TBS 1977年12月29日
あらすじ
船が港に入るたび、いせ(市原悦子)は舞鶴の岸壁に立っていた。最後の引き揚げ船にも新二(大和田獏)の姿はなかった。待ち続けて二十七年、ある日、中国で新二を見たという噂が立つ。
2024.8.15 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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大田:大林丈史
厚生省の職員:牧田正嗣
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上坂:岸野一彦
上坂の息子:田辺晴大
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
<新二と一緒に満州で戦っていたという方にお会いできたのは、うれしいことでしたね。新二のにおいがお友達にも移っているようで…西田さんのお話によると昭和20年8月15日、終戦の日、午後3時から3時半ごろ満州の磨刀石(まとうせき)という所でソ連軍と激しく戦い、新二は脚にケガをして、溝に飛び込んだということでした。考えまいと思っても悪いほうへ悪いほうへ考えがいってしまうものですね>
いせは寒い中、下駄で外を歩いている。心の声「柔道も水泳だって上手だった」
回想
雪の中を歩く子供のころの新二といせ。
この回の1シーンかな?
いせの心の声「冬の満州ならまだしも夏の8月の真昼間。必ず生きてる」
回想
雨の中を歩くいせと小学生の新二。
いせの心の声「もし運が悪ければ…」
<眠れないんで今でもよく歩くんです。気が紛れるもんですから>
端野家に戻ったいせは上着を脱いで布団にもぐる。
満州…この荒野っぽい景色、どこでロケしたんだろ?
<<銃声と爆発音>>
<<爆発音>>
新二<<行くぞ!>>
西田<<よし!>>
<<爆発音>>
戦車が走る。
<<銃声>>
新二<<うわ~っ! あっ…>>
溝に落ちた新二。これまで白黒映像だったのがカラーになり、新二が落ちた水面が赤く染まる。
飛び起きたいせ。「新二!」
<真っ赤な色のついた夢。イヤな夢を見ました。今でもそうですが、いい夢が半分、イヤな夢が半分。消息を聞く度にすぐ夢を見るんです。近頃は夢の中の新二も年を取りました>
いせは縁側を拭き掃除していたが、手が止まり、ボーっとしていると、縁側の戸を三浦先生がたたいた。「どうかしたんですか? 玄関開けっぱなしだし、何度声をかけても…」
いせ「すいません」
三浦「どうしたんですか?」
いせ「新二が…」
三浦「新二君が? 端野さん」
ガックリとうなだれるいせ。
茶の間
三浦「新二君の戦友がね…」おお、今日は縁の太い老眼鏡っぽい眼鏡をかけてる。
いせ「ダメかもしれません。あの子が死んだら、私だけ生きてたって…」
三浦「何を言うんです? 諦めちゃいけませんよ。さっきもおっしゃったじゃないですか。新二君は相撲も柔道も水泳もできたって。人一倍、体力には自信のあった新二君だ。きっと泳いでどっかに逃げてると思いますよ。第一、誰も新二君が息を引き取るのを見ちゃいないんだ。だったら誰も死んだとは言い切れないでしょう? どんなことがあっても新二君の生死がはっきりするまで、あなただけは信じてあげなくちゃ。私も東京へ出てきました。小さな商事会社なんですが、友人の紹介で勤めることになったんです」
いせ「よかった」
三浦「一からやり直すつもりです。昔、住んでたとこの近くにアパートも借りました。あなたの力で私という人間が一人、生まれ変わったんですよ。待ちましょうよ、新二君を」
三浦先生の年齢で再就職は難しいんじゃないかと思ったけど、昭和の映画やドラマを見ていると、55歳の定年後の再就職先を探す話がよく出てくるので(というか定年退職してそのまま隠居になるような設定がほとんど出てこない)、それより若いし、仕事はありそう。
新二の写真の前に湯気の立つご飯が供えられている。
ちゃぶ台を囲むいせと三浦。
いせ「昔、先生のお宅でいただいたあったかい雑炊、おいしかった。忘れられませんよ」←作ったのは、とよ子さん。
二人でご飯を食べていると、新二の思い出の曲が(いせの脳内?に)流れる。
♪<<ギター>>
<<♪泣くな 妹よ
妹よ 泣くな
泣けば おさない二人して
故郷をすてたかいがない>>
新二の出征の日。駅のホームにいたいせに驚く新二の顔。
ラジオ「おととしの夏から中止されていた中国からの引き揚げが、このほど約2年ぶりで再開されることになりました」
新聞の見出し
生存一,六四八 死亡五七三名
興安丸帰国者により判明したソ連残留
温かい祖国の土踏む
興安丸帰国者けさ上陸
ラジオ「復員局では2年前、中国地区からの引き揚げ者は一応、全て日本へ引き揚げたものとして復員船の運航を中止しましたが、その後、まだ相当数の人々が中国大陸に残っていることが分かり、中国当局と引き揚げについての交渉を続けてきました。その結果、この度の引き揚げとなったもので集団帰国は、これが最後の機会になるものと当局ではみています」
なるほど。前々回、昭和24年からいきなり最終引き揚げ船が出た昭和33年まで飛んだのかと思ったら、昭和24年で一旦、引き揚げ船は中止になっていたのね。だからやっぱり、三浦先生がポン中になったのものぶ子が端野家に来たのも昭和24年のエピソードということでいいのね。
いせは
「東京都 大森
端野新二」
というのぼりを持って、復員兵たちに「ご苦労さまでした」と声をかけ続ける。「端野新二を知りませんか? 石頭教育隊の端野新二を知りませんか? いませんか? 端野新二を知ってる人はいませんか?」
再会する人々の中、今回も新二に会えなかったいせ。
<海の向こうに新二がいる。確かにいるんです。あの日、舞鶴の桟橋に立ってから、もう20年以上になります>
端野家
仕立物をしているいせを大田が訪ねた。
いせ「あら、大田さん、どうぞ」
大田「ご無沙汰してます。どうも」赤ちゃんを抱っこしてきた。
いせ「あら~」
大田「生まれました。もう6か月になります」
いせ「まあ…まあ、まあ。まあ、よかった。どうぞお上がりください、さあ…」
大田「はい。じゃ、ちょっと」
いせ「さあさあ、どうぞどうぞ。まあ、よかったこと。さあ、どうぞ。どら? あららららら、あら~。どら? あららららら」赤ちゃんの手や顔に触れる。「まあ、気持ちよさそうに眠ってるじゃない。お名前は?」
大田「勝彦とつけました」
いせ「そう。まあ…ちょっと抱かせて」
大田「はい」
いせ「どら? あら、重い。まあ、重いことねえ、フフフッ。よく寝てる、よく寝てる」
大田「おばさん、どうもありがとうございました。ここに伺って、おばさんに話を聞いてから、のぶ子ともうまくいくようになって、おかげで子供まで…」
いせ「フフフッ、勝彦ちゃんっていうの?」
大田「のぶ子には何度も一緒に来るように言ったんですが、赤ん坊を連れて、おばさんに会いに来るのは残酷だって言うんです。どうしても会いに行けないって」
いせ「そんなことないのに。ねえ?」
大田「実は今日もこちらへ伺ったのは、のぶ子には内緒なんですよ」
いせ「あら、そう」
大田「僕はどうしてもおばさんにはお礼が言いたかったし、この子を見せてやりたかったもんだから」
いせ「フフフフッ。あなたのお気持ちはよく…もう大丈夫ね、2人とも」
大田「はい」時計を見て、かばんから中身が入った哺乳瓶を取り出す。
いせ「おっぱいの時間なの?」
大田「ええ」
いせ「フフフッ、どら?」頬に哺乳瓶をあてる。「ダメ。こんな冷たいの。おなか壊すわよ。ねえ? ちょっと待ってね。うん、おなかすいたんだな」
火鉢に掛けてあったやかんの蓋を取り、哺乳瓶を入れる。
いせ「おなかすいたんだな。はいはい、はいはい。ちょっと待ってね。今すぐよ。おなかすいたの? かわいそう、かわいそう」
勝彦ちゃん、泣いてる。
いせ「もういいんじゃないかな?」
大田「はあ」哺乳瓶を取り出す。
いせ「ほら、もう待ちくたびれちゃって。ねっ? 待ちくたびれちゃって」
大田「はいはい、はいはい」
いせ「どら? どら?」哺乳瓶を受け取り、自分の頬に当て、大田の頬に当てる。「ほら、このくらいがちょうどいいの。よく覚えときなさいよ」
大田「いやあ、どうも」
いせ「さあさあ。はいはい、お待ちどおさま。はい、どうぞ。ヘヘヘッ。よ~し、じゃあ、よし。ほらほらほら」
あやしながらミルクを飲ませるいせと大田。
いせ「おとなしくなったでしょ? ほら、おっぱい飲んでね」
大田「あの…これ、つまらない物ですが」菓子折りを見せ、棚に置く。
いせ「まあ、ありがとう」
<もし中国に住んでいるとしたら結婚して子供もいるでしょう。新二と会うときは、お嫁さんも孫も一緒なのかと、のぶ子さんの子供を見て初めて気づきました。いつまでも若い新二を待っていたうかつさにあきれました。フフフフッ>
のぶ子に内緒で赤ちゃんを連れ出すって、怖いことするねえ。
昭和三十一年
<時間だけが過ぎていき、昭和31年。私も60に手が届きそうになりました。新二も30を超えてます。神武天皇以来の景気だったそうですが、私なんかには全く関係ありませんでしたよ>
仕立物をしていたいせのもとに郵便が届いた。厚生省からの手紙で中身は死亡告知書だった。
死亡告知書 (公報)
東京都大田区大森北四ノ十四ノ九 番地
部隊 荒木聯隊第十一大隊 端野新二
陸軍 伍長兵
右昭和二十年八月十五日
により 戦死 せられましたからご通知申上げます
追而東京都市町村長…
處理致しますから御…
昭和二十一年十月…
厚生省引揚援護局
職員「お待たせしました。なんでしょうか?」
いせ「こんな物(もん)受け取れませんから。こんな物」封筒を突き返す。「今頃になって紙切れ一枚で戦死だなんて、新二が死んだっていうんなら遺骨はどうしたんですか?」
職員「ちょっと、端野さん」
いせ「なんですか?」
職員「ちょっとこっち来てください」
いせ「なんですか?」
職員「ちょっと…ちょっと」いせの腕を引っ張ってカウンターの奥へ。「端野さん、私たちもね、あらゆる調査をしたんですよ。外交ルートを通じたり、生還した者を各地区に集めて当時の状況を聞いたり、それでこういう結果に」封筒を叩く。
いせ「新二が息を引き取るとこを見た人がいるんですか? いたら会わしてください。九州の西田さんっていう人に新二の最後の様子、聞きましたよ。脚はケガしてたけど、ちゃんと溝に逃げ込んでるんですよ。新二はちゃんと泳げますし」
職員「ここにも書いてあるように磨刀石の戦闘は我々の想像を絶するような激しい戦いだった…」
いせ「だからって何? どんなに激しくたって、ちゃんと生きて帰ってきてる人いるじゃないですか」
職員「端野さん。あんたも年を取って、一人で働くのは大変でしょう。公報を認めて遺族年金をもらったらどうですか? 少しでも楽に…」
いせ「とんでもない。こんな物認めませんからね。何一つちゃんとした証拠がないのに死んだと思えだなんて、そんなむちゃくちゃな…こんな物認めませんからね、絶対に」
手紙を置いて席を立った。
厚生省の職員役の牧田正嗣さんは赤いシリーズに出演してた。
ナレーション<厚生省 未帰還調査部。第1大隊はソ連の進出正面において、これを迎え撃ち、戦闘の初期から激戦を繰り返し、混乱の状態となり、多数の戦死傷者を生じたので一部の者は、かろうじて戦場を脱出した。これがため、戦死傷者の調査を実施することは不可能であり、現地における調査は一切していない。以上の調査状況、および調査のいきさつに基づいて、日ソ開戦時、第1大隊、猪股大隊に所属し、磨刀石の戦闘以後、全く生存資料のない者は、この戦闘において戦死したものと判定>
ズンズン歩いて帰ってきたいせは、家に帰り、お茶を飲んだが、噴き出して、湯飲みを障子に力いっぱい投げつけた。
いせ「無責任な! みんなが生きてるって言ってくれてるのに、何も知らないくせに殺しちまって、あんな紙切れ一枚で殺されてたまるもんか!」立ち上がって障子を開けたが、障子の骨が折れてることに気付く。「あ~あ、骨まで」
<世の中だけが次第に変わっていって、すっかり戦争の影もなくなっていましたが、あのころ、日本人同士、戦争みたいなことをしてましたね>
<昭和もいつの間にか40年代に入っていたんでございます>
すっかり白髪頭で老人独特のがに股歩きの三浦先生が端野家の玄関を開けた。「ごめんください」
三浦「同じ部隊にいたんだそうです。それほど遠くないし、行ってみたらどうですか?」
いせ「そうですねえ。こうしてせっかく先生が調べてくださったんですから」
三浦「あなたもうちの中ばかりにいないで気晴らしに行ってみたらいい。あんまり期待しすぎないで」
いせ「そうですねえ。気長に待つことにしましたよ。この年まで待ったんですから、あと10年だって、20年だって。どっか具合でも?」
三浦「いや、大したことはないんですよ」
いせ「体だけは気をつけてくださいね」
三浦「年ですからね」
いせ「お互いに。フフフッ」
三浦「新二君、いくつになったんですかね」
いせ「そろそろ40になりますね、フフフッ」
三浦「四十ですか。どうしてるんでしょうね、中国で」
いせ「案外、中国の娘さんと結婚して子供がいるかもしれませんよ。フフフッ。全く人の気も知らないで」
新二の写真がアップになる。
<三浦先生もずっと新二のことを心配してくださってましてね。満州で戦ったことのある人が分かると住所を調べてくださったりしまして、私もどこへでもすぐ出かけたんでございます>
上坂(かみさか)家
いせ「ごめんください」
上坂の息子「はい!」
玄関に出てきた上坂の息子の顔をじっと見るいせ。
上坂の息子「何か用ですか?」
いせ「お父さん、いらっしゃいますか?」
上坂の息子「お父さん、お客様!」
和服姿の男性が出てきた。
いせ「上坂さんですか?」
上坂「そうですが…あっ、どうぞ」
いせ「東京の端野と申します。息子が満州の荒木連隊第1大隊、第6中隊におりました」
上坂「そうですか。私もそうでした」
いせ「そうですってね。それであの…」手紙の束の中から写真を手渡す。「これ、端野新二です。覚えておいででしょうか?」
上坂「第1大隊といっても700~800人はいましたからね。それに私は太田中尉の第2中隊でしたし。ちょっと記憶が…」写真を返す。
いせ「ああ、そうですか」
上坂「まだお帰りじゃないんですか?」
いせ「ええ」
上坂「そうですか」
いせ「立派な息子さんですね。おいくつですか?」
上坂「15です。なりばっかり大きくてダメです」
いせ「これ、坊ちゃんにお一つ」菓子折りを渡す。
上坂「そうですか。何もお役に立ちませんで」
上坂役の岸野一彦さんもまた赤いシリーズに出てた。「赤い運命」で美矢子が働く弁護士事務所の同僚で何回か出てた。美矢子が出なくなったので、あの事務所も出てこなくなっちゃった。
端野家
三浦「分かりませんでしたか」
いせ「ええ、中学生ぐらいの息子さんがいて新二にそっくりなんで私、びっくりしました」←そうかな~? 似てると思わなかった。
三浦「新二君にもそのぐらいの子供がいてもおかしくないのになあ」
いせ「中国へ行けるもんなら行ってみたいですよ。もし行くとして旅費はどのくらいかかりますか?」
三浦「さあ…まだ国交も回復していませんからね」
いせ「そうですね」
三浦「じゃ、私はこれで」
いせ「またいらしてください」
三浦「ええ。近いうち、一緒に歌舞伎にでも行きませんか?」
いせ「いいですねえ」
三浦「『寺子屋』の通しだそうですよ。幸四郎の松王はいいと思いますよ」
いせ「はあ、そうですか。口跡がいいそうですねえ」
三浦「ええ。私たちには楽しみっていうものが何一つなかったから」玄関へ向かう。
いせ「ホントに」
三浦「戦争が終わって、平和な世の中になったと思ったら、こんなに年を取っちまって。ああ…新二君が帰ってきたら3人で温泉にでも行きましょう」
いせ「そんな日が来るといいですね」
三浦「きっと来ますよ。じゃ、私はこれで」しかし、立ち上がった途端、胸を押さえて倒れた。
いせ「先生…先生、大丈夫ですか? お医者さん、呼びましょうか?」
三浦「大丈夫。いつもの心臓発作ですから」
いせ「まあ、いつものって…こんなに?」
三浦「じき…じき治りますよ」眼鏡をかけ直し、玄関に腰掛ける。(つづく)
まさかまさかの最終回まで三浦先生が出る!?
ここまで丹念に戦争を描いた作品を見る機会ってないね。でも昭和ってやっぱり、その人を思って優しい?ウソをつくんだな。いせにとって、新二は生きてると思って生きることは幸せだったんだろうか?