法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『特集ドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」』

 今から十年前、公園から追い出されて神社の境内でスケートボードをやろうとした男子3人と、その境内に戦後から住み込みで管理人をしている老人の奇妙な出会いと、戦争の歴史の継承を描く。
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 終戦記念日放映のTVドラマらしく、戦争によりよるべを失った男の半生を、子供の目線で知っていくだけの定番の物語。原作は第69回小学館児童出版文化賞の受賞作で、あくまで語り口は子供向け。
 良くも悪くも早い時間にEテレで放送しそうな内容だった。過去のNHK特集ドラマは、戦時中の日本の愚かしさを生々しく描いてきたものだが。
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 美術セットやVFXの見せ場も少なく、舞台となるのは珍しくもない公園や境内、最後に講演をおこなう学校の体育館など。老人の「田中さん」が境内であたえられた貧相な住居が良かったくらい。
 戦争の記憶という本題に入るのも遅く、男子3人が協力して体育館での講演会に子供だけでこぎつける展開など、優等生すぎて鼻白むところはある。その回想も戦時中の描写はさほど珍しいものではなく、空中被害のセットも子供目線で小さい。
 戦争関係でひとつだけ良かったのは、講演の最後に質疑応答の時間をもうけて、あくまで被害者として戦争を語った老人へ戦時体制に加担した意識のありかを問う男子が出てきたことと、その質問が老人を傷つけるものだと認識して主催した男子が止めようとしたり謝ったりしたこと。この描写があるおかげでもともと日本が侵略してはじめた戦争を受動的な被害として認識する愚をふせぐことができた。
 どちらかといえば祭りの最中に老人の住居がスタッフの休憩所にされて老人が追い出された描写のように、何もかも失った老人が戦後にあたえられた居場所は不充分なものでしかなかったとわかる現在パートが印象的だった。これにより孤児を見捨てた行政の加害や、救済しつつも弱い立場にとどめた共同体の問題をえがいたドラマとして成立している。祭りがおこなわれるような神社のなかに半世紀以上も住みながら、りんご飴を食べたことがなかったりコーラが発泡飲料と理解していない老人の無知さも、そうした一般的な幸福との縁をつくれないまま日々をすごしたのだろうと理解できる。