特集

『韓国のイーロン・マスク』Olive Union ソン・オーウェン氏 ~きこえ(聞こえ)の社会課題を解決する~

oliveunion ソン・オーウェン

みなさん、自分の耳の「きこえ(聞こえ)」について考えたことはありますか?株式会社Olive Unionのソン・オーウェン代表(以下、オーウェン)の開発した『Olive Smart Ear』は、人々の耳の聞こえをよくする、聞こえについて考える、新しいヒアラブルデバイスです。

『韓国のイーロン・マスク』とも呼ばれるオーウェン氏が引っ張り、スタートアップ企業としても急成長を遂げる株式会社Olive Union。社会課題を解決しながらビジネスとしても大きく成長する企業として注目のオーウェン代表に、「きこえ」の課題、その解決への想いを伺いました。

片耳難聴を抱えるJリーガー町田也真人の「聞こえ」との向き合い方片耳難聴でありながら、Jリーグの第一線で活躍する町田選手と革新的なヒアラブルデバイスを開発するOliveUnion。「聞こえ」という共通ワードを持つ、両者の対談企画がOliveプレゼンツで実現しました。それぞれの立場から社会に対して自分たちに何が出来るのかを語られるインタビューになりました。...

家族を助けたい~Olive Smart Ear開発のきっかけ~

ーーオリーブスマートイヤー開発のきっかけを教えてください。

オーウェン)事業のきっかけとなったのは家族、特に叔父がきっかけでした。
私がコロンビア大学院で学んでいたときにサポートをしてくれていた叔父は、難聴の状態でしたが補聴器をあまり好んでつけていませんでした。叔父の「きこえ」を助けてあげたいと思い、根っからの開発者であった私は補聴器について調べるようになったのですが、調べる中で、製品に関してあまり高価なパーツが使われていないことに気づき、開発をすることにしました。こうした、『人を助けたいという想い』がきっかけです。

ーーありがとうございます。身近な人のために、という想いが製品の開発につながったのですね。

たった14%の日本の補聴器普及率

ーーOlive Unionさんが考える「きこえ」に関する社会課題っていうのは、実際どういったものなんでしょうか。

オーウェン)「きこえ」に関する課題は大きく分けて二つあると思います。一つは市場の話と、一つはソーシャルスティグマ(社会的な偏見)です。
まず、市場についてです。世界各国の補聴器市場というのは大きないくつかの企業の寡占状態になっています。消費者と企業のアンバランスなパワーバランスが働いてしまうことにより、『消費者が自由に選べて自由に買うことができない』『補聴器について満足できていない』という問題があります。消費者の満足が十分でないということもあって、日本においては補聴器の普及率はなんと14%しかありません。
アメリカでの補聴器普及率は25%です。今後、世界的に難聴もしくは聴こえに課題を持つ人の数は増えていくと思うのですが、必要な人の数に対して市場のバランスが取れていないという点が課題だと思っています。

Owen

オーウェン)2つ目は、ソーシャルスティグマ(社会的な偏見)です。
昔は、目が見えないことは病気として捉えていましたが、現在ではメガネはおしゃれなアイテムの一つとして、自由に選ぶことのできる物になりました。たくさんの企業がメガネの市場に参入してきたことによって価格破壊が起き、そしてデザインや価格が変わってきたことが理由の一つであると思います。
まだ「きこえ」に関しては、「目が見えない」ことに比べ、そういったソーシャルスティグマがあるということも課題であると思っています。

ーーたしかに、メガネは人によって補正の度合いが違うと同時に、デザイン性でも選ばれていますね。耳の聞こえに関しては、自身の状態について知る、ことすらまだ社会として考えられていませんね。

「きこえ」について知らない

ーー人々の中で、自分が難聴だと気づいていない、理解していない方もいると思うのですが、そういった点での課題はありますか。

オーウェン)病院やクリニックで指摘されるような方と、もしくは家族や近くの方たちから、聴こえに課題があるのではないかというように指摘をされて気づくという方もいらっしゃいますが、それ以上に「知らない」という方が多いです。知識がないことによって、聴こえていないことにすら気づいていないということです。
私たちはこの課題のために、消費者の方が「きこえ」に携わる機会を増やしていくのかが重要ではないのかなと気づきました。アメリカでは、聴力テストを無料で簡単に試していただけるような機会をECサイトで設けています。一方で日本では、9月1日から高価なデバイスを購入しなくても使用できるサブスクリプションモデルの提供を始めます。
簡単に試すことができて「きこえ」に関してより興味を持っていただけるように力を入れていきたいなというふうに考えてます。特に日本においては、とにかく触れる機会を増やしていけたらと思っています。

Olive SmartEar Plus

ーーご自身で気づいていないだけで、本当はよく聞こえていない人はいるのでしょうか?

オーウェン)私自身、自ら開発したそのアプリケーションでテストを行うと聴こえていない部分もあると感じることがあります。昨今、コンサートやフェス、常にイヤホンをしているなど耳の環境が変わってきたことによって、「きこえ」は現代社会の環境で危機的な状況に置かれていると思ってます。

ーーなるほど。だからこそ、テストができる環境であったりとか、自分の「きこえ」について知る環境を提供していかれるのですね。

家電大国であり超高齢化社会の日本の可能性

ーーOlive Union社が日本に進出されたきっかけはあるのでしょうか。

オーウェン)3つほどの条件があったかなと思います。
1つめは、アメリカで世界の家電市での出来事です。当社のブースに日本の大手企業の方々が連日訪れました。簡素な作りのブースであるにもかかわらず、非常に熱心に日本人の方が来ました。

2つめは、現在投資をしてくださっている株式会社LITALICOさんの存在です。障がい者支援をする企業の代表の方が、当社のブースになぜか毎日いらっしゃいました。私としては、当時はどういうことなのかなと思っていましたが。(笑)

3つ目は、コアマーケットとしての日本の市場の特徴です。市場について考えた結果、日本は超高齢化社会であるにもかかわらず、補聴器の普及率はわずか14%。しかしながら、日本における家電の消費率は非常に高いということで、このアンバランスさというものに対して、当社のコアマーケットがあると考えました。マーケット的な観点からもビジネス的な観点からも、日本の市場に見込みがあるというふうに考えて日本に進出を考えました。

お客様を大切にしたいからこそ社会に貢献がしたい

ーー日本における社会貢献への意識はどのように感じていらっしゃいますか。

オーウェン)社会課題という点で考えると、私たちが行うことは、大企業のCSRの取り組みとは少し違うのではないかと思ってます。「きこえ」の課題というのは、人生において本当に必要であるものなので、企業としてやっていることが、社会課題の解決になっていると思っています。ただ、韓国では既に一定の施設に対して寄付をさせていただく形での社会貢献をしており、日本でもそうした活動にも継続してより力を入れていきたいと考えています。
なぜなら、やはりお客様からの声があって、当社は大きくなってきています。「お客様を大切にしたい」という気持ちを持って企業に取り組むことが、結果的に社会課題の解決に向かわせている原動力だと思っています。

ーーお客様とともに会社を成長させていくという考え方は、オーウェンさんご自身に元々あった考え方なのでしょうか。それとも、お客様に触れ合っていくことで出来上がった考え方なのでしょうか。

オーウェン)スタートアップが社会貢献に関わることは大変難しいことだとは思っています。その中で、当社は5年間で非常に多くの資金調達をいただいています。世界の投資の流れ、特にアメリカ国内では、インパクトファンドというものが既に行われています。そうした流れで、日本でもお客様のためになるように社会課題解決を図ることが、企業としての資金調達にも繋がってきています。そういった意味でも、当社がそこのリーダーカンパニーになって社会をリーディングしていくということが必要であると考えています。

Olive SmartEarPlus

社会課題を解決しながら企業を大きくしていく

ーー今後、Olive Union社が日本でよりマーケットを広げていくことで日本の社会にどう貢献していきたいというふうにお考えですか。

オーウェン)今はまだ、スタートアップが社会課題とともに事業を推移させていくという事例は少ないと思います。少ない中でも、TOMSという靴のブランドで、靴が買われるほどに売り上げの一部がドネーションされて、アフリカの子たちが裸足で歩かなくてもいいようにする取り組みをされている企業があります。このように、爆発的に大きな社会課題を解決しながらも、企業としても推移していった事例があります。
私たちも、社会課題の解決とともに一つのエコシステムを作っていきたいと考えています。企業がビジネスとしても存在しながら、かつ社会課題も解決するというようなサステナブルなビジネスとともに社会に貢献できたらいいなと思っています。

ーーありがとうございました!

編集より

「きこえ(聞こえ)」への意識。

考える、意識を向けることがあまりなかったであろう今回の話題に、皆さんはどう感じたでしょうか?

人々の生活習慣として、ここ数年でイヤホンを使う場面は昔に比べてかなり増えています。自分の「きこえ」に意識を向けなければいけなくなる時期がいずれやってくるかもしれません。まずはこの機会に、一度考えてみてはいかがでしょうか。

 

J-TEC 畠社長
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