今回の行政処分の理由は、本来は開発許可の対象ではない土地を誤って投資勧誘や契約の書類に記載した、造成工事完了後の形状や構造を記載せずに完了前の形状を記載していたことなど。いずれも事業者側の情報開示姿勢に問題があったことをうかがわせるが、形式的で些末なミスを指摘したもののようにも思える。しかし、記録を精査すれば、「シリーズ成田」の販売が本格化した2021年初めの段階から、行政側が繰り返し質問への回答や資料の提出を要求しながら、より本質的な疑問に迫ろうとしてきた様子が浮かび上がってくる。大阪府は、ファンド運営の主体である都市綜研インベストファンドに対し、今年6月の処分に至るまでの間に、約10回にわたり、文書での質問や資料提出要求、聴取を行った。

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工事進捗率は2%

 行政側の関心の一つは、開発用地の資産価値だ。シリーズ成田に組み入れられた土地の価格は1m2あたりおよそ171万円。1号〜18号までの総額で約2500億円に達する。取得資金のうち、2割は都市綜研インベストファンド自身が劣後出資するので、投資家の負担割合は8割。その簿価約2000億円は、分配金を7%の利回りで割り戻した金額と整合的だ。

 昨年2月、大阪府は業務停止命令を念頭にした警告を事業者企業側に発するとともに、成田で投資家に販売されている土地が「周辺の固定資産税標準宅地価格である1万6400円と比べ、100倍以上の差がある」ことについて根拠の提出を求めた。当局は今回の即時抗告の場において、「仮にプロジェクトが実現しなかった場合、対象不動産が付近の固定資産税評価額でしか売却できず、事業参加者に対して元本がほとんど償還されないおそれがある」とも主張している。これに対し、事業者は、成田市が国家戦略特区に指定され、発展性があることを挙げ、通常の郊外地評価と同様の取引事例比較法による価格算出にはそぐわない旨、応じている。

 なお、グループの代表である栁瀨健一氏の著書「成田空港の隣に世界一の街を造る男」(2021年)によると、成田市から開発許可を得た2019年10月当時の話として、土地購入費などの経費は30億円程度、設計費や造成工事費などを含めても約100億円とある。

 二つ目は、成田プロジェクトの実現可能性。当初、2024年とされた開業時期は、数度にわたって見直され、直近では2027年春の一部開業を謳(うた)っている。2021年末には、開発予定地で天然ガスが発見されたため、工事が1年程度遅れると大阪府に釈明することもあった。裁判記録とは別に入手した、今年2月に共生バンク名義で千葉県に提出された工事状況の報告書によると、現場の造成について、この時点で69%が終了したと書かれている。しかし、建物を含めた全体工事における進捗率はわずか2%。この報告書では工事状況について、インフラの供給元との調整に遅れが生じ、「いまだに着手ができていない状況」と苦しい実情も明かしている。

 三つ目の焦点は、共生バンクグループ内の取引スキームだ。まず、都市綜研インベストファンドは投資家から集めた資金で、親会社である都市綜研インベストバンクから土地を購入。「成田ゲートウェイプロジェクト5号」などと呼ばれるSPC群が都市綜研インベストファンドに賃料を支払い、ファンド社はこの賃料を原資として年7%の分配金を支払う流れとなっている。つまり配当は、未完の開発プロジェクトに対し身内のSPCから支払われる賃料に依存する。府と都は「安定した賃貸利益があることは、開発者に賃料を支払うだけの資金が現状はあるということを示しているだけであって、開発事業が実現する可能性とは何の関係もない」(大阪高裁、東京高裁への即時抗告における申立書)と指摘している。