第1回PTA全国組織「日P」に激震 元幹部逮捕で会計管理の甘さ浮き彫り

PTAとお金

浅田朋範 小林未来 杉原里美

 各小中学校に存在するPTA。その全国組織である「日本PTA全国協議会(日P)」が揺れている。

 7月12日。日Pの事務局幹部2人が懲戒解雇になった。関係者によると、不正な会計処理が疑われて出入り禁止になっていたはずの元幹部を日常的に事務局に出入りさせ、便宜を図っていたことなどが問題視された。

 この元幹部とは、5日後の17日に埼玉県警が背任容疑で逮捕した青羽章仁被告(54)=8月7日に背任罪で起訴=のことだ。

 起訴状によると、青羽被告は、日Pが2022年に発注した所有ビル「日P会館」(東京都港区)の雨漏り工事にからみ、自らの利益を得る目的で工務店に代金を水増し請求させ、日Pに約1205万円の損害を与えたとされる。本来の見積価格は約673万円だったにもかかわらず、工事代金は計約1878万円になったという。さいたま地検は青羽被告の認否を明らかにしていない。県警は、青羽被告が水増し分を自身が関与する会社を通じて受け取ったとみている。

 青羽被告は工事発注当時、「参与」という肩書で事務局を事実上統括していた。県警によると、工事の発注先は、青羽被告と知人関係にあったとみられる、さいたま市内の工務店だった。

 日Pには都道府県と政令指定市のPTA協議会・連合会60あまりが加盟している。これらの組織に連なる全国のPTA会員は約720万人(23年度)。全国の保護者らが支払うPTA会費は、都道府県や市町村のPTAを通じ、児童生徒1人あたり10円が日Pに納められている。年間予算規模が1億5千万~2億円近くになる公益社団法人だ。

 「公益性」が認められた法人でありながら、今回の事件からは日Pの会計管理の甘さが浮かび上がる。

 日P側は昨年、雨漏り工事について、実際に工事を始めると複数箇所に腐食が見つかって追加工事を繰り返したため、見積もりより大きく上ぶれしたと、取材に対し説明していた。エアコンの入れ替えなども同時に行ったため、当初予算では30万円程度しか計上されていなかった「修繕費」が、決算では約2千万円にふくらんだという。

不透明な工事費の膨らみ 内部からも疑問の声

 日P幹部の一部からは、当時から修繕費のふくらみ方を疑問視する声があがっていた。工事発注当時の日P会長だった金田淳氏(52)は、23年6月の総会で、不透明に支出がふくらんだことを会員らに陳謝。雨漏り工事は必要だったとしつつ、「意思決定プロセスに問題があった」と経緯の調査を表明した。

 だが、金田氏は同年7月、事務局員へのパワハラなどを理由に会長を解任された。金田氏は9月、文部科学省で記者会見を開き、「身に覚えのないパワハラをでっち上げられた。支出の調査を表明した自分への圧力だ」などと主張。雨漏り工事についても、「決裁していないのに勝手に公印が押され、知らない間に工事が始まっていた」と述べた。工事は青羽被告による事務局主導だった、とした。

 一方、金田氏を解任した日P執行部側は金田氏と同日に日P会館で記者会見を開き、青羽被告への聞き取りなどをもとに、「工事前に見積書を金田氏に示したところ『1千万以下でできるなら問題ない』とのことだった」「事前に理事会で工事を進めると報告した」などと説明。金田氏の主張を真っ向から否定した。

事業ごとに漫然と支出 役員同士の調整もせず

 だが、会計管理の甘さは、刑事事件になった修繕費の問題だけにとどまらない。

 22年度決算では、修繕費も含め、計約4700万円もの赤字を計上。広報紙の発行事業など印刷費の赤字が約1700万円、旅費交通費や会議費も数百万円規模の赤字になった。関係者によると、印刷費の赤字は、広報紙の発行を年2回から年3回に増やしたことを担当者が把握しておらず、広告協賛が取れなかったことが原因という。

 日Pの23年度の執行部は、今年1月の朝日新聞の取材に対し、「年度途中で収支をチェックしておらず、それぞれの事業で支出が積み重なってしまった」と説明。公益社団法人としての特殊な決算方法があり、「赤字が1千万円くらい出るのは当たり前の団体だった。繰越金まで減っていく状況はあまりなかったため、把握していなかった」と釈明した。

 取材に同席していた青羽被告は「活動が減ったコロナ禍で毎年1千万~1500万円の黒字が出て、コロナ明けにしっかり予算を執行しないといけない雰囲気があった」と語った。各事業を担当する役員が支出額を確認せず、青羽氏が「実権」を握る事務局任せで漫然と支出した結果、赤字の総額を幹部らが把握できたのは、年度決算の直前だった。

 日Pのガバナンスに疑問をもつ会員の一部は、昨夏、法律にもとづいて会計書類などの閲覧を請求したが、日Pはこれまで応じていない。会員の一人は「このままでは信頼を取り戻せない。日Pの今後の姿が見えず残念」と話す。

「信頼回復に向けて努力」日Pの新執行部

 一方、日Pは23年度から、役員や税理士らでつくる「財務ワーキングチーム」を立て直し、予算に対する支出状況や残金などを年度途中で定期的に把握していく体制にしたという。23年度に会長を務めた後藤豊郎氏は今年1月の取材で、「会員のみなさんから集めているお金が日Pのベースであり、今後は是正していく」と強調した。

 日Pは青羽被告逮捕後の7月26日、取材に対し、書面で回答。一連の問題を受けて、建物の中期修繕計画のガイドラインを作ったり、理事の職務権限について内規を改定したりしたとする。会員からの情報閲覧請求についても、「捜査が落ち着いた段階で法律にのっとり応じる」とし、「再発防止に向けて、組織ガバナンスの強化を図り、信頼回復に向けて努力する」とコメントした。(浅田朋範、小林未来、杉原里美)

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 不透明な会計処理、流用や横領……。保護者と教職員が加入する任意団体のPTAで、お金の問題が相次いでいます。なぜ、保護者らが払った会費が不適切に使われてしまうのでしょうか。

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