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式の順序で「バツ」はなぜ? 答えを出すより大切な、数学的な表現を学ぶ意味

2024.08.19

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森泉萌香
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SNSなどで度々話題になる、算数の式の順序問題。記者の小学1年の子どもも夏休み前、たし算の式の順番の違いで不正解となったテストを持って帰ってきましたが、親子ともども納得がいきませんでした。親も子どもに教える上で、算数の教え方や学びのポイントについて知る必要があるのかもしれません。小学校教諭としてのキャリアを生かし、算数教育について研究する、武蔵野大教育学部の小野健太郎准教授に聞きました。(写真は、記者の子どもが持ってきたテスト用紙。式の順序の問題で不正解となった=画像の一部を加工しています)

小野健太郎

話を聞いた人

小野健太郎さん

武蔵野大教育学部教育学科准教授

(おの・けんたろう)明星学園小、東京学芸大付属小金井小教諭、東京学芸大非常勤講師、武蔵野大講師を経て、2021年4月から現職。主に算数の教科教育について、教育心理学のアプローチから実践研究を行う。武蔵野市立第二小学校・武蔵野市開かれた学校づくり協議会委員、学校図書小学校算数科教科書編集協力者。著書に「オーセンティックな算数の学び」(東洋館出版社)など。

コミュニケーションツールとしての式

――SNSなどで度々、算数のテストの「式の順序問題」が話題になります。「式」を答えさせることで、どのような力を見ているのでしょうか。

日本の算数・数学教育の目標について、学習指導要領には「筋道を立てて考察する力」に焦点を当てると書かれています。この「筋道立て」ができているか、数学的にどんな思考をたどったかをアウトプットするためのコミュニケーションツールとして、言葉や図、式、表、グラフなどの数学的な表現が必要になります。2017年の学習指導要領の改訂で、こうした数学的な表現を用いて伝え合うことを大切にしようという方針が明記されました。

――コミュニケーションツールとしての式とは、どのような考え方ですか。

たとえば、白い紙に赤い丸が12個書かれています。この赤い丸はいくつあるでしょう?と聞いたとき、算数の目的が答えを出すことならば、「12個」で授業は終わりでいいはずです。でも、どんな考え方で12にたどり着いたかを伝え合うために「式」に表します。

式の順序で「バツ」はなぜ? 答えを出すより大切な、数学的な表現を学ぶ意味

子どもたちに「どんな考え方で12になった?」と投げかけると、ある子は12個を三つずつの丸、4グループに分けた図を書いて説明してくれます。この図をほかの子に式に表してもらうのがポイントで、「3×4=12」と答えてくれるでしょう。

式の順序で「バツ」はなぜ? 答えを出すより大切な、数学的な表現を学ぶ意味

言葉もコミュニケーションツールですが、今の式を言葉で表すと「赤い丸を三つずつにして丸でかこんで、それが四つあると考えたので12個です」となります。でも、数学ではそれをたった五つの記号で効率的に自分の思考過程を伝えることができます。これが「コミュニケーションツールとしての式」という考え方です。

――先ほどの問題を「4×3=12」とするとバツになりますか。かけ算の順序問題については特にSNS上で話題になっていることが多いです。

「4×3=12」とすると、「四つずつの丸が3グループある」ことを伝える式になります。日本の算数教育では、「一つ分を基準にして、そのいくつ分に当たる大きさを求めること」をかけ算の定義としていて、「式の順番を大切にしてほしい」というスタンスがあります。

3×4=4×3になる「交換法則(交換の決まり)」の概念は小学校2年生で習います。同時に、式には二つの機能があることを学びます。「場面を表すための式」と、「答えを求めるための式」です。

つまり今の算数教育が大事にしている「コミュニケーションツールとしての式」を答えるならば、場面を表す式を書くのが正解です。

――テストには、答えを求める式なのか場面を表すための式なのか書かれていないことがほとんどだと思います。「答えを求める式の方がわかりやすい」と考えるお子さんもいそうです。

SNSで話題になっているようなかけ算のテストでは、どちらの式を書くべきか書かれていません。それならばどちらを書いてもバツにはできないかな、というのが僕の考えです。

答えを求める式を使うシーンは算数でもたくさんあります。たとえば8の段がまだうまく言えないときに、4×8は分かるからひっくり返して計算する。場面を表すための式を書いた上で交換の決まりを使って計算していたら、それは尊いことです。

自分たちでこうした法則がわかっていて、テストでバツになったことに納得できないのなら、「納得しなくて良いよ」と伝えたいです。自分で頭を使って納得するまで諦めずに考えてほしい。そしてその筋道を説明できたのならば、「賢いね」とご家庭でたくさんほめてあげてほしいです。

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