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量子コンピュータ

現行のコンピュータとは桁違いの計算速度を持つ「量子コンピュータ」の開発競争が、今、加速しています。
IBMやGoogleといった巨大IT企業に加え、各国の研究機関やスタートアップも、
2020年代に入って新たな技術やマシンを次々に発表。国内でも複数の大学や研究機関が研究を進めており、
また、量子コンピュータの商用化に向けた産学連携の新会社も立ち上がります。
量子コンピュータが広く使われるようになる日は近いのか。その“現在地”について解説します。

文/近藤 雄生

世界中で加速する開発競争

2017年にも本コラムでは「量子コンピュータ」を扱いました。その頃、量子コンピュータの実現はまだ何十年も先だろうと考えられていましたが、それから7年ほどの間に、この技術は、当時想像されていた以上の発展を遂げてきました。

量子コンピュータの発展の指標の一つは、「量子ビット」(詳しくは後述)の数ですが、この分野をリードするIBMが2019年に公開したプロセッサー「Falcon」の量子ビット数は27でした。その後IBMは毎年、その数が2倍またはそれ以上になるプロセッサーを発表し続け、2023年末には1,121量子ビットの「Condor」を発表。2025年には4,000量子ビットを超えることを目指しています。

国内でも、複数の大学や研究機関で研究が進められてきました。2023年3月には、理化学研究所や富士通、NTTなどが共同で開発した64量子ビットのマシンが国産初の量子コンピュータとして公開され、2024年度には、量子コンピュータの商用化を目指す産学連携の新会社が、分子科学研究所と、富士通、日立製作所、NECなどの約10社によって立ち上げられる予定です。また、イギリスのスタートアップ「Oxford Quantum Circuits Limited<オックスフォード クァンタム サーキッツ社>(OQC)」※1は、東京都内のコロケーションデータセンターに32量子ビットのマシン「OQC Toshiko」を設置し、2023年11月から、全世界に向けた商用提供を開始しました。

2017年にはまだ遠い未来の話のようだった量子コンピュータは、今、着実に実用化に向けて歩を進めています。この技術は間もなく、私たちの生活の中へと入ってくるのでしょうか。

「重ね合わせ」と「もつれ」という特徴

量子コンピュータの計算速度は、現行のスーパーコンピュータの1億倍とも言われます。つまり、現在約3年2ヵ月かかる計算を1秒で終える能力を持つということです。なぜ量子コンピュータがそんなにも速いのか。そのカギを握るのが「量子ビット」です。

量子ビットは、量子コンピュータにおける情報の最小単位であり、従来のコンピュータの「ビット」に相当します。その最大の特徴は、従来のビットが「0」か「1」のいずれかの値を取るのに対して、同時に「0」でもあり「1」でもあるという「重ね合わせ」の状態を取ることができる点です。この性質によって、例えば、量子ビットがn個あれば、2のn乗個の状態を一度に並列的に計算できるため、従来のビット(2のn乗個ある状態を1つずつしか計算できない)とは比較にならないほどの速度を得ることが理論上可能となるのです。

また、重ね合わせの状態にある2つ以上の量子ビットが互いに影響を与え合う「量子もつれ」という性質を持つようにできるのも、もう1つの重要な特徴です。この性質によって量子ビットを効率的に操作することが可能になります。

この2つの性質は、いずれも原子や分子の世界では実際に生じている量子力学的な現象です。その現象をいかにして計算に使える形にするか、つまりどのような方法で量子ビットを実現するかが量子コンピュータ開発の肝であり、その方法の違いによって、現在、複数の異なる方式のマシンが開発されています。

  1. 特集で、Oxford Quantum Circuits Limited(OQC)とCTCの特別インタビューを掲載しています。
出典:Best Engine Vol.15

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