BEAUTY / WELLNESS

ひとりじゃない。頼ってもいい。街をさまよう“居場所のない女の子”たちへ、その声を届け続ける理由【後編】

近年、繁華街をさまよう女性の年齢層は驚くほど若年化している。ひと知れず“生きづらさ”を抱え、居場所のない10代、20代の女性たちの声に耳を傾け、支援するBONDプロジェクト。後編では、活動を通して見えてきた若者たちの深刻な現状とその背景、今年改正までこぎつけた法律などについて、同特定非営利活動法人代表を務める橘ジュンに聞いた。※BONDに集まる少女たちのリアルな声や、活動が始まったきっかけについては【前編】で。

圧倒的に多い「家族」の悩み。辛いのはあなたのせいじゃない

──BONDプロジェクト(以下、BOND)はどのようにして女の子を支援しているのでしょうか。

立ち上げた当初から必要だと考えていたのが、気持ちを吐き出すことができる場所。共感してもらえたり、気持ちを受け止めてもらえたりできる場所。なので、SNS相談や面談などでは継続的に話を聞き、信頼関係を作りながら伴走型の支援をしています。中には、話をすることで楽になる子もいますし、状況に応じて保護をしたり、医療機関や行政などへ同行したり。「ボンドのイエ」というシェルターで中長期的に自立生活支援も行っています。また、気軽に利用でき、日常の中で安心して過ごせる場があることもやはり重要なので、カフェ型相談室のMELTは昼間の居場所として提供していて、ここから支援につながるケースもあります。

メンタルヘルスの問題を抱えている子の中には、自殺未遂や自傷行為を繰り返していることがあり、その場合はやはり医療につながることが多いです。そして病院から退院したり、通院していたりする子には、薬や生活費の管理、一日の過ごし方を一緒に考えたり、カウンセリングを通して気持ちを整理したりしています。死にたいけど生きようといつも揺らぎながら過ごす子を、生きる方に背中を押すような日常的な見守り支援が大事になってきます。

──女の子たちが抱える問題の背景には、どういったものが多いですか。

一番多いのが、家族による悩み。寂しい、眠れない、ご飯が食べれない、居場所がないというような第一声がほとんど。さらに聞いていくと家族から重篤な虐待を受けているということも。先日保護した20代半ばの女の子は、5年間ネットカフェ暮らしをしていました。聞くと、小学校4年生ごろから家に入れてもらえない状況を繰り返し、家を出たくて出たわけじゃなく、親から出されるから出ちゃう。20歳を過ぎたらもう家には全く入れてもらえなくなってしまったため、自分でなんとかしようと思って、パパ活しながらネットカフェ暮らしをしてて。でも、本人は「親とは連絡がとれるから仲がいい」と言うんです。親に頼れないことが彼女にとっては当たり前すぎて、誰かを頼ってもいい状況だということに気付けてない上に、全部「自分のせい」だと思っているんです。うちにようやく相談してくれたきっかけは、「保険証が切れちゃってネットカフェが更新できないから困っています」という物理的な困りごとで──。だからこそ、アウトリーチしていくことも非常に重要だと痛感しています。

神奈川県座間市の殺人事件をきっかけに

繁華街でのアウトリーチは引き続き行うが、2018年以降はネットパトロールやライン相談にも力を入れてきた。

──家庭環境の問題は、外から一番見えづらいというところも難しい点ですね。

それがやっぱり私たちの活動の必要性みたいなのにもつながってきています。彼女のように、自分の困りごとに気づけず、街をさまよってる子たちがいっぱいいるんです。街頭パトロールは、そういう困ってるかもしれない女の子との出会いの場だと思っています。最初は、「邪魔しないで」と怒る子ももちろんいます。でも、少しずつ話していくうちにそれが相談につながってくる。また、今は話せなくても、私たちの存在を知ってもらうことも重要で、自分たちの活動について少しでも聞いてもらい、BONDのカードをバッグに入れてもらえるよう、カイロやお菓子と一緒に渡すなどして長年工夫してきました。なので、2020年からメイベリンさんとパートナーシップを組んでからは、カードを化粧品と一緒に渡せるようになり、女の子も手に取りやすくなったと感じています。

──アウトリーチプログラムの一環として、ネットパトロールにも力を入れていますね。

「死にたい」「消えたい」とネット上に書き込んでいる子にアプローチすることもありますし、自殺に関する検索をしたら、BONDにつながるような広告も出しています。ネットパトロールを始めたきっかけは、2018年に神奈川県座間市で9人が殺害された事件でした。被害者と私たちの相談者が重なり、反省も込めてずっと悩んでいました。もし、死にたい気持ちや寂しい気持ちを私たちにも相談してくれていたら、ちょっとは違ったと思うんです。なので、街頭パトロールをしているように、ネット上でもパトロールしようと、力を入れて取り組んでいます。頼る先の選択肢の一つとして、私たちのことを選んでもらいたいなと思ってやっています。

──活動を始めた当初と比べて、最近の傾向として感じることとは。

街に出てきている子が、どんどん若年化してきていることです。家族のことや学校のことで悩んでいても、子どもたちは身近な人には話せない傾向があり、SNSに居場所を探し、家出する人をそこで募り、全国から知らない子同士が一緒に歌舞伎町のトー横界隈に集まってきています。そうすると、やはりトラブルに巻き込まれるし、悪い大人に目をつけられてしまう。先日は小学校6年生と中学校1年生、中学校2年生の子を保護しましたが、彼女たちの口から明かされた悪い大人から受けた非道な行為は、“この子たちともっと早く出会えていれば”と悔やんでも悔やみきれないような聞くに絶えない内容でした。

必要性を訴え続けて実現した法改正。声なき声の代弁者に

──15年の歩みの中で感じる良い変化はありますか。

彼女たちの声を伝えてきたことで、今年の4月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行され、支援を受けられる対象者の枠が広がりました。たとえば、DVを受けた女性がシェルターに入れる条件は「配偶者」から暴力を受けていることで、父親や親戚など家族間のDVは含まれていませんでした。しかし、新たな法律が施行されたことで、親戚などから性虐待を受けてるような子たちも、年齢関係なく家に居場所がなくつらいと感じている子たちも、保護してもらえるような内容になりました。ただ、まだ地域差があるのが課題で、東京では当たり前のように保護してくれるけど、地方へ行くとまだ配偶者の条件を提示されたり、包丁を向けられたり、刺されたり、命の危険性があるような状況の人じゃないと保護できないと言われたりしてしまいます。

──それは、かなりハードルが高いですね……。ますます「居場所がない」と絶望してしまいそうです。

一番最初に出会った子が病院で自分のことを話せなかったように、支援を受けるまでにさまざまなハードルが彼女たちの行く手に立ちはだかります。なので、私たちは同行支援をし、彼女たちの代弁者になることが重要だと感じています。「家族から暴言や暴力を受け、家にいることが苦しくて街を彷徨い、それゆえ性被害を受けたりトラブルに巻き込まれたりしてしまっている状況の子を支援できますよね」と、そこまで言わないと公的な支援を受けるまでに至らないんです。障がいやメンタルヘルスの問題などは見えづらく、人にも理解してもらいにくいけれど、眠れないことや困りごとには絶対に理由と背景があるわけじゃないですか。それを一緒に考え、解決に向けて話せる大人の必要性を常に感じています。

誰かに頼ることを選べなくなってしまった少女たちに、人に頼っていいんだということを伝えたい

過去には支援対象だった女の子たちのなかには、時を経てBONDの活動を支えるメンバーになった人もいる。

──BONDにきた女の子たちの状態を見ていて、どんな変化を感じますか?

だんだんと良くなっていくのは、関わっていると感じています。些細なことですが、とりあえず何かを決める前に相談してくれるとか。これ、実はすごく大事なんです。そうすると、明日の過ごし方などもちゃんと考えられるし、責任感も出てくる。一緒に街頭パトロールをしているサクラは、昔は生活費の管理を私たちがしていましたが、今は一人暮らしをしています。何か困りごとや苦しいことに直面したら、これまでは心身を傷つけてしまうような行動にスイッチが入ってしまっていましたが、今はその前に相談をしてくれるので、細かく説明しながら気持ちの整理ができ、解決策を一緒に考えられるまでになりました。

──一人で頑張るんじゃなくて、人に頼るということを知るということは、大きな一歩ですね。

トラウマやフラッシュバックというのはすごく重くて、克服するのにも時間がかかります。でも、安全な場所でゆっくり眠れたり、温かい場所で美味しいものを食べたりすると、だんだんと心の中にある氷のような塊が溶けてくるんです。すごく大変だけど、私たちがしていることはトラウマの治療かもしれない。そんな思いも込めて、昼間の居場所として提供している場所を「MELT」と名付けました。

──今改めて、社会がこの問題にフォーカスすべき理由とは。

彼女たちは、突然大変になったわけじゃなくて、やはり子ども時代からずっと大変だったんです。どんなに辛い状況にあってもそれが彼女たちにとっての日常であり、家庭という閉ざされた空間の中で悩み、周囲が気づかず見過ごされてしまった。女の子たちから話を聞くと、家族からの愛情を求めていることが多く、そんな大好きな家族から虐待を受けていることから当然、周囲には話しづらい。そして勇気を出して学校に相談したとしても、保護者に確認が入り、さらに虐待がエスカレートしてしまったり、友だちに相談したらギクシャクしたり。結局、「喋らなきゃよかった」の積み重ねから、誰かを頼ることが選べなくなってしまっているんです。これは社会の問題であり、決して彼女たちが悪いのではない。だからこそ、今この問題に焦点をあて、大人たちのサポートが必要だということを一緒に考えてほしいと思います。

今までは素通りしていた場所に、もしかしたら一人ポツンと座っている女の子がいるかもしれない。そんな子を存在として意識することができたら、自分ごととして何かできないかと考えるようになると思うんです。そして、そのときにBONDや支援団体の相談先のリストを持ち合わせていたら、未来が少しずつ変わってくると思います。

Information
BONDプロジェクト
電話相談/080-9501-5220(受付時間/火曜日 13:00〜17:00、木・土 18:00〜22:00
LINE相談/@bondproject(受付時間/月・水・木・金・土 10:00〜22:00)
メール相談/hear@bondproject.jp
その他BONDプロジェクトが公開している相談先リスト

Brave Together POPUP by メイベリンニューヨークxBONDプロジェクト
開催日時/7月20日(土) 14:00~20:30
場所/クロス新宿ビジョン 1F
内容/夏休みシーズンを目前に歌舞伎町近辺へ居場所を求めてやってくる、「寂しい」「居場所がない」「家に帰れない」と感じている女の子たちへのアウトリーチを図り、またBONDプロジェクトとその活動内容を知ってもらい相談や支援につなげる機会として、本ポップアップイベントを開催。メイベリン ニューヨークのメイクのタッチアップやサンプル配布、フォトブースを設けることで気軽に立ち寄れる場を提供する。

Photos: KEN at Bond Project Text: Mina Oba Editor: Rieko Kosai