麻生氏「どうなるか分からねえ」前例なき総裁選、派閥政治の行く末は

自民

小手川太朗

 自民党の派閥で唯一存続を決めている麻生派が、9月の総裁選で岐路に立たされそうだ。派内から河野太郎デジタル相(61)が出馬の意向を固めるなか、領袖(りょうしゅう)の麻生太郎副総裁(83)は、一致団結して「数の力」による派閥の存在意義を示したいのだが……。

 岸田文雄首相(67)が総裁選への不出馬を表明した14日夜、麻生氏は東京・赤坂のステーキ店で茂木敏充幹事長(68)との会食に臨んだ。

 「うちには河野がいるから支援は出来ない」。麻生派の関係者によると、かねて総裁選出馬に意欲を示してきた茂木氏に、麻生氏は派として支援できない考えを伝えたという。河野氏は麻生氏に出馬の意欲をすでに伝達済み。派閥会長として、河野氏の意向を無視できないというわけだ。

 その2日後の16日、麻生氏は東京都内で河野氏と面会した。関係者によると、政権構想や総裁選戦略を説明する河野氏に対し、麻生氏は「派閥で話してみる。派閥内の支持をまとめられるように頑張れ」と言い、出馬に一定の理解を示したという。

 麻生氏は派閥政治を愛し、派閥による「数の力」を武器に党内での影響力を持ち続けてきた。麻生派は、河野氏の父で元衆院議長の河野洋平氏が率いる河野派を事実上引き継ぐ形で2006年12月、15人の小所帯で発足。加入者を増やしたり、山東派などと合流したりして、現在は54人を誇る。裏金事件で各派が解散を決定する以前の段階では、99人の安倍派に継ぐ第2派閥として存在感を持っていた。

 派閥は、党の正式な組織ではなく、国会議員の一定の固まりを作る非公式の中間組織に過ぎない。だが、麻生氏は若手議員の教育や政策提言の場として重視し、裏金事件後も存続を決めた。それだけに、派閥幹部は「今回の総裁選は派閥の存続意義に関わる。一致団結する必要がある」と語り、派内の引き締めを図る構えをみせる。

 とはいえ、今回の総裁選で、唯一の派閥としての結束は難しいのが現状だ。

 前回21年の総裁選でも、河野氏は、麻生氏が「準備不足だ」と制止しても折れず、最終的には麻生氏を根負けさせる形で出馬を強行。派内のベテランは河野氏に反発し、河野氏支持でまとめられないことから、派として「自主投票」を決めた。ベテランを中心に岸田氏の支援に回り、河野氏は若手・中堅から30票程度を集めたものの、決選投票で岸田氏に惨敗した。

 河野氏は2度目の挑戦となった前回でも、総理総裁の座に届かなかった敗因を派閥の支持を得られなかったことだと分析。3回目の挑戦となる今回に向け、麻生氏を含む同派幹部との関係構築に努めてきた。派内から批判が多かった持論の「脱原発」を完全に転換した。

 それでも、河野氏と距離のある議員はいまだ少なくない。その代表格が甘利明前幹事長(74)だ。前回総裁選で岸田氏を支援した甘利氏は、二階派の小林鷹之前経済安保相(49)を評価し、周囲には「彼は素晴らしい。政策実現能力が高い」と絶賛する。麻生派内では甘利氏に近い議員や、若手・中堅議員にも小林氏を推す動きがあり、「54人が結束して河野氏に乗るのは考えづらい」(重鎮)との見方が強い。

 とはいえ、麻生氏が河野氏への出馬に一定の理解を示したことで、河野氏は派内を中心に20人の推薦人のめどがついたとみられる。一方、麻生氏側近は「1回目の投票で国会議員票が派閥人数に届かなかったら、麻生氏が恥をかくことになる」と懸念し、頭を悩ませる。

 自民党は1955年11月、自由党と日本民主党の保守党同士が合同することで生まれた。ただ、総裁の選出方法で議論は紛糾し、鳩山一郎、緒方竹虎、三木武吉、大野伴睦各氏の集団指導体制でスタートせざるをえなかった。

 麻生氏はこうした歴史を挙げ、周囲にこう語る。「集団指導体制は派閥の発祥だ。つまり総裁選のために派閥は生まれた。派閥のない中で総裁選なんてやったことがないから、どうなるか分からねえな」。9月の総裁選で、唯一存続を表明する麻生派が存在感を示せるかどうか。前例なき総裁選は、結党以来、派閥によって支えられてきた党の行く末を大きく決定づけることになるかもしれない。(小手川太朗)

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自民党総裁選挙2024

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