都市や不動産の開発・運営から、空港・道路運営や水事業、船舶・宇宙・防衛関連事業、工作機器・農業機械の事業まで、多様な領域で社会インフラの課題解決・発展に貢献している三菱商事の「社会インフラグループ」。座談会の後編では、社会インフラを支える仕事ならではの使命感ややりがい、目指す将来像などを語り合った。(聞き手:朝日新聞GLOBE+編集長・関根和弘)

社会インフラグループ座談会の[前編]はこちら>>

社会インフラグループ 座談会参加者 
prof_三菱商事_村上一馬氏
prof_三菱商事_無量谷優介氏
prof_三菱商事_小野雄生氏
prof_三菱商事_熊田のぞみ氏
※本文は敬称略

[聞き手] 
関根 和弘(朝日新聞GLOBE+編集長)

社会インフラを支える、熱い「使命感」

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株式会社レンタルのニッケン データ経営推進室の無量谷優介氏

──座談会の前半では、それぞれの事業をご紹介いただきましたが、皆さんが担っている責任の重さや、使命感ともいうべき高い志が印象的でした。

無量谷 社会インフラの一端を支えているという責任は、やはり常に感じています。建設機械などのレンタル事業においては、「我々が安全・安心な建設現場をつくるのだ」という思いで、点検のオペレーションや安全装置の開発には特に力を入れています。

それから、労働時間の上限規制の適用による「2024年問題」への対応は、物流業界と同様、建設業界においても大きな課題となっています。建設業界の人手不足は、おそらく皆さんの想像以上に深刻です。「建物を建てたくても建てる人がいない」という事態が、近い将来、本当に起こりかねないのです。

ですから、建設業界全体の「生産性の向上」は喫緊の課題です。先ほどお話しした(※前編参照)、オンラインレンタルの仕組みづくりや機械へのGPS 取り付けなど、デジタル化による作業効率の改善もその取り組みの一環です。

さらに、三菱商事の建設ソリューション部では、ほかのグループや事業会社とも連携しながら、企画・設計から納品まで長期間にわたって多様な関係者がいる建設プロジェクトにおける管理の効率化・高度化につながるデジタルソリューションの提供や、規格化された部品を使って工場生産・現場組立を実現するモジュール化による工期の短縮なども検討しています。

これからの日本の建設業界を支える……というと少しおこがましいですが、大きな変革期にある建設業界で生産性の向上にどう貢献できるか、日々試行錯誤しており、大変やりがいを感じています。

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海外都市開発本部 アジア都市開発部の熊田のぞみ氏

熊田 私はベトナムでの不動産開発・運営に携わっていますが、現地を初めて訪れた時はその暮らしぶりに驚かされました。というのも、平日の昼間から街のカフェに大勢の人が集まり、甘いコーヒーを飲みながらずっとおしゃべりしているんです。夜になると、大通りの店先に小さな椅子を並べて座り込み、うちわをあおぎながらそこでまた長い時間を過ごす。おおらかな国民性だなあ、とほほえましく思っていました。 

でもある時、現地でビジネスをしている方から「カフェで長い時間を過ごすのは、家が安らげる空間ではないという社会事情が背景にある」とお話を伺い、頭を殴られたような思いがしました。たしかに、ベトナムは著しい経済発展や人口増加の一方、住環境の整備が追いついているとはいえません。住宅の数が圧倒的に不足していますし、都市部では狭い部屋に2段ベッドをいくつも設置するなど、非常に窮屈な住まいで暮らしている方が大勢います。

「衣食住」という言葉の通り、「住」は人間の生活の根幹をなすものです。経済成長の一方で後れを取ってきた「住」の充実を目指して、十分な数の住宅供給、さらに心身ともにくつろげる快適な住環境の創出に貢献したいと思っています。

「解像度の高さ」が唯一無二の価値を生む

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国内都市開発・デジタルインフラ本部 国内都市開発部の小野雄生氏

──三菱商事は、中期経営戦略2024で「MC Shared Value(共創価値)の創出」を掲げています。三菱商事グループの総合力がスケールの大きな共創価値を生み出していると実感するのは、どんな時でしょうか。

小野 私は、鎌倉・藤沢エリアで「ヘルスイノベーション」を核にした再開発案件に従事していますが、街づくりというのは不動産の部隊だけで担えるものではありませんので、グループ内外との協業が不可欠です。

例えば、三菱商事のモビリティグループなどと取り組んでいることの一つが、交通利便性の向上です。湘南鎌倉総合病院のコミュニティバスのオンデマンド化に関する実証実験などを進めているモビリティグループと連携し、エリアへの自動運転実装についての国土交通省の補助金を活用したフィージビリティスタディ(事業化のための事前調査)等を実施しました。また、同じく社内のS.L.C.(Smart-Life Creation)グループ*とも連携し、日常生活の様々なデータを活用した地域住民の健康管理支援や、街から生じるデータを一元的に管理し、多様なサービスへ活用するためのシステムづくりに関する初期検討を行っています。
*「豊かな社会と生活者のよりよいくらしの創造」を目指し、各地域・国の社会課題や生活者ニーズに応じた様々なBtoC(一般消費者向け)事業の立ち上げを行うグループ。

それから、先に村上さんが国際宇宙ステーションでの創薬研究の話(※前編参照)をしていましたが、鎌倉・藤沢エリアにある「湘南ヘルスイノベーションパーク(通称:湘南アイパーク)」を、「宇宙での製薬・創薬」に向けた日本の活動拠点にできないだろうかと、その可能性を探っているところです。

これらはほんの一例ですが、グループの垣根を超えた連携による、三菱商事にしかできない街の付加価値向上に取り組んでいきたいと考えています。

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インフラ・船舶・宇宙航空機本部 宇宙航空機部 宇宙事業チームの村上一馬氏

村上 宇宙事業チームでも、三菱商事グループの総合力は日々実感しています。「ライフ/メディカルサイエンス」分野では、小野さんたちの湘南アイパークのほか、医薬品を扱うS.L.C.グループのサポートを受けていますし、「先端素材」分野ではマテリアルソリューショングループのサポートがあります。また、法務・財務・管理・広報といったプロフェッショナルのコーポレート部門の皆さんが様々な角度からサポートしてくれるガバナンス体制が、新規事業開発を進めるうえで大きな支えになっていると感じています。

私はほかの企業から転職してきたキャリア入社組ですが、三菱商事の強みは、多様な産業における「解像度の高さ」にあると思っています。単に色々な業種・業界と接点があるというだけではなく、三菱商事として事業を展開しているからこそ、地の利があるというか。例えばS.L.C.グループの人と話していると「製薬メーカーの人かな」と思うほど(笑)、業界に明るいですし人脈もありますからね。本当に助けられています。

ただもちろん、三菱商事のグループ内だけでできることには限界がありますから、国内外のほかの企業や公的機関も含め多様な方々と積極的に連携しながら、目指すビジョンを形作っているという状況ですね。

泥くさい仕事もいとわない それが我々らしさ

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── 社会インフラグループの事業領域は本当に多様ですよね。このグループ“らしさ”を一言で表現するなら、どんな言葉になるでしょうか。

無量谷 皆さんと話をしていて思ったのは、我々社会インフラグループの共通項は「泥くささ」だなと(笑)。それぞれの現場で避けては通れない地道で泥くさい仕事もいとわず、まっすぐにお客さんと向き合い、社会課題に全力で挑んでいくところが我々らしいなと。

小野 同感です(笑)。都市開発という仕事は、多様な利害関係者の意見をまとめ上げていくことが求められますが、それはまさに「泥くさい」仕事の積み重ねといえるかもしれません。

というのも例えば鎌倉には、先祖代々この地で暮らしている人もいれば、湘南アイパークの立ち上げを機に海外から移り住んできた研究者もいます。当然、街に対する期待や要望はそれぞれ異なりますから、インタビュー調査をして街への思いを聞いたり、住民向けのイベントを定期的に開催したりと、丁寧なコミュニケーションを心がけてきました。まだ道半ばなので、今後も現場に通い詰め、関係者の方々と足並みをそろえながら頑張っていきたいと思っています。

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村上 それから、やはり関わっている産業の接地面積の「広さと深さ」は、ほかのグループと比べても突出していると思います。陸・海・空、さらに宇宙まで、幅広い領域をカバーしているのが社会インフラグループの特徴です。この接地面積こそが強みであり、どう生かしていくかが我々に問われているのだと思います。

── 社会インフラグループのミッションについてお聞かせください。

無量谷 社会インフラグループは「街を創り、社会を創り、未来を創る」というグループミッションを掲げています。壮大なことを言っていると思われるかもしれませんが、現実的にそれを目指していけるグループであることは、今日の話からもお分かりいただけたと思います。既存事業の変革と新規事業の創出を両立させながら、社会課題の解決に貢献していくことが、社会インフラグループの存在意義だと考えています。

次世代に胸を張って語れるような仕事を 

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座談会の進行を務めた関根編集長(左端)とともに

── 最後に、皆さんの仕事への思いや、事業を通して成し遂げたいことを教えてください。

村上 宇宙事業に携わっていると言うと、「夢がある仕事ですね」といった反応をされることがよくあります。ですが我々は、宇宙事業を夢やロマンではなく、もっとリアリティーのある「ビジネス」として捉えています。とくに宇宙の商業化に向けた国際競争はいま激化していますから、宇宙環境を活用したイノベーション創出や経済的な社会・会社への貢献など、地球上の社会課題の解決に寄与する具体的な成果を示していくことが求められています。 

「宇宙産業を日本の新たな主力産業に」というのが私の夢です。ハードルはかなり高いですが、チャレンジはまだ始まったばかり。引き続き全力で取り組んでいきます。

小野 都市の開発や運営というのは、「解がない」ビジネスモデルだと思います。街づくりを通じて、産業構造や地域の課題解決にいかに貢献できるか。グループ内外と協業しながらどんなビジネスモデルを確立していくことができるか。新たな挑戦にやりがいを感じています。 

2032年ごろにはJR東海道線の大船―藤沢駅間に新たな駅「村岡新駅」(仮称)も完成する予定です。住民の皆さんが健やかな生活を送り、製薬・創薬産業が活性化し、街が持続的に発展していく。そんな未来の街の姿がいまから楽しみです。

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熊田 私は単に物件を販売するのではなく、心からくつろげる真の意味での「マイホーム」の提供をするという意味で、現在の業務は「夢を売る仕事」だと思っています。また、ベトナムのようなエネルギッシュな国で仕事ができることは、とても刺激的で魅力的。不動産開発にとどまらず、都市開発も含めた次なる展開に携わっていけたらうれしいですね。 

無量谷 建設現場では、過酷な環境下で本当に頑張って働いてくださっている方々がいます。「建設業界に関わるすべての人を幸せに」というスローガンを三菱商事の建設ソリューション部が掲げていますが、これを私たちは本気で実現しようと思っています。

個人的には、いつか社会人人生を終えるとき、自分の家族に誇れるような成果を残したいという思いがあります。よりよい社会に寄与する“未来のスタンダード”となるような何かを生み出したい。そんな思いで、これからも日々努力を重ねていきます。

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