パリ五輪では「過去最多193人の選手がLGBTQを公表」も「日本人はゼロ」…なぜ日本では性的マイノリティに対しての偏見がなくならないのか?
LGBTQという言葉は世間に広まったけれど、日本のスポーツ界は相変わらずマッチョで、理解が進んでいるとは言い難い。中には「カミングアウトは自殺と同じ」語るゲイの陸上選手も。そんなアスリートたちの本音に迫った新刊『わたしたち、体育会系LGBTQです』を監修した、立命館大学産業社会学部教授の岡田桂氏に、「スポーツとLGBTQ」の現状を聞いた。
日本は性教育への忌避感が強い国
――とはいえ、日本スポーツ界のLGBTQ認識は英米に比べてかなり遅れているともいわれます。それはなぜでしょうか。
日本では90年代後半から起こったジェンダーフリー教育に対するバッシングによって、教育の中で性に関する知識を教えることに対して、忌避感が高まってしまいました。
その影響で学校教育では性に関する体系的な知識を教える機会は少なく、教員養成課程でもあまり取り扱わないため、そうした知識がほとんどないまま保健体育の教員になっている人も少なくない。
それを変えようと、フェミニズムやジェンダー/セクシュアリティ系の研究者が様々な取り組みをしていますが、実際の教育現場、特に公立校の教員などはかなり行政に縛られるという制約がある。そのため、なかなか系統立った性教育を行うことができない状況かと思います。
――そういった現状を踏まえ、この本はどのような人たちにどんな風に読まれることを願いますか?
まずは当事者です。スポーツというまだまだ保守的な世界にいる当事者にこそ読んでほしい。昨今はインターネットやSNSによってそれぞれのコミュニティと出会いやすくなり、LGBTQの人々も孤独になりづらくなったと言われていますが、高いレベルでスポーツに関わる人たちが同じ境遇の存在に出会うのはまだまだ難しい。そういう人たちに体験の共有をしていただければと思います。
もちろん、一般の方にもぜひ読んでほしいと思います。スポーツの世界にも性的マイノリティの人たちがいて活躍していることが当然なんだということを知ってもらえれば、長期的にではありますが、日本のスポーツ界においてもジェンダーやセクシュアリティについての理解が深まっていくと思いますから。
※後編ではパリ五輪、女子ボクシングのイマネ・ケリフ選手とリン・ユーチン選手をめぐって大きな騒動に発展した性別疑義問題について、引き続き岡田先生にお伺いします。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
写真/shutterstock
わたしたち、体育会系LGBTQです 9人のアスリートが告白する「恋」と「勝負」と「生きづらさ」
田澤 健一郎 (著), 岡田 桂 (監修)
2024/7/5
1,980円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4797674491
「カミングアウトは自殺と同じ」とゲイの陸上選手は語った――。
「男らしさ」が美徳とされる日本のスポーツ界=体育会。
そこで「性」に悩みながら戦うLGBTQアスリートたちの実話。
LGBTQという言葉は世間に広まったけれど、
日本のスポーツ界は相変わらずマッチョで、根性を見せて戦うことが「男らしい」といわれる。
そんな「体育会」で、性的マイノリティの選手は自分の「性」を隠して辛抱・我慢している?
それぞれの「性」は競技の強さに影響?
恋愛事情、家族・友達との人間関係はどうなっている?
アスリートの実体験から、「男らしさ」の呪いが解けない日本の姿が見えてくる。
入門書やヘイト本では読めないトランスジェンダー選手の本音も!
\「男らしさ」に悩まされるLGBTQアスリートたちの実話/
●「カミングアウトは自殺と同じ」と語った地方育ちの陸上部男子の恋愛
●女子野球選手は「性別適合手術」のために引退を決断した
●チームワークを乱さないようにゲイであることを隠したサッカー部男子
●男子フィギュアスケーターが男女ペアのアイスダンスに大苦戦
●女子剣道部の道場で「女らしさ」から逃れられたレズビアン
●元野球少年のトランスジェンダーが女子プロレスレスラーに完敗
【目次】
第1話 「かなわぬ恋」を駆け抜けて
第2話 ワン・フォー・オールの鎖
第3話 氷上を舞う「美しき男」の芸術
第4話 闘争心で「見世物」を超える
第5話 「女らしさ」からの逃避道場
第6話 あいまいな「メンズ」の選択
第7話 「大切な仲間」についたウソ
第8話 自覚しても「告白」できない
第9話 強くて、かわいい女になりたい
〈対談〉田澤健一郎×岡田桂 LGBTQとスポーツの未来を探して