INTERVIEWS
乃村工藝社が「わたしたちの未来へ- SCRAP MATERIAL UPCYCLE PROJECT- SCRAPTURE」」をテーマに展示する作品に座るプロジェクトメンバー。
右からデザイナーの小川直人氏、クリエイティブディレクターの乃村隆介氏、デザイナーの武田慎平、亀田奈緒氏。
SPECIAL INTERVIEW | 乃村工藝社
半径3メートルから社会に。
サーキュラーデザインで次代につなぐ、廃材の彫刻
商業施設、ホテル、ワークプレイス、博覧会、博物館などの企画から施⼯、運営管理までを幅広いクリエイションを⼿掛ける空間の総合プロデュース企業、乃村工藝社。
「Sparks〜思考の解放〜」をテーマにした今年のDESIGNART TOKYOを舞台に、捨てるから繋げるをテーマにしたメッセージ性の高いアートファニチャー展示を行う。
「プロジェクトのスタートは昨年、乃村工藝社が130年を迎えて、その記念事業として始まりました。これからはもっと会社を社会へ開いていきたい、そのためのツールとなるようなものをデザインしよう。そう考え、社内の若手デザイナーたちに集まってもらいました」そう語るのは、プロジェクトを統括したクリエイティブディレクターの乃村隆介氏。
5名のデザイナーとともに、毎週のようにミーティングを重ねた。そうした試行錯誤の末、産業廃棄物に着目。
約1年を経て、建材や内装素材で出る廃材を封入したコンセプチュアルなファニチャー「SCRAPTURE(スクラプチャー)」が完成した。
「ここに行き着くまでに100案くらいは出したんじゃないかと思います。最初のお披露目は社のエントランスで行われることが決まっていたので、やはり自社の取り組みを体現したものであるべきだということで検討を重ねました。結果的にいい着地ができたと思います」。プロジェクトに参加したデザイナーの武田慎平氏はそう振り返る。
乃村工藝社は、2021年から、全社で「ソーシャルグッド活動」に取り組んでいる。環境・地域・文化・人の4つの活動領域で社会課題の解決を目指し、さまざまなアウトプットで具体的なアクションを全社をあげて行っている。「事業益と社会益をしっかりと両輪で回していこうというのがソーシャルグッド活動の理念となっています」と乃村氏。「SCRAPTURE」は、まさに、理念に沿った活動となっている。デザインコンセプトやネーミングのアイデアを提案したのは、チーム最若手の小川直人氏だ。
「アイデアをねり出した当初は、ソーシャルグッドの取り組み自体もなかなか自分ごとにできなくて。まずは半径3メートルくらいのことから考えてみようというのがありました。会社のマテリアルルームという場所に、いろんな素材サンプルの展示があるのですが、それと同じ量の使い終わったサンプルが山のようにあったんです。あ、これが問題だ、まずはこれをどうにかしないと、と身近なものから考え出したアイデアでした」
透明なPVCをバルーン状に成形し、その中にタイルカーペットやカタログの古紙、古釘やコルクなど、さまざまな廃材を閉じ込めた椅子。「ボヨン」と思わず体をバウンドさせたくなるような座り心地は、童心を思い出すようで、どこか懐かしくチャーミングな造形と体感に満ちている。
「実制作にあたって、普段お取引をさせていただく協力会社の方に、どのようなゴミに困っているのかヒアリングをしました。まずは意匠性などの恣意的なものは抜きにして、廃棄として苦慮している材料をそのままプロダクトにすることにしました。それにより説得力のあるものになっていると思います。サステナブルな要素をデザインに取り入れてほしいというニーズは、クライアントから多くあり意識してきた課題でした。リサイクル材家具などが世の中に多くある中、今回プロジェクト参加の機会を得て考えたことは、次につないでいくことができる「循環するファニチャー」でした。『SCRAPTURE』では、展示の役目を終えた廃材はバルーンから取り出され天板など展示装飾材にアップサイクルされます。空間で新たな価値を持って世の中に発信しつづけていくことができます」
と語るのはデザイナーの亀田奈緒氏。自ら協力先に電話をかけ、直接廃材調達の交渉を行った立役者だ。
イベント撤去や施設リニューアルなどで回収されるタイルカーペットの廃材(素材協力:リファインバース)廃材を封入する透明のバルーンのような皮膜。その実現は困難を伴った。
「社内には知見がなく、実際上空に浮かぶバルーンを制作する会社に協力していただきました。完成品を見た社員から、作り方の質問やクライアントに提案したいという声をもらいます。当事者だけでなく、社内・協力社・クライアントと共感の輪が広がっていくことは、業界の垣根をこえて変化をもたらす取り組みになり、実験的で有意義なイノベーションができているのかなと思います。」
今回デザイナートでの出展会場となるのは、表参道のGYREだ。CIBONEやHAY、MoMA Desgin Storeなどを擁する、エリア屈指のデザイン集積地での展示となる。「乃村工藝社が、社会とどう関わろうとしているのか、メッセージがどのように評価していただけるか、フィードバックを受けて、さらに取り組みをより良いものにしていきたい」と乃村氏。
亀田氏は、「子どもたちにも座ってみてほしい、反応が見てみたいですね」と話す。
「自分は半径3メートルの問題を探すところから始めたものが、プロジェクトを通して10メートルくらいに拡張した。DESIGNART TOKYOを通して、多くの方にこのファニチャーを体感いただければ、さらに課題認識が拡張していく。そんな機会になれば良いですね」と小川氏。
クオリティの高いデザインを通して、課題を社会とへと投げかける彼らの挑戦は続く。
text:Kumiko Sato
photo:Ryo Usami
BRAND / CREATOR
株式会社乃村工藝社
乃村⼯藝社は、商業施設、ホテル、企業PR施設、ワークプレイス、博覧会、博物館などの企画、デザイン、設計、施⼯から運営管理までを⼿掛ける空間の総合プロデュース企業です。グループ全体では、全国9拠点・海外8拠点、国内外6つのグループ会社で事業展開しています。 1892年(明治25年)から培ってきた総合⼒を活かし、フィジカルとバーチャルを融合させた空間価値の提供で、⼈びとに「歓びと感動」をお届けしています。近年は、持続可能な社会を実現するため、事業活動を通して幸せなインパクトを生み出す「ソーシャルグッド活動」を推進しています。
https://www.nomurakougei.co.jp/
SCRAPTURE(SCRAP MATERIAL UPCYCLE PROJECT)
普段は目にすることのない内装にまつわる廃棄物を身近に感じ、感情と記憶に訴えかけるメッセージアートとして制作されたプロダクト。新たな内装材として次代にアップサイクルし、共創の輪を広げるメディアとして従来のスクラップ&ビルドのメッセージの発信とは異なった実用かつ持続的にメッセージを訴求する家具として、より良い未来を考えるきっかけとなることを目指しています。