「誰がこの性差別キャンペーンを始めたのか」ボクシング女子の“性別”めぐる議論…なにが問題?──LGBTQ選手“過去最多”でも課題残るパリオリンピック
■「ルール違反をして出場したわけではない」ボクシング女子で金メダリストの“性別”をめぐり議論
報道局ジェンダー班 庭野めぐみ解説委員
「まずはボクシング女子の話題です。去年の世界選手権の性別検査で出場資格がないとされた2人の女子選手、アルジェリアのエイマヌン・ハリフ選手と台湾の林郁婷(女へんに亭)選手がそれぞれの階級で金メダルを獲得しました」
報道局ジェンダー班 白川大介プロデューサー
「この件がSNSで話題になって、急遽8月2日の『news every.』と『news zero』で伝えようとなりまして、ジェンダーとスポーツが専門でいらっしゃる中京大学の來田享子教授に話をききました」
庭野解説委員
「2人の選手は正式に出場資格があったということですよね?」
白川プロデューサー
「そうです。パリ大会では、ボクシングの競技団体であるIBAがガバナンスの問題で競技を統括する資格を取り消されているので、ボクシングに関してはIOCが運営を担うということで今回実施されたんですね。そのIOCが定めたルールにのっとって、出場資格があると認められているのがまず厳然とした事実であると。お2人の選手がルール違反をして出場したわけではないというところを來田教授は強調していました」
■「“テストステロンが高ければ筋力が強い”とは一概に言えない」
庭野解説委員
「IBAの声明が議論のきっかけになったそうですね」
白川プロデューサー
「2人の選手に対して、前回の世界選手権で行った性別検査の結果、女子競技に参加する条件を満たさなかったなどと発表しています。來田教授はこのことについて、『選手の人権を守るべきIBAが、昨年の検査について本人の了解なく公表したことは、競技団体として非常に問題のある行為』だとしています」
白川プロデューサー
「一般論として、男性はXY、女性はXXという遺伝子を持っていることが多いんですが、すべての人がその2つに必ずしも区別されるわけではありません。遺伝子以外の要因も含めて、性に関する身体の発達には、典型的な男女の発達とは違ういろんな人がいることが今の医学では分かってきています。こういったことを『性分化疾患(DSDs)』と呼ぶんだそうです。そして身体の性の発達の多様性というのは、スポーツに影響を与える場合もあれば、そうでない場合もあると。來田教授は、DSDsの人に関してもルールの規定の中で競技にきちんと参加できるように考えていく必要があるとおっしゃってました」
庭野解説委員
「スポーツにおける男女のカテゴリー分けに利用される指標のひとつとして、男性に多いとされているホルモンの1種であるテストステロンというのがありますが、テストステロンが高ければアスリートとして有利ということになるんでしょうか」
白川プロデューサー
「來田教授によれば、“テストステロンが高ければ筋力が強い”とは一概に言えないそうなんですね。アメリカのアスリート約690人を対象とした調査がありまして、そのデータで男性のエリートアスリートのテストステロンを測ったときに、一般的な男性の値よりも“低い人”がすごくたくさんいたんです」
「テストステロンの話では、この値が高い女性やトランスジェンダー女性などの話題が出ることが多いんですが、値が低い男性、つまり不利とされるはずの男性がいることはあまり問題視されません。しかし実際は、有利になる人も不利になる人もそれぞれだと來田教授は強調していました。ただ、このデータはアメリカのアスリートのデータで、日本国内ではまだデータが取られておらず、このデータをそのまま日本のアスリートに適用できるかはまだわからないともおっしゃってました」
■熱狂をシェアしたい!…その投稿が選手を傷つけることも
白川プロデューサー
「ロイター通信などによりますと、ハリフ選手の弁護士は10日、インターネット上で選手がひぼう中傷を受けたとして、パリの検察庁に告訴したことを明らかにしました。この弁護士は自分のSNSで、『捜査で誰がこの性差別キャンペーンを始めたのかを明らかにし、このインターネット上での集団暴力をあおった人たちについて調べなければならない』と主張し、『ボクシングのチャンピオンが受けた不道徳な嫌がらせは、このオリンピックで最大の汚点であり続けるだろう』と訴えています」
「來田教授におききしましたが、国や文化、その選手が生きている環境によっては、性の多様性に必ずしも寛容ではない状況も思い浮かべなければいけないと。特に、事実に基づかず、曖昧な情報をもとに『あの人はトランスジェンダーなんじゃないか』とか『不公平なんじゃないか』と決めつけるというのは、人権の観点から問題があるということです」
庭野解説委員
「もちろんトランスジェンダーの人に差別的なことはするべきではないと思いますけど、安易に『トランスジェンダーだ』みたいなことを流布するべきではないですね」
白川プロデューサー
「ハリフ選手がトランスジェンダーではないというのはIOCも言っていましたし、SNSで間違った情報を拡散していたケースも非常に多くありました」
庭野解説委員
「女の子として生まれて、パスポートも女性で、女性として育ってきた彼女が女子選手として活躍しているということですもんね」
「オリンピックは関心が高いだけに、いろんなことを言いたくなったり、共有したくなったりするんですが、その一言がどれだけ選手を傷つけるかを自覚しないといけませんね」
白川プロデューサー
「今回『SNSの投稿を選手がどう受け止めるか』ということについて日本選手も含めていろいろと議論があったと思います。やはりスポーツって熱狂して、アドレナリンが出た状態でつい投稿したくなってしまう。そうやってSNSで勝った喜びをシェアしたり、健闘を称えたりする気持ちはもちろんわかるんですけれども、批判的なこと、マイナスのことを投稿する前にはちょっと頭を冷やした方がいいんじゃないかというのは、この件に限らず感じました」
■LGBTQ公表選手は過去最多 その約9割が…
庭野解説委員
「白川さんはオリンピックについて他にも取材をしたんですか?」
白川プロデューサー
「LGBTQアスリートを専門とした『アウトスポーツ』というアメリカのウェブメディアがあって、共同創設者のジム・ブジンスキさんをリモートで取材しました。1999年にジムさんを含むゲイ男性2人が創業したメディアで、彼らにとっての最初のオリンピックは2000年のシドニーオリンピックなんですけれども、この時に性的マイノリティーであることを公表して出場した選手は7人だったそうです。それが、今回のパリオリンピックでは8月13日時点で198人、過去最多を更新しました」
「バスケットボール女子ではアメリカのチームが金メダルをとったんですが、バスケットボール女子のアメリカ代表チームはメンバーの過半数がLGBTQ当事者ということです」
庭野解説委員
「過半数だということがもっと知られると、勇気づけられる人もいますよね。公表するアスリートにはなにか傾向はあるんですか?」
白川プロデューサー
「本人の性自認が例えば『ノンバイナリー』などという場合もあるので、必ずしも一致しているわけではないんですけれども、“男子カテゴリー”で出場する選手と“女子カテゴリー”で出場する選手それぞれにLGBTQを公表している人数をカウントすると、“女子カテゴリー”で出場する人が男子の8倍から9倍ぐらいと、圧倒的に女性に偏っているということです」
庭野解説委員
「男性の方が表明しにくい事情があるということですか?」
……
(続きはPodcastで)
日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。
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