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第10回④ 中島 花音さん HPVワクチンを「打たなかった」高校生、医学部に入学後…

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

 当事者世代に向けたHPVワクチンの啓発を行う学生団体「若者にHPVワクチンについて広く発信する会Vcan」を立ち上げ、現在代表を務めている中島花音さん。その原点にあるのは、自身が無料でワクチン接種ができたはずの時期に「正しい知識がなかった」ことで接種できなかった経験だった。「知らないままで後悔してほしくない。」――その想いと、活動の原点に迫ってみた。

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中島 花音さん
産婦人科医を志す医学部3年。子宮頸がんの予防啓発を行う学生団体Vcanを立ち上げ、代表をしている。特に、HPVワクチンについて当事者世代が知らないことに課題意識を抱き、「予防手段を知らないまま、がんにならないでほしい」というメッセージを伝え続けている。現在、メンバー全員のQOLとやりがいを維持しながらプロジェクトを進める方法を模索中。趣味はジャズバー巡りとハイキング。好きな場所は瀬戸内。

HPVワクチンへの
無知が生んだ“先延ばし”

 「がんは自分には関係のない、遠い存在だと思っていたので、HPVワクチンを接種しようと当時は思いませんでした。」

 無料接種の対象年齢だった小学6年から高校1年までの時期には、HPVワクチンについてあまり自分事としてとらえることはなく、「判断を親に任せてしまっていた」と話す中島さん。

 副反応の報道を心配した中島さんのお母さんの判断により、気づいたら接種時期を逃してしまったという。

 しかし、中島さんが大学生になる時、すでにHPVワクチンを接種していたお姉さんから、あるエピソードを伝えられた。

 「産婦人科の先生が『自分の子どもにはHPVワクチンを接種させたいと思う』と話していたと、医学生の姉が教えてくれて。HPVワクチンには医学部入学後から興味を持つようになりました。」

 こうして医学部に入学した直後から、中島さんはHPVやワクチンについて自身で調べるようになった。そしてメリットとデメリットを吟味したうえで、自費でのワクチン接種を決める。当時は自費額が5万円だったワクチン。「もっと早く知っていて、無料で打つことができていたら…」そんな思いを募らせていた。

「え、どうして?」
学んで気づいた、驚きの事実

 医学部での公衆衛生の講義や自身で調べたことから少しずつ知識を深めていった中島さん。その中で、子宮頸がんやHPVに関する知識が、同世代では医療系学生や医療者の間でのみしか共有されていないことに驚きを隠せなかった。

 「どうしてこのような知識が同世代の多くの人に共有されていないのか、疑問に思いました。」

 またその当時、中島さんは学生の力で課題解決をする学生団体でも活動していたが、「当事者意識を持つ、課題を自分事として考える」ことがなかなかできずに悩んでいた。

 そうした中で、「HPVワクチンの啓発なら、自分事の課題としてとらえることができるし、この課題を解決することでほかの人の役に立つことができる」と思い至る。これをきっかけに、同様の課題感を抱いていた先輩とともに、同世代に対してHPVワクチンの啓発活動を行う学生団体Vcanを立ち上げることとなる。

さまざまなアプローチでの普及啓発

 Vcanの活動のベースには、3つの主な軸がある。

 1つ目は、SNSやホームページでの発信活動。
 情報発信では、「ただ情報を伝えるだけでなく、相手に伝わり、行動変容につながる情報発信になっているか」を意識しているという。

 「例えば政府などもHPVに関して情報発信をしていますが、どうしても『堅苦しい』『読みにくい』と敬遠されてしまうことも多いんですよね。情報を取り入れたいと思ってもらえるような親しみやすいデザイン・色使いで発信することを心がけています。」

 しかし、オンライン上の啓発・発信ではそもそも情報にアクセスしたいと考えている人しかたどり着けないという弱点がある。

 この弱点を補うために行う2つ目の活動が、「全国中高ツアー」である。
 これは、医学生が全国に赴き、中学生・高校生を対象に、子宮頸がん・HPVワクチンをテーマにした講義やワークショップを行う活動だ。
 年齢も中高生に近い医学生の立場から伝えていくことで、近い存在と思ってもらいながら、双方向でコミュニケーションをとっていく活動を広げている。

 また、最近始めた取り組みとして、団体の知名度を伸ばすためのクラウドファンディングにも挑戦している。ここでは、より多くの人にHPVについて知ってもらい、知り合いの輪からHPVについての正しい知識を広めていくことで、キャッチアップ接種世代に情報を届けることを目指している。

自分が経験したからこそ、目指したいのは

 普及啓発活動に精力的に取り組む中島さんに、活動を通じて目指していきたい社会について聞くと、2つの答えをあげてくれた。

 1つ目に、ワクチンを打つ・打たないという選択を自身でできる社会。

 「知らなかったから打てなかった」のではなく、若者全員が主体的に考え、自分で判断できるようになってほしい。現状、無料で接種できる小6~高1の世代はどうしても意思決定に親からの意向が反映されがちだが、そうした中でも親との話し合いの場を設け、子どもたち自身も意思決定に参加できるような社会を作っていきたいと語る。

 そのためにまず「知る」機会としてVcanの活動を広め、同時に「自分で考え、決める」ことの大事さを伝えていくことに取り組んでいる。

 2つ目に、SNS上での誹謗中傷のない、あたたかい社会。
 HPVワクチンに限らず、ワクチンに対しては否定的な見解を持つ人も一定数おり、SNS上でしばしば論争が起きていることに中島さんは心を痛めているという。
 ワクチンを打つ・打たないの選択がどちらも尊重され、争いのない社会になってほしいと思いつつ、現在は対立を起こさないような発信について模索している。

医療者に伝えたいこと

 自分の性格について、「良くも悪くも、人の役に立つことが大好きな性格」と話す中島さん。

 「HPVワクチンの啓発に関しても、自分が何かしなければ、同世代や次の世代に子宮頸がんで苦しむ人が生まれてしまうかもしれない、困っている人を見つけたらなんとかしてあげたい、という思いが行動のモチベーションになっています。」

 今後は団体の活動基盤をより強いものにしていき、「HPVワクチンの啓発やVcanが最終的には必要なくなるような社会」を作っていきたいそう。「色々な風を吹かせる」ことを自身のテーマとして掲げ、より効果的に医療啓発を行うためのコミュニケーション・デザインなども学んでいる。

 最後に、同世代の医学生や若手医師に伝えたいメッセージについて伺った。

 「医療者自身が、周りの人にHPVワクチンについて啓発するプレーヤーになっていただけたらと思います。男性にも関係があるということももっと知られてほしいですし、ご自身の家族や友達、パートナーなどといった周囲へ話してみることから始めてみてほしいと思います。」

 「同世代や未来の世代に子宮頸がんで苦しむ人を生み出したくない」という思いから、精力的にHPVワクチンの啓発活動に取り組む中島さん。
 同じ医学生、女性として、当日にどんなお話が飛び出してくるのかとても楽しみだ。

取材・文:横浜市大医学部4年 印南麻央

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。

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