第3回「割安」な保険料のPTA保険 手数料収入で会費の抑制にも

PTAとお金

小林未来

 さいたま市PTA協議会(市P協)の元会長が市P協名義の口座から現金を横領したとして、7月17日に業務上横領の罪でさいたま地検に起訴された事件では、市P協の保険会計の「収益」がねらわれたとされる。

 そもそもPTAが窓口になっている保険とはどういうものか。

 全国組織や都道府県・市町村の組織などを退会して上部組織に属さないPTAを中心に集まる「全国PTA連絡協議会(全P連)」によると、PTAが案内する保険は主に2種類ある。

 一つが、PTA活動中のけがや物品の破損などが補償される保険。PTAの会合に参加した際に転倒してけがをしたり、PTAが主催するお祭りの屋台で食中毒が起きたりしたときなども条件次第で補償されるという。このため、活動に必要な保険と考えるP協も多く、一定の加入数があるとみられる。

 もう一つが、一般的な日常生活の事故や個人賠償責任などが補償されるもので、一般的な損害保険や個人賠償責任保険と補償内容が類似する。別の保険でカバーできるため、加入する人は前者に比べ少ないとみられる。

「保護者にもメリット」「利権につながりかねない」

 いずれも団体保険なので、保険料は個人で加入するより割安になる。

 市P協の現在の役員は「保険商品そのものは決して悪いものではない」と話す。「保険事業収入があることでPTAの会費を安く抑えられている側面もあり、保護者にとってもメリットがある」

 一方、PTAが保険の窓口になる必要はないと考える人もいる。

 営利団体ではないのに黒字幅が大きすぎるのではないか――。埼玉県南部の市PTA連合会(市P連)の役員を務めていた会社員の男性(52)は、数年前に役員を務めた際、前年度の決算資料を見て驚いた。

 この市P連の予算規模は例年600万~700万円程度で、収支が均衡するように予算を組んでいるが、その年の決算は支出に比べて収入が150万円近くも上回っていた。コロナ禍でイベントがなくなった影響もあったが、収入自体も予算額から60万円増えていた。

 なぜこんなに潤うのか。不思議に思った男性が収支構造を調べると、市P連が販売窓口になっている団体保険の手数料収入が大きいことが分かった。

 この年に増えた収入60万円のほとんどは「事務手数料」の費目で、200万円超が市P連に入ってきていた。男性が役員としてPTAに関わっていた3年間の市P連の決算はいずれも黒字で、黒字幅は多い年で300万円になった。

 一方、各会員からの会費収入は毎年70万~80万円程度。自治体からの補助金も100万円程度あるが、それらだけでは事務所の家賃や事務消耗品代といった固定費や広報紙発行などの事業費をまかなえず、保険事業の収入に頼る構図だ。

 ただ、市P連の活動はコロナ禍を経てスリム化傾向にあり、余剰金も出ている。余剰金は翌年度に繰り越したり、「周年行事積み立て」や「事務局移転積み立て」といった別会計に支出したりしているが、別会計も含めた全体ではお金が積み上がり続けているという。

 男性は「少なくともPTAが一般的な損害保険と補償内容が大きく変わらない保険を売る必要性が感じられないし、余剰金が生まれると利権にもなりかねない。本来は会費収入や行政からの補助金の枠内で活動すべきなのではないか」と話す。

 全P連の長谷川浩章代表理事は、「PTA協がお金もうけのために保険を扱っていると思われないような仕組みが重要」とし、余剰金が出た場合のルールも決め、総会などで承認を得ておくことなどを提案する。「ルールが不明瞭なままだと、使途不明金のような問題が生じやすい。決算や予算をホームページで公表するなどし、お金の使われ方を会員らがチェックできるよう透明性を高めるべきだ」と話す。(小林未来)

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