3万8000人の投資家が参加する不動産小口化投資商品「みんなで大家さん」。大阪府と東京都による30日間の業務停止命令に、事業者側は法的手段で対抗した。100億円を超える解約請求が寄せられる中、ロンドン証券取引市場へのグループ会社上場を計画するなど、事態は異例の展開を見せている。

 業務停止という重い行政処分の解除から、わずか10日後に上場が決まった企業は、これまであるのだろうか。不動産小口化投資商品の販売会社、みんなで大家さん販売(本社:千代田区)のことである。同社は7月31日、ロンドン株式市場で、SPAC(スパック)と呼ばれるスキームを通じ、実質的な上場承認を得た。実施は現地時間の8月19日、時価総額は日本円で約80億円とされている。

 同社は7月20日まで、東京都から業務停止処分を受けていた身。処分の違法性を問う行政訴訟や解約請求が続く渦中での上場となる。

 SPACとは特別買収目的会社のことで、事業実態のないペーパーカンパニーとして先に上場し、後で未上場企業を買収する。これにより、後者が上場するのと同様の結果を得る。今回、みんなで大家さん販売は、英国現地法人のMOH Nippon Plcの下で、間接的に市場へのアクセスを手に入れることになる。これまで事業の中で従属的な存在だった販売会社が主体になるなど不明瞭な点が多いが、今後の資金調達に向けてグループが様々な策を練っているのは間違いないようだ。

裁判記録が明らかにした対立の経緯

 「みんなで大家さん」は、都内の不動産会社、共生(きょうせい)バンクとそのグループ企業が不動産特定共同事業法(不特法)に基づいて運用する、個人投資家向けの投資商品である。グループ内にはファンドの運用を行う「都市綜研インベストファンド」と、商品を販売する「みんなで大家さん販売」という2つの免許事業者が存在。それぞれの所在地に応じて、大阪府知事が運用会社を、東京都知事が販売会社を監督している。累計募集総額は約2000億円、投資家数は3万8000人に達しているという。

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 主力である「シリーズ成田」は、成田空港近くの開発用地を対象にした投資商品。東京ドーム10個分、約46万m2の土地に対し、共生バンクが成田市から開発許可を取得したのは5年前のこと。この土地を基にして投資家から金を集め、不動産開発を行う。合計18本のファンドによる募集総額は約1970億円。本誌が今回入手した資料を集計したところ、今年3月までの販売額は合計で約1500億円に達している。

 しかし、肝心の開発計画は資金募集を始めてから、数度にわたって見直しが繰り返されている。直近では今年5月、帝国ホテルにおける記者会見で、5000人収容の球体アリーナ「デジドーム」を含む壮大なプランを披露した。昨年5月にも、当初のレジャー施設から冷凍冷蔵倉庫などを含むフード関連施設へとコンセプトを一変している。

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 その後の経過は本誌既報の通りだ(記事1記事2)。今年6月17日、大阪府と東京都は前述の2社に対し、計画を大幅に変更したにもかかわらず、資産価値や収益性への影響を投資家に十分説明しなかったなどとして、両社に30日間の業務停止命令を下した。「大家さん」側の反応は素早く、翌18日には処分の取り消しと執行停止を求めて、大阪府、東京都を各地裁に提訴。「処分は取り付け騒ぎを誘発し、会社と成田プロジェクトの破綻を招く」と訴え、いったんは一時的な執行停止を勝ち取ったが、行政側も即時抗告で対抗した。6月28日には東京高裁が、そして7月4日に大阪高裁が地裁の執行停止決定を取り消した。これにより、行政側の主張が認められ、業務停止処分が再開されることとなった。業務停止はその後解除となったが、解約への対応状況の報告など、行政処分に盛り込まれた命令や指示はその後も継続している。

 本誌は今回、一連の裁判記録を調査するとともに、各行政機関への情報公開請求や、複数の専門家へのインタビューを通じて、その背景の把握を試みた。