日本全国に700弱あるJC。各地で大がかりなイベントを展開することも(写真:青年会議所提供)

「日本青年会議所(JC)」をご存じだろうか。全国に700弱あるこの団体、知っている人からすると、「企業の2代目3代目が構成員で、ボンボンの道楽」というイメージもあるようだ。とくにバブル期などは、入会することが一種のステータスで、理事長ともなれば地域の顔役として将来にわたって政治や経済などの分野で活躍する人が少なくなかった。

実際、政治の世界では今話題の麻生太郎氏や細野豪志氏、小泉純一郎氏、経済界では森ビルの森稔前社長やウシオ電機の牛尾治朗会長、芸術分野では歌舞伎役者の市川團蔵氏など、出身者の顔ぶれはそうそうたるもの。一方、昨年2月には同会が公式ツイッターで不適切発言を繰り返す事態が起きたことを覚えている読者もいるだろう。今回は、実際に所属していた筆者の観点からJCの活動実態に迫りたい。

会員になれるのは20~40歳

日本には現在4つの青年経済団体があり、JCはその1つだが、他団体には母体組織があるのに対して、JCは独立した組織である。各地域にそれぞれ公益社団法人日本青年会議所(日本JC)から独立した青年会議所が存在している格好だ。

アメリカの青年会議所をモチーフに、1951年に設立されたJCは、よりよい社会作りを目指し、ボランティアや行政機関などの社会的課題に取り組んでいる。会員になれるのは20~40歳の青年で、40歳になると退会しなければならない。2018年1月時点での会員数は約3万6000人で、会員の平均年齢は35歳だ。

【2019年6月19日8時00分追記】初出時、青年会議所の入会条件に誤りがありましたので上記のように修正しました。

JCによると、会員の37%が会社の代表を務めているほか、39%が取締役、11%が管理職を務めている。世間のイメージどおり、創業者や事業継承者の割合も高く、11%が創業者、36%が2代目、33%が3代目以上となっている。このほか、弁護士や税理士などの士業、地方自治体の職員や会社員なども会員として活動している。

加入するきっかけは、企業経営者である親の勧めであったり、取引先からの勧誘が多いだろう。筆者のような個人事業型の業種、つまり弁護士、司法書士、税理士などの士業は顧客開拓を視野に入会することが多い。筆者の場合は、同級生が会員であり、誘われていたのだが、飲み会が多いイメージがあり保留にしていた経緯がある。入会を決意したのは、年齢制限があるからで、入れるときに入っておこうと思ったためで、それほど前向きな理由ではなかった。

JC活動は、所属する青年会議所での毎月行われる例会と、所属する委員会の打ち合わせである委員会活動が柱。出席義務が課されるのは例会と委員会だが、責任あるポジションを任せられると、委員会内での役職者会議、理事に任命されれば理事会、正副理事長に任命されれば正副理事長会議など、JCでの活動自体が増えていくことになる。

したがって、正副理事長や理事、委員会の役職者になると、月に4~5回はJC活動に参加することとなる。理事長ともなると、近隣の青年会議所との打ち合わせ、地元の各種団体、OB会、都道府県、地方、全国の青年会議所との会合も加わる。そのため、仕事に関与する時間は大幅に少なくなるだろう。

では、実際JCはどんな活動をしているのだろうか。例えば、藤沢青年会議所では、大きく青少年、地域振興、会員拡大、対外、内部事業を行っていた。青少年事業は、主に小学生を対象とした事業で、学校では体験できないような取り組みを企画し、有志の子どもや親子が参加することができる。例えば、市庁舎の建て替えに伴い、松(藤沢市の木)を1年かけて育てた後に新庁舎に植樹するという取り組みをした。

事業費はすべて会費で賄われている

地域振興事業については、藤沢市は2020年のオリンピック・パラリンピックのセーリング競技の会場でもあることから、オリンピックに関する講座を開き、サイクリングのパラリンピックメダリストと接するイベントを実施。その際、1人の学生がサイクリングの選手として活動し、地元出身のメダリストとの会話に興奮していたことが思い出される。

このほかにも、観光のピーク時に大災害が発生した場合に、地元住民以外の観光客は避難の場所があるのか、いかにして速やかに帰宅を促すかなど、日常生活では考えることのない事態を想定した勉強会を開催。企業でも、行政でもやっていないことを独自の視点とネットワークで開催にこぎ着けるところは、JCならではといえるだろう。


山梨・甲府で開かれたベーコンフェシティバルには1万人以上が訪れた(写真:青年会議所提供)

ほかのJCに目を転じると、かなり大規模なイベントを開催していることがわかる。例えば、甲府JCのベーコンフェスティバルは一般参加者1万人以上を動員。出雲JCはフィリピンのスラム街であるスモーキーマウンテンに地元の高校生を派遣し、命や貧困について学ぶ機会を提供し、さらに対外的な発表会を開催した。

おそらく読者の皆さんの地元でも、気づかなかったが実はJCが裏で企画したり、手伝っているイベントは多いのではないだろうか。横浜のイベントとして有名な横浜開港祭は毎年横浜JCが主催団体の1つとして活動している。他にも、国際アカデミーというプログラムでは、世界80カ国の青年会議所メンバーと1週間寝食を共にし、相互理解と友好を図っている。

JCは、これらをすべて無償のボランティアで行っている。それどころか、JCの活動は会員の会費で賄われているので、会員自ら金を出し、自ら企画し、時に企業や行政を巻き込んでいるのだ。筆者が所属していた藤沢青年会議所の場合、入会金が6万円、年会費が12万円だった(入会金などは青年会議所ごとに異なる)。日本JCの場合、予算が15億円ほどあるので、大掛かりなイベントを企画することも可能となり、年に数回ある全国規模の運営に充てられている。

また、他団体や行政との共催事業の有無やOB会から資金補助など、外部団体との組み方で予算規模も変わる。JCの事業は、一般参加者は無料のことが多いため、誰と組んで、何をするかはつねに青年会議所にとっての課題となる。地域のJCでは予算に限りがあるため、事業費用は限られるが、外部団体との連携で1000人規模のイベントを実施することもある。

JCがほかの経済団体と違うところは何だろうか。通常、団体に所属する際は、法人として会員になっていることが多いが、JCは個人として加入することとなる。会費も活動費もすべて自腹で負担する団体である。自社の発展だけでなく、参加する会員による地域貢献、青少年への貢献を目的としている。

いわゆる「エリート」だけではない多様さ

JC自体や会員は社会的な課題に対する感度が高く、自治体や官庁をはじめとしていろいろな団体とコラボレーションしている。直近では外務省とSDGs(国連で採択された持続的な開発目標)に関するタイアップ宣言に署名し、中小企業や自治体におけるSDGs推進を進めている。

JCを卒業すると、元JCと名乗ることなく、地域のロータリークラブやライオンズクラブに所属する人も多いだろうし、中小企業団体などに参加する人もいる。地域活動に熱心で、仲良くなったらJCの先輩であったということも当然ある。全国組織のため、事業展開でのタイアップも可能なネットワークが目に見えずとも存在しているようだ。

筆者自身もJC卒業生や現役の会員と仕事をする機会が増えてきた。JC経験者に共通するのは途中で投げ出したりしないことだと個人的には感じている。

また、例えば中小事業者に対するIT関連の補助金など、政策的な補助金の話を関係者を通じて概要を知ることができるなど、今の時代に必要なリアルなネットワークと情報の鮮度は、JCならではといえるだろう。噂レベルでなく、情報元が特定できる情報の信頼性があるのは、JCが中小企業経営者団体として政府から認知されているからではないだろうか。

ここまで書くと、JCは地元の名士やお金持ち、人脈のある人などが集っているように見えるかもしれないが、筆者からすると、JCは異業種の集まりで、さまざまなバックグラウンドを持つ人の集まりでもある。例えば、中卒、高卒は当たり前。若いころは地元で迷惑をかけたが、今や中小企業を立ち上げて経営しているというような人間はたくさんいる。

筆者自身は、JCに参加した期間はわずか3年だったが、貴重な体験をすることができたことは間違いない。参加してよかった点は3つある。

1つ目は青少年事業に対して行政サイドと連携して事業が実施できる点だ。JCの主な事業の1つである小学生向けの事業は、地域の教育委員会の後援を受けていることが多い。筆者が個人的に子ども向けの事業を企画実施しても、教育委員会の後援を受けるには至らないだろう。しかし、教育委員会に「JCです」とあいさつに行けば快く迎えてもらえる土壌がすでに出来上がっている。

2つ目は日本青年会議所の会頭が委員として参加している政府の有識者会議に会頭随行員のオブザーバーとして参加できたことだ。今日本では、多くの有識者会議が設置され、その中で議論されたことが閣議決定され、関係省庁を通じて各自治体や業界に政策が割り振られている。自分の住んでいる国の方向性が話し合われている会議に参加できたことは、かけがえのない経験だった。

政府関係者でも、企業経営者でも「JC」です、と自己紹介するとすぐにわかってもらえる利点もある。例えば、昨年、大阪で地震が発生した際に、大阪府内の消防署を訪問した際に、「神奈川県から来たJCです」と名刺を渡したところ、地震の被害などいろいろな話を聞くことができた。これは、日ごろからJCと地元が緊密に連携しているからだろう。都市部より地域の方がJCの認知度が高いといわれていることを確認することとなった。

3つ目は地元に地域のことを真剣に考える人間がたくさんいることに気づけたことである。会社にいても仕事では地元のことなど話題にも上らないだろう。JCはひたすら地域のための話し合いを行っている。少子化で元気のない地元をどうやって盛り上げていくか、どうすれば地域が活性化するかなど、答えのないことを時に喧嘩し、時に“ノミニケーション”しながら一生懸命考える。そんな経験をさせてくれた。

地域JCから日本JCにお金が回りすぎ?

一方、JCにも問題はある。冒頭にも書いたとおり、2018年2月には「宇予(うよ)くん」と称するキャラクターがツイッター上で、中国や韓国、護憲派、政治家、報道機関を批判するツイートを繰り返し、JCが謝罪する事態に。JC自体は「担当者から投稿されたのはすべて担当者の個人的見解」としているが、それ以前から「右寄り」と見られがちではあった。おそらく原因は国旗掲揚や国歌斉唱があるからだろうが、筆者の感覚では中道派が多いように感じた。在日韓国人や外国籍の会員も活動していることからも、右派団体でないことはわかるだろう。

地域のJCから、日本JCにお金が「回りすぎ」だという批判もある。確かに予算規模を考えると、100万円単位の地域のJCと億単位の日本JCは規模が異なる。ただ、公開情報を見ればわかるが、日本JCの現役役員には報酬が発生していない。すべてが事業に使われており、私腹を肥やすような行為はできない。

「持続可能性」という問題も抱えている。会員数は毎年前年比3%ずつ減っているほか、会員の平均年齢も上がり、毎年会議所の数も約30減っている。1月に京都会議で鎌田長明会頭は、「このままでは10年後にメンバー数が1万人を切り、会議所数は半分になっていてもまったくおかしくない」と危機感を示している。

元会員の立場から、会員が減少している理由を考えてみると、加入後の金銭や業務負担が重い割に仕事につながらないことや、家族との時間が削られることなどがあるのではないか。ほどほどに活動していたと自認する筆者ですら、「またJC!?」と妻から言われることがあった。家族参加型、託児所の設置、日中開催、オンライン会議などできることはたくさんあるはずだが、過去の習慣から抜け出すのは難しいようだ。

他国の青年会議所に比べ、女性会員が少ないことも指摘されている。旧来型日本社会の縮図と言えばそれまでだが、女性が会員になって初めて実地に至る事業やイベントもあるだろう。これまで地域に根ざし、地域の問題解決などに取り組んできたJCだが、岐路に立たされている今、柔軟な組織運営に加え、地域でさらなる存在感を示す必要性に迫られている。