山梨在住の女性Ｙ様から「冥土の土産に南米を見たい」とご連絡をいただいた。過去に、私は「金はないけど時間はある。国際免許もあるから、行きたい国がある方はボディーガードに使ってください」と書いた。それを見て、ご連絡をくださったのだ。南米に行ったことはない。行ったことのない場所は、どこでも行きたい。自分で行き先を決めるのも楽しいが、誰かに誘われて、行くつもりなんて全然なかった場所に行くことも楽しい。最初はエクアドル。九月十一日から、無期限で南米に行くことになった。

Ｙ様からのメールには、このようなことが書かれてあった。南米エクアドルに行きたい。最後に行ったのは２０００年だから、２４年前になります。飛行場の場所も変わり、全てが変化していることでしょう。家が売れたので、お金はあります。でも、今、６５歳になってみると、色々なことがぼんやりしてきます。乗り継ぎ、大丈夫かなぁとか、ドンドン自信が無くなります。オタバロ、先住民の色濃い民族衣装が素敵な所、そこで、民族衣装を着て、写真を撮りたい。６５歳の私と南米旅行をしてもらえるか？お尋ねしたい。圭吾さんの役割は、乗り継ぎの時、荷物をピックアップして、また、預ける。を忘れないで行うこと。老人が迷子にならないように、導く、車の運転手、という感じです。

私は「全然やりますよ〜！」と返事をした。そこから、あれよあれよと予定が決まり、結局、九月十一日あたりから共にエクアドルに行き、十日程度をかけてＹ様のやりたいことを全部やり、その後は坂爪圭吾の自由時間になることになった。Ｙ様から「好きな所に行ってこい」と言われた。マチュピチュもウユニ塩湖も興味がないことはない。だが、死ぬまでに絶対に見たいと言うほどの熱意もない。それよりも人である。これまでの人生、人に呼ばれて移動をする日々を過ごした。そのついでに、近くに観光名所があれば立ち寄る程度の生き方をしてきた。あくまでも、観光名所は人である。私はどこに行くのか。呼ばれた場所に、移動を続けたい。

英語は話せるが、スペイン語はからっきしだ。ブラジルやメキシコやエジプトや南アフリカにも興味があるが、ポルトガル語もアフリカーンス語もからっきしだ。金もない。金もないなら諦めるのが普通だ。だが、そんな普通の理由で諦めるのは悔しい。金があるから元気は普通。金も家も仕事もないのに元気なら、そいつの存在は脅威だ。私は脅威になりたい。何もない癖に、なんであいつは元気なのだと驚かれたい。自分で自分に驚きたい。自分の運命に驚かされ続けたい。南米に人のお金で行けるだなんて思ってもいなかった。何事も、言ってみるものである。だがしかし緊張。未知に飛び込む緊張。

南米で死ぬかもしれないから、最後の挨拶を両親にした。いままでありがとうございました。大変お世話になりました。みなさまのおかげで元気にすくすく育ちました。元気にすくすく死ぬかもしれませんが、私のお墓の前で泣かないでください。そこに私はいません。眠ってなんかいません。こっち（生）の旅が終わったら、あっち（死）の旅に向かうだけです。安らかになんて眠りません。あの世でも遊び倒します。そのようなことを言ったら、両親は「気をつけてね」とだけ言って、父親は釣りに、母親はパチンコに出かけた。今生の別れになるのかもしれないのに、反応の薄い親を見て「さすが我が親」と感動した。思い残すことも、やり残したこともない。残された数週間、日本で会える人は会おう。南米で会える人は、南米で会おう。