弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としており、依頼者の権利・正当な利益を実現することを職責とし、法律制度の改善にも努めなければならない(弁護士法1条)。
そのため、個々の事件の相手方との間で意見が対立することはもちろんのこと、実現しようとする法律制度の議論の過程においても見解が大きく相違することは、当然にある。このように意見が対立した場合、相互に主張を出し合って議論を尽くすことにより、当事者の正当な利益を守ることができ、相互の意見を取り入れた有益な法律制度を実現することができる。従って、意見を表明し、その意見を踏まえて議論を尽くすという活動は、最大限尊重されなければならない。
ところが、弁護士の中には、相対立する立場の者や異なる考えをもつ者から、正当な意見表明とは言い難い攻撃に晒される経験を持つ者がいる。生命身体へ危害を加えることの告知を受けるなどの脅迫行為を受けたり、インターネット上で誹謗中傷を受けたりする例なども報告されている。また、弁護士に対する攻撃手段として懲戒請求が用いられることもある。
これらの攻撃は、自身の紛争を有利に進めるため、相手方の代理人である弁護士を対象としてなされたり、自身とは異なる考え方に基づき法律制度の改善などを主張する弁護士を対象としてなされたりする。
そして、これらの攻撃は、離婚や男女関係事件に関係して行われることが多く、アンケートなどによって業務妨害の実態が明らかとなっている。
このような脅迫行為、誹謗中傷行為は、民事上の不法行為や刑事罰の対象になることもあり、また、懲戒請求は「何人も」行うことができると定められているとはいえ、弁護士に対する理由のない懲戒請求は、民事上の不法行為のほか、虚偽告訴罪として刑事罰の対象にもなりうるものであって、到底許されるものではない。
そして、このような攻撃を受けた弁護士が、弁護士としての活動を躊躇するようなことになれば、守られるべき者の権利や正当な利益が擁護されず、あるべき法律制度に向けての議論が萎縮することにもなりかねず、ひいては市民や社会に甚大な不利益を及ぼすことにもなる。
当会は、個々の弁護士が基本的人権を擁護し、社会正義を実現するという使命を全うできるよう、特定の弁護士に対する卑劣な業務妨害行為を許すことはできない。このような妨害は、弁護士全体や市民・社会への挑戦とみなし、妨害者に対抗するための必要な支援を惜しまない。
2024年(令和6年)8月15日
愛知県弁護士会
会長 伊 藤 倫 文