀨氏は、昨年5月の大阪府との質疑において、「栁瀨個人の資産を投入してでも、出資金の償還を行う所存」と強調。成田の土地とは別にグループ内で一定の換金性資産を保有するほか、今後、3倍〜5倍の企業価値増大を達成する可能性もあるとして、出資金の償還には全く問題がないと説明している。

 いずれにせよ、主力商品の成田シリーズに行政からイエローカードが出された以上は、新たな収益源を探す必要があるのは間違いない。そんな状況で発表されたのが、冒頭に挙げた、販売会社を使ったロンドン市場への上場。共生バンクグループにとっては、窮地からの逆転を狙った大勝負になりそうだ。

 「みんなで大家さん」側は本誌に対して、2024年8月時点では個別取材には応じていないと回答している。

価格の妥当性をめぐり応酬

 「みんなで大家さん」の運営元である都市綜研インベストファンド、および共生バンクグループの各企業。足かけ10年以上に及ぶ行政当局とのドラマは一つの山場を迎えようとしている。行政の即時抗告における法廷でのやりとりを中心に、双方の見解を紹介する。

“分配の安定性と償還可能性は関係ない”

(大阪府・東京都の主張)

 「抗告人(編注:大阪府など)が業務停止処分により防止しようとしている損害は、既存の事業参加者(編注:投資家)の損害ではなく、今後新たに事業参加者となる者の損害である。付近の固定資産税標準宅地価格は、開発実現を前提とした事業者側の評価額の100分の1以下。業務停止処分を行わなければ新規の多数の投資者に、30日あたり約40億円もの損害が発生する可能性がある」

 「成田商品のパンフレットは、元本の安全性と安定した利回りを強調している。過去に想定利回りを下回ることがなく運用されているのだから、損失が発生するリスクはほとんどないと投資者は思い込み、投資を行ってしまうおそれがある。利益分配金の支払いが停止・遅延していないことと、開発が目論見どおりに完了して、償還を受けられる可能性がどれほど高いかとは、何ら関係がない」

“5000億円超の価値がある”

(都市綜研インベストファンド、みんなで大家さん販売の主張)

 「抗告人は、開発造成による対象不動産の価値向上を勘案していない。これは不動産特定共同事業の根幹を否定する考えであり、根本的な誤謬(ごびゅう)がある。実際、成田の開発用地は全体で5012億1400万円と評価されている」(編注:所有権3411億4300万円、借地権1600億7100万円の合計。共生バンクの依頼による鑑定書を提示)

 「軽微な記載ミスやすでに治癒した問題などを蒸し返して過重な行政処分を行えば、信用不安を惹起(じゃっき)され、取り付け騒ぎを誘発し、ひいては申立人(編注:事業者)のみならず成田プロジェクトの破綻を招来する可能性が極めて高い。グループの不特法商品の顧客数と優先出資総額は、それぞれ3万8000人、総額1986億円を超えている。解約権が行使されるなど、甚大な被害が生じることが優に予想される」

 なお、大阪高裁は7月4日、行政処分差し止めの緊急性に乏しいとして、事業者側が要求し、いったんは地裁が認めた申立請求を却下している。解約による約95億円の減収がただちに事業の遂行にとっての困難と言えないことや、2012年と2013年の行政処分が、事業者に対する「回復しがたい信用失墜」とならなかったことなどを理由に挙げている。

【注】 双方の主張の要旨は、大阪高裁、東京高裁での即時抗告の記録を基に本誌作成

(「日経不動産マーケット情報」2024年9月号より。購読者限定のPDF版はこちら→

小野 悠史=フリーランス本間 純